水月
耳元で囁かれる春花は我にかえり耳を抑える。
「スイゲツ様!何故ここに」
「はぁ?お前らが遅いからに決まっているからだろう。いいからお前達は先に帰れ」
「で、ですが羽根団扇はまだ…」
焦る烏天狗にスイゲツは笑いかける。
「言うこと聞け?」
その一言で烏天狗達は一斉に飛び立ち去った。
「さてと、羽根団扇はどこにありますか?」
あの烏天狗が恐れるほど…嘘をついたってすぐにバレてしまうわ…でも…怖い震えが止まらない…
「ご、ごめんなさい…羽根団扇って知らずに…焼却炉で燃やしました」
「えっ…ふーん燃やしたんだ…ねぇ君は何ていうの?」
「春…花です」
「ハル…」
「春花です」
「どっちでもいいよ。ハルの方が呼びやすいし。それよりもあの羽根団扇は神からの授かりものなんだよ。どうしてくれるの?」
スイゲツの視線から目を逸らせずにいる春花は自分のした事に顔は青ざめていく。
「ハルは幸運だったね。もし、さっきのアイツらに知らてたら君の首は地面に落ちていただろう」
耳元で囁くスイゲツの声は冷たく春花は恐怖で体は硬直したように動かす事ができない。
「どうしたら……許してくださいますか」
「許すねぇ…そもそも許される事じゃないんだ」
許されない…私のせいで二人は…結局私は何も守れない…自分さえも…何にも変われてない……
「春花!!」
名前を呼ぶハクは身体を引きずりながら春花に近づく。
「おっと邪魔をされては困るな狐さん」
「春花に暗示をかけてどうするつもりだ」
悩むように考えるスイゲツはある事を思いつく。
「あっそうだ!花嫁にしようかな人間の花嫁も楽しそうだ」
笑うスイゲツは咄嗟に春花から離れる。
「ふざけるなああああ!」
ハクは全力を込め狐火をスイゲツに向かって放つ。その炎は金と銀、ハクとコクコの力が込められていた。狐火はスイゲツにぶつかると爆発を起こし白い煙で辺りは視界が悪くなるが、突如降る雨によりスイゲツの影は鮮明になる。
「俺はね、烏天狗の中でも神通力や特別に授けられた力があるんだ。それは名前の通り水。素晴らしい狐火だったよ。おやすみ狐さん」
一瞬にしてハクの顔に水が纏う。息が出来ないハクはぐったりと意識を失った。
倒れたハクを遠くから見つめスイゲツは倒れているレオンの元へと近づきしゃがみ込む。
「すみません。レオン先生…良くしてくれたのに…」
レオンにスイゲツはヤツデを置いた。
「でも…この方法しかありませんでした…」
その前をぼーっと立ち尽くす春花は人形の様になっていた。
「ハル、行こう」
スイゲツにお姫様抱っこされると純白の翼が広がり春花はスイゲツと消え去った。




