絶望の縁
咄嗟の感情で藤光を引き止めてしまっだがすぐに後悔する。
「春ちゃんにそんなこと言われたら僕もここに泊まるよ…あっ君!ここに泊まるから部屋を用意してくれないか」
「かしこまりました!一応、貞三郎様にもお伝えしておきます…」
先程の話は、既に使用人等の噂になっていた。
深々と一礼をすると使用人の女性は少し早歩きで去って行くが、藤光の行動の速さに春花が口を挟む隙など無かった。
藤光の泊まりが決定し春花は今更ながら青ざめるのだった
。
どうしよう…満月が終わってしまうと帰れなくなってしまうわ
周りを見る春花はいつの間にかどこかに行ってしまったハクとスイゲツを探すがどこにも居ない。
「春ちゃんどうしたの?」
部屋の案内を待つ藤光は玄関にある椅子に座っていた。
「何でもないです」
「……そうか」
今すぐにでも探しに行きたい気持ちを抑えていると使用人が二人の前に立つ。
「藤光様、お部屋のご用意が出来ました」
使用人について行くとそこはこの洋館の中でも広い客室だった。使用人が居なくなると藤光は部屋へと入り部屋を隅々まで眺める。その瞳はどこか遠くを見ている様だった。
「…懐かしいな……って春ちゃん部屋にまで着いてきて…小さい子頃の春ちゃんみたいだ…そんなに僕と離れたくないのかい?」
冗談めかす藤光に春花は急に恥ずかしくなら真っ赤になり、無意識に着いてきてしまった事を誤りそそくさと出て行こうとする。
「春ちゃん!夕食まで話の続きしよう」
春花は頷き藤光の向かい椅子に座った。
藤光が部屋から出て行き残された三人は下された処分に放心状態。その中でも礼子は部屋にある大きな鏡の前へ行き自分の姿を呆然と見ていた。
こんなに…美しい洋装の私が…明日には…
礼子は顔をしかめるが、その瞳は潤い溢れる。
部屋は三人もの人がいるとは思えない静けさだ。そんな静寂を破ったのはドアを叩く音。何回もノックするが誰も声を掛けずにいると勝手に開く。
「貞三郎様失礼致します。突然ですが藤光様が本日こちらで過ごされます」
「………」
貞三郎は使用人を見ようともせずぶつぶつ何か言うだけだった。不気味に思った使用人はすぐに出ていった。ドアが閉まる音が響く。そんな礼子の涙は既に枯れ、鏡の前でうすら笑いをし部屋を出て行った。
礼子の向かう先は言うまでもない藤光の部屋だ。
せっせと部屋を用意する使用人の後を、隠れて見ていた。それは藤光の部屋へと入る春花をもだ。
なぜ…春花も藤光様のところに…本当に昔から許せないわ
礼子は全身に力を入れ小刻みに揺れ怒りを下唇を思い切り噛み抑えた。




