希望
意識が薄れゆく中、春花さんが私の前に立っていた。
ダメ…です…あなたまで失う訳にはいかない…早く逃げて…
必死だった私は、無意識に呪いを春花さんにかけていた。それしかできない。どんなに細い線でも彼女と繋ぎ止めておきたかった。
そう思っているといつの間にか苦しい気持ちは無くなった。
懐かしい声がする…大好きなあの人の声だ
レオン、蘭子は病弱な私の妻の我儘で望まない結婚をするだろう…もしこの術が発動した時はあの子を守ってくれ…お願いだレオン……
そう言われたあの日の事は忘れもしない。初めて頼ってくれた。
レオン!聞いてくれ…蘭子が可愛い女の子を生んだんだ!私も晴れてじぃじになったぞ!
楽しそうに話すその笑顔は幸せそのものだった。私もつられて微笑んでいた。数週間後までは。
レオン…私は長くない…病で死ぬくらいなら呪いの人形の力で死にたい…愛している私の……
私は呪いをかける事が出来なかった。
光一郎様…私は…貴方との約束を守れなかった…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい。
ハクはレオンのベッド隣にある椅子に座っていると、病室のドアが開く。入ってきた人物を見るハクは驚きを隠せずにいた。
「何で…」
「やあハク、何だか胸騒ぎがしたから来てみたんだ…でも来て正解だったみたいだね」
銀色の長髪を揺らしレオンが眠るベッドへと近づくと、胸の辺りに手のひらをかざす。
殴られて割れ崩れたレオンの頬や手足、身体は光を帯び見る間に治っていく。
"起きろ…レオン"
頭の中に話しかけられるレオンは再起動するように深く息をし始める。
この声はもしかして…待って!待ってください!!
「待って!!」
目が覚めたレオンは良く知る病室の天井を呆然と見つめる。涙を流しながら眠っていたレオンの頬は涙の跡ができていた。
「やっと起きたな」
珍しく心配をするハクをよそにレオンは病室を見渡すがハク以外誰もいない。
「誰か居ませんでしたか?」
「ああ、あの方はもう帰られた。とっくにな」
「そう…ですか…ハクっ春花さんは!!」
言いにくそうに拳を力強く握るハクは重い口を開ける。
「春花はスイゲツに連れて行かれた…」
「スイゲツさんにですか?他の烏天狗ではなく?」
「そうだ。烏天狗等はスイゲツの命令で先に居なくなった…だけど俺は春花を守るどころか…」
悔しそうにハクは壁に握り拳を打ち付けるがそんなハクとは違い、レオンは何故か少し安心していた。
「ハク、春花さんを助けられるかもしれません」
その表情は希望に満ちていた。
「まず、スイゲツさんは無闇矢鱈に行動はしません。その反対に烏天狗等は目的の為なら何でもする方々です。春花さんを連れて行ったのがスイゲツさんなら何か考えがあるのかも知れない…」
「考えって……あいつ春花に暗示をかけて花嫁にしようとしてた」
暗示と花嫁という言葉にピクッと肩を震わせるレオンは笑顔だが目は笑っていない。
「それは許せませんね」
「そ、そうだな…早く助けに行こう」
「助けに行きたいのは山々なんですが…診療所はどうしましょう…」
二人は項垂れているとドアが勢いよく開くそこには雪女がいた。




