実家
「僕の話になってしまったからまた今度話を聞かせてくれないか」
藤光は立ち上がり座る春花に手を差し伸べる。
躊躇う春花に藤光は春花の手に気づく。
震えている…
赤く染まり始める空は二人を同じ色に染める。低い位置には赤い満月。春花達の時間は有限だそのことを知らない藤光は座ったままの春花の手を取る。
「何があったかは知らないが、とりあえず行こう」
「…はい」
「あっ!君たちもおいで」
ハクとスイゲツに手を振りみんなで街に止めてある藤光が乗ってきた車に乗る。
「少し狭いがこれも楽しいな」
お通夜状態の春花と違い藤光は楽しそうしていた。
「朧車みたいなものか。朧車の方が静かに走れるな」
「これなら自分で飛んだ方が早い」
ハクとスイゲツは遠慮なく藤光に言葉の矢を刺していく。
「そうだ。妖狐の君は人型にはなれるかい?狐が居ると驚かれるからね」
ハクは黙って人型に戻る。
「お前どうしたんだ?やけに素直だな」
「………」
スイゲツはおとなしいハクを不思議に思っていた。
そんなハクは横目で気づかれないように藤光を見ていた。
匂い…仕草…何より似ている…似過ぎている光一郎に…気を保たないとアイツが暴れる…
「今度は変顔か?」
「違う。スイゲツにはわからない事だ」
「何だと!!」
ハクとスイゲツが睨み合っていると車は止まり、久しぶりに帰ってきた春花は溜め息を吐き車を降りた。
辺りは薄暗くなっていた。立派な建物の灯りは暗い道を照らす。一行は洋館の玄関へと行くが横の暗がりから人影が動く。藤光の付き人がその人影に近づくと人影は付き人を無視して藤光の前まで近づく。
付き人は慌てて腕を掴み抵抗する人影を押さえると、部屋から漏れる明かりで顔を見る。
「ん?君は…矢鷹じゃないか」
藤光は付き人に手を離すように命令した。
「どうした?その顔は青痣になっているぞ」
矢鷹の顔は前日に貞三郎に殴られた箇所が青痣になっていた。話そうにも痛み腫れで話せない矢鷹に藤光は背中をさする。
「すまなかった…頑張ったな後は任せてくれ」
春花は久しぶりに家の敷地へ足を踏み入れた。
「旦那様。藤光様がお越しになりました」
「わかった。今行く」
結局、春花は見つからなかった…あの男の事だ春花に会いたがるはず…
貞三郎は重い足取りで待たせている応接室へと向かっていると目の前に現れた者に歩みを止める。
「明子。それに礼子。すまないが今からお客と大事な話があるんだ。何かあるなら後にしてくれ」
「お父様!そのお客様は藤光様でしょ?私も同席させて下さいませ」
「貞三郎さん。桜井家の当主様がいらっしゃるなら妻の私も居なくてはなりませんわ」
「待て!」
明子と礼子は貞三郎の話など聞かずに応接室に向かった。
「お待たせしてしまい、すみません。藤光様……は、春花?!」




