希望
びくともしないスイゲツの真横に立つ藤光に違和感を感じる春花は動く寸前で後頭部に痛みが走ると力無く気を失った。
闇夜が消え去り陽だまりがレオンの目を覚まさせる。
目覚めのいいレオンはテキパキと春花のために朝食を作り始めていた。
「今日はやけに静かですね…いつもなら匂いにつられてスイゲツが釣れるのですが…珍しいこともありますね…良し!」
いつも通りにできた料理を持ちエプロンをつけたまま春花の部屋へと行く。
最近ではスイゲツやハクと必ずと言っていいほど廊下で会うが今日は一度も見ない。不自然に静か過ぎる廊下を歩くレオンは少し落ち着かない気持ちになりながらも春花の部屋に着きノックする。
「春花さん!朝食の用意できました」
当たり前だが春花の返事はない。気を使い昨夜は春花の様子を見にいかなかったレオンは恐る恐るも扉を少し開けゆっくりと部屋をその場で見回す。
「春花さん…?」
ベッドの周りにカーテンが付いているが見なくても人の気配などない。カタカタと揺れる食器、扉にぶつかり完全に開く。レオンは動揺していた。力なくへたり座りお盆を床に置くと拳を思い切り床に打ち付ける。
「私は…何している…何してた!」
何度も殴る手にはヒビが入っていたがそんなのを気にしている余裕は無い。
行く前の不安そうな春花の顔を思い出すとレオンの瞳から涙がこぼれ落ち、床を濡らす。
泣いていても何も変わらない考えろ…ここで慣れた春花さんの目はやがて元に戻るだろう…そうなるとハクやスイゲツは見えない…声も聞こえなくなる…繋ぐ出入り口も…
そうなってしまうと春花は帰れなくなってしまう。次の満月を待ってはいられなかった。
「春花さんを早く連れ戻さないと…でもどうやって…」
春花さんがここに来たとき使った光一郎様の陣は一度きりだけ……
レオンは冷静さを取り戻し考えるが方法が全くなかった。眉間に皺が寄り真剣に考えているレオンはそんな今の異変に気づいていなかった。
「これ食べないの?」
「食べません」
「そう!頂きまーす」
「………」
考え事をしていたレオンは普通に受け答えしていたが、聴き覚えのある声の方を向き、その姿に目を丸くする。
「あなた様は…」
長い銀髪のその者は美味しそうに味噌汁をすすっていた。
「うん!美味しい。レオンまた腕上げた?」
美味しそうに頬張る男をレオンは考えるように見つめていた。
この方の力ならどうにかなる…
打開策が無かったレオンの瞳には一筋の希望が見えたのだった。
「無礼を承知でお願い致します」
レオンは男に頭を深々と下げ今までの事を話すが、食べ終えた男は聞く耳を持とうとしなかった。
レオンもめげずにしつこくお願いする事、30分が過ぎ飽きた男は口を開く。
「レオン、僕は君の叫びが聞こえたから来ただけ……あと僕は関係ないよ?それに、春たんは人が良かったかもしれないしさ?」
ニヤッと笑う男にレオンは冷たい視線で見ていた。
「わかりました。あなたに頼ろうとしたのが間違えでした。私にはふざけている時間が無いので今日はおかえりください」
すっぱりと切り捨てるレオンは扉を開ける。思ってもみない反応に男は焦り始めていた。
「えっ……わかったわかった!頼ってくれたのが嬉しかったんだよ。ごめん怒らないで」
そう言うと男はレオンに近づき手を取る。撫でる手にふーっと優しく息をかけると離した時にはヒビが入っていた手は元通りだった。
「レオン、でも一つ条件がある」




