いいあい
藤光は衰弱している矢鷹を抱えその場をさろうとするが、二人を取り囲む妖怪達は退く気はない。
「どいて欲しいんだけど?」
妖怪相手に笑顔で言うが従うはずはなく、それどころか隙間なく徐々に近づいてくる。
オイテイケ モウスグ モウスグ モウスグ モウスグ
一体の妖怪がそう言うと他の妖怪も騒ぎ出し始め静かにする様子は無い。
「あーあだから下級の妖怪は嫌いなんだ…自分勝手で話を聞かない…はぁー弱いなら地面を這いつくばってな」
藤光は矢鷹を抱きながら呪文のように唱え出すと妖怪の動きが止まり力が抜けその場に倒れ込んでいく。
今のは…なに…
一瞬の出来事に矢鷹は驚き藤光を見つめる。
「さぁ行こうか」
目が合い優しく笑う藤光は倒れ込む妖怪の間を通り終えるとわざわざ振り返る。
「相手を知るのは大切な事…下級さん達」
抱き抱えながら真っ直ぐ前を見る顔を下から見つめる矢鷹は藤光の着物をぎゅっと離れぬように握りしめ意識が途切れたのだった。
揺れ動く列車の中、眠る藤光のハットは落ち矢鷹はすぐに拾うと近くのテーブルに置く。ハットで隠れていた無防備の顔は起きる気配はない。
久しぶりにあなたに会えたからか…思い出すなんて…
フッと少しだけ微笑むように藤光を見つめていたが、鋭い矢鷹は藤光の隣に座る春花を見るといつの間にか目を開けボーッと矢鷹と目が合うがお互い無言のまま。
この人…誰だっけ…
目を擦る春花は数秒そんな事を考えていると次第に脳が起き始め眠る前のことを思い出す。
「ここはどこ?」
窓を見るが、ものすごい速さで景色が変わり行く。
「ここは列車の中…?何で…あっ満月は?……あれ…」
窓から月を探すがあるはずもなく陽の光が大地を照らしていた。
「私帰らないと……」
何かを探すように春花は辺りを見るがそれは見当たらない。
「ハクとスイゲツはどこ?」
春花は少し強い口調で矢鷹に質問するが矢鷹は一言も話す事はない。
「ねぇ…二人はどこにいるの?」
状況がわからず焦る春花のわかる事といえば満月の日が終わり帰れなくなった事だ。頼りにしていた二人の姿が無く春花は途端に不安になる。
もしかして…私を置いて…ハクとスイゲツは…
俯く春花からは涙が落ちるその瞬間、舌打ちが聞こえると、ため息混じりに矢鷹が口を開く。
「だから女は嫌いだ」
「え…」
「お前の目には光が無い」
「………」
「見える者は僅かばかりか目が光帯る…どういうことかわかるな」
「…それって…見えなくなったってこと」
矢鷹に問いかけるがフンっとそっぽを向き話そうとはしなかったが、それと同時に春花は絶望感に押し潰されていた。




