石鹸
薄暗い部屋で怒鳴る声が響く。
「まだ見つからんのか!あれから一週間も経ったんだ」
貞三郎は抑えられない怒りをぶつける為に矢鷹の目の前まで行くと思い切り手を振り上げる。
「お前みたいな奴を雇ってやってるんだ!ちゃんと仕事をしろ」
耐える矢鷹に容赦なく降り下ろされ何度も繰り返す。
「明日の午後には本家から藤光様が来るんだ血眼になって探せ」
「………承知しました」
主人に逆らうことは許されない。矢鷹は部屋から出て行く。
血の味がする口の中、赤く腫れた頬を押さえ舌打ちをする。
「っ…やってらんねぇ…」
矢鷹は館の外へ出て行き春花を探しに夜の街へと姿を消した。
明るくなる空は清々しく春花を目覚めさせた。
いつもと違い少し緊張感と高揚感が春花の胸を踊らせる。
「春花さん、おはようございます」
「おはよう。レオン」
顔を洗い用意されていた朝食を食べ終えた春花は、ハクとスイゲツと一緒に屋上にいた。
「可愛い白狐だ!」
狐の姿へと変えたハク。
「この姿は実体できるんだ。一人よりまだ心強いだろ」
「うん…ありがとう…」
実家に行くわけではない春花は、それでも久しぶりの人間界に恐れていた。
偶然会ったり、目にしたりと思うと震えが止まらなかったが、満月の日にしか人間界への道は現れない。それが丁度今日だった。今日を逃すと次の満月まで待つようになってしまう。
「春花さん!いつも行っている私が行ければ良かったんですが、どうしても外せない治療があるんです…すみません…」
「レオン…大丈夫よ!少し怖いけどハクもスイゲツも居るしそれに買ったらすぐに帰るわ」
「そうですか…銀細工の花は持ってますか?」
春花は着物で隠れていたネックレスの花を見せる。
「その花は肌身離さず持っていてください。その花には私の呪いがかかっています。もし何かあった時にはそれを辿ることが出来るのでお守りとして持っていてください」
「わかった」
本当は自分がいない時に行かせたくなかったレオンは涙ながら春花を見送った。
「ハル、しっかり掴まってて」
春花を背に乗せ、狐の姿のハクは掴まることが出来ずスイゲツに抱えられていた。
「出入り口まで一っ飛びする」
山を上から見下ろす。木々が生い茂る森の中には石で出来た洞窟が現れ着地した三人は洞窟に入るが、すぐに外へと出る。出た先はまたも木々が生い茂る山だった。
「えっと…地図によるとこのまま山を下ると街に入るみたい」
レオンが予め用意していた石鹸屋までの地図を確認し山を下ると街へと続く道が現れた。
怖いけど会うとは限らないし…会う確率の方が低い…大丈夫
春花は深呼吸をし、深く被り物を被る。出来るだけ顔が見えないように俯き加減に歩く。
すれ違う人が増えるにつれ鼓動が早まると同時に見た事がある街並みに足が止まる。
春花以外の人間には姿が見えないスイゲツは、立ち尽くす春花の異変に気づく。
「ハル、大丈夫か?」
「………」
スイゲツは春花の視線を辿ると呉服屋だ。その店には呉服屋の女将と話す身なりの良い男性がいた。




