敗因と勝因
矢鷹は貞三郎に目もくれず藤光の隣に立ち貞三郎を白眼視する。
「どういう事だ矢鷹!!主人の私を裏切るのか!」
鬼の形相で唾を撒き散らす貞三郎に矢鷹は動じず見下す。
「あなた!落ち着いてください!」
ずっと見ていた隣に座る明子は貞三郎を落ち着かせようとするが思い切り突き飛ばされ床に倒れる。
「お母様!」
貞三郎は倒れた明子など見ず全て持つ藤光を睨んでいた。
「貞三郎、君の敗因は矢鷹を知ろうとしなかったことだ」
「まさか…」
貞三郎の知っている限りの矢鷹は、知り合いに紹介された有能な付き人だ。両親はいないが頭がかなり切れると。その言葉通り矢鷹が来てからは無駄が無く毎日が順調だった。蘭子が居た頃の様に会社は良くなっていったが、調子に乗り欲にくらんだ貞三郎はある人物に合う様になった。それが敵会社の辻島だった。その時も矢鷹は側にいたのだ。
「矢鷹には聞かれたら何もかも話して良いと言っていたが、君の感じだと本当に何も聞かなかったんだね」
「………」
「矢鷹は僕の養子…僕の後を継ぐ者だ。君に送り込んだのは勉学の為だったが…無駄だった様だ」
貞三郎は全て悟り椅子にへたり座る。
「貞三郎、君を桜井家から縁切りし追放する。明日朝に迎えが来る。必要な物を纏めておきなさい」
魂が抜けた様にただただ座りうんともすんとも言わず一点を見る貞三郎。
藤光は要件を言い終え春花と共に立ち上がる。
「あっそうだ辻島を頼らない方がいい。あいつは冷酷非道な男。自分の利益にならない者が近づくとその者は生きて帰る事は出来ない。君もそうなるだろう。それと、明子と礼子には住み込みの仕事を用意した君たちも明日この家から出て行ってくれ」
藤光が言い終えると、床に座り込む礼子と春花は目が合う。
「…はる…か」
春花にはいつも強気な礼子は弱々しく春花を呼ぶが、春花は敢えて無視をし藤光、矢鷹と部屋を出て行った。
「春ちゃん今日は見苦しいところを見せてしまったね。あと君の父を勝手に追い出してしまったこと、すまない。」
「…いいえ…全て父が蒔いた種です。それに、私もう随分前から父とは話したりしてないんです。母が亡くなって毎日寂しかった時に、娘より外で女性と会っていた父を恨みました…だから…良いんです。これで」
「そうか…」
玄関に着き使用人が玄関を開けた。藤光は外へ出ようとするが春花も一緒になって外に出ようとしたが藤光が止める。
「春ちゃん、最後の夜だ春ちゃんは家族と過ごしなさい。また明日早朝に来るから」
今まで藤光という心強い味方が居た春花は安心し切っていたが、藤光の言葉で取り残された時のことを想像してしまい無意識に藤光の服を掴む。
「おじ様…行かないで…ください」




