痛みと愛
「まぁ…仕事ぶりでは縁談の話しを持ってこよう。美しく生んでくれた母親に感謝するんだな」
「……はい…ありがとう…ございます」
思ってもいない言葉に礼子は声が上手く出ず消え入りそうな声だった。
「泣くな礼子。これからが始まりだ」
藤光は最後にパンッと叩き立ち上がると声を元に戻す。
「用が済んだなら早く帰りなさい!」
礼子は涙を流しながら口を押さえ部屋から離れた。自分の部屋へ帰り、押さえていた手を離す。綺麗な口元に美肌の頬は涙の跡があるだけだ。
「………藤光…さ…ま…」
扉を閉める藤光は赤くジンジンする両手を一握りし春花の方へと戻る。
「さぁ!話しをしようか…ってどうしたの?」
殴っている様にしか見えない春花は青ざめていた。
「春ちゃん?」
「お、おじ様…別に制裁を与えなくてよかったのですよ?……それよりも知っていたのですね」
「う、うん…あの、春ちゃん」
藤光は手を伸ばそうとするが、春花は思いっきり避ける。
何もしてないのに…大切なものを失った気がするのは何故だろう…
半泣き状態の藤光だが、再び扉が叩かれる。
「もう……誰だい」
「食事の用意が出来ました。貞三郎様は自室でお召し上がります。ご希望がなければ食堂になりますがどうされますか?」
「いや、食堂に行く」
「かしこまりました場所はわかりますか?」
「わかるよ。少ししたら春ちゃんと行くよ」
使用人は一礼をし部屋を後にした。
「春ちゃん食事に行こうか」
「……わかりました」
春花と食堂へと向かい食堂の扉を開けると二人だけのはずが、そこには礼子がいた。
「藤光様、申し訳ありません…礼子様がどうしてご一緒したいと…」
藤光はため息吐き礼子に文句を言おうとするが、先程のことで春花が止める。
「おじ様…私は大丈夫です」
「……本当?」
二人でコソコソ話していると飛び切り明るい声が響く。
「藤光様!!春花!!一緒に食事しましょう!!」
さっきの涙はどこへ?と二人で思いながら礼子と食事をする。流石に食事中は静かにしていたが、食べ終え藤光はお手洗いに行き、二人になると礼子は春花に話しかけた。
「春花…許してとは言わない。でも…ごめんなさい」
「…….…私、お姉様、嫌いだわ。だけど、父はもっともっと嫌いよ」
「そう…春花、私は今まで何不自由無く生きて来たあなたを恨んでいたわ…私がひもじい暮らしをしていたあの時、今までこの子は温かい食事を食べ、温かいお風呂に入り、隙間風がない部屋で安心して眠れるのに……生きるのに必死な私からしたら、亡くなった人にうじうじして腹が立ったわ。だけどね、ある人の言葉で目が覚めたわ」
そう言うと礼子は春花に鍵を差し出す。
「今までの物、全部私の部屋にある箱に入っているわ…本当にごめんなさい」
面と向かい深々と頭を下げる礼子は今まで見た事ない。
「ずっと…苦しかった…でも嫌なまま別れなくて良かった」
頬を伝う涙を拭い春花は鍵を受け取る。
「本当にごめんなさ……あっ!藤光様が戻ってきたわ!春花!私、さっき…」
礼子は春花に耳打ちすると笑顔で藤光の元へと走って行く。
今までの事は許されないけど…なるほどね…だから…はぁ…もうどうでもいいわ…
春花は呆れて藤光に群がる礼子を眺めていた。
「私、さっき藤光様に恋したのよ」




