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初めての勝負

 金髪の男と坊主頭の男、そして哀れにも蟻正に轢かれた眼鏡の男は俺を見つけ、ずんずんと歩み寄ってきて腰から銃を引き抜く。その瞬間周囲から人影が離れる。が、悲鳴は無い。この辺りでは日常茶飯事の出来事なのだろう。



 よく見れば男たちの腕には注射のあとのようなものがあった。違法薬物による身体強化。スラムの人間が手軽に自身を強化するのには最も手早い方法であり、いともたやすく精神を破滅させる道具である。



 銃を見ても蟻正もピンホールも一切動揺を見せない。蟻正はくいっと顎で襲撃者を指した。



「一先ずお前が戦ってみろ。死なないよう援護はする」



 蟻正はゆらりと立ち上がり、その義肢を敵に向ける。しかし戦闘に積極的に参加する様子はなさそうであった。彼にとっては新入社員のテストのつもりなのだろう。仕方なく俺は手に小型のナックルダスターを装備する。あくまで電流を流し、相手を静止するためのものだ。高価なハイパーリムや、銃器の類とは比べ物にならないほど貧弱な武器を見て、男たちは馬鹿にした笑いを浮かべる。



「おう、やるのか小僧?」



 男たちは下世話な笑みを浮かべながら近づいてくる。銃に対してナックルダスター1つ。傍から見れば自殺行為。しかし俺のような汚染適応者としては、そうでもない。能力を発動し、強化外骨格に電流を与える。能力の行使を服の下で行っているため、一見何も起きていないように見える。だが、その効果は絶大だった。



 奴らの引き金が轢かれるより早く、俺の体が宙を舞う。通常はハイパーリム無しには不可能な早業であり、慌てて男が視線で俺を追おうとする。



 部分型の強化外骨格は、出力が低い。その最大の理由はバッテリーだ。人間を一瞬で跳躍させるほどの電気エネルギーを与えるには大型のバッテリーパックが必要になる。各社は、戦闘用の高出力で武骨な強化外骨格と相反する、低出力でスマートなものとして部分型強化外骨格を販売していた。



 故に部分型強化外骨格は、狭い場所で繊細な作業をするためのものとして販売されている。だが俺の能力は電気を発生させるというものだ。超能力で発生させた電流がダイレクトに強化外骨格に流れ込む。



 違法改造を行っている俺の強化外骨格は、バッテリーとネットワーク機能、筋肉への追従機能を外している。代わりに能力で発生させた電流に呼応して、その力を発揮するように改造しているのだ。だから俺の強化外骨格には、バッテリーによる出力制限もラグもない。



「死ね。クソガキ!」

「それは勘弁」



 9mmの弾丸が隣のテーブルを貫く。乾いた音を背に俺は機敏にモヒカンの懐に潜り込む。これだけの速度は、加速型のハイパーリムを複数積まなければ実現できない。予想と現実の差に、モヒカンの目に動揺が走る。



 超能力者は汚染により生まれた、人間の変異種。故に能力を行使するということは、体を動かすのと大差ない行為でしかない。人が物を握り、足で走るのと同じような感覚。生命が生まれつき保有する機能の一つとして、俺は電気を操ることができる。



 拳銃を突き付けるのをあきらめ、モヒカンの男は素手による攻撃を試みる。薬物強化により、反応速度も筋力も一般人とは常軌を逸するものになっている。だが拳を引いて打ち出すより早く、俺のナックルダスターが腹に突き刺さった。



「があぁ!!!」



 その瞬間ばちりと接触部に閃光が発生し、ナックルダスターから駆け巡る雷がモヒカンの男を焼き尽くす。俺が一歩下がると同時に、モヒカンの男は目から光が消え失せた。この小型のナックルダスターの機能、と見せかけているがこれもまた能力による攻撃だ。手を起点にナックルダスターから飛び出る電極に電圧を印加する。俺が『崩し雷』と呼んでいる技を受けて倒れた仲間を見て、残りの二人は銃を蟻正からこちらに向けた。



 蟻正よりこちらの方が危険と判断したのだろう。俺は素早く体を回しながら、再度回避をしながら接近しようとする。もう一人の坊主頭の男は、俺の回避を見もせず、適当に新たに取り出した銃の引き金を引く。それを見て俺は目をむいた。長い銃身、大きな弾薬、無数に分かれる小さな弾。



「散弾銃!?」



 こんな店内でぶちかますものでは断じてない。このタイミングで回避しようとも、欠片のいくつかは命中してしまうだろう。当たり所が悪ければ薄い強化外骨格を貫通し、容赦なく俺の体を穿つだろう。そうなれば任務から外されて、Brigadeを辞めることができないかもしれない。



 だから覚悟を決めて、ひっそりと能力を発動する。対象は手と体。電気を手から渦状に走らせ、磁場と電場を発生させた。



 仕組みは少し面倒で、まずは電場により、銃弾内部の電荷を偏らせる。次に磁場と偏った電荷の間に生成されるローレンツ力が発生する。このローレンツ力こそが銃弾を逸らす役目を果たすのだ。



 銃弾を逸らすような力を発生させる強い磁場が、他の電子機器に影響を及ぼし、能力が露見する可能性もある。だが貫通を避けるという目的であり、対象が小さな散弾であれば、出力が低くともどうにかなる。『雷廻し』が俺の周囲を覆うのを、超能力者としての感覚がとらえた。



「肉片になれよ、ガキ!!」

「ちっ!」



 体に衝撃が走り、しかしそれは致命傷にならない。脇に逸れる弾丸に見向きもせず、散弾を持つ坊主頭の男に『崩し雷』を叩き込み、気絶させる。同時にもう一人の男が力なくと倒れこんだ。



 急に倒れこんだ男の脊髄から少しだけ煙が上がっている。蟻正が脊髄を制御する装置に対して、ハッキングで熱暴走を引き起こし、機能停止させたのだろう。が、それにしてもやけに早い。通常ハッキングは数分はかかるのが通常である。それをわずか数秒で。



 BRIGADEの噂は、やはり嘘ではないのだろう。蟻正は俺に大きな怪我や出血がないのを確認して、「最低限はできるようだな」とごく僅かに頬を緩める。彼としては急に託された、経歴も微妙で実力も不明なガキが、一先ず使い物になるとわかったのは収穫なのだろう。



 だが俺としては改善点の多い戦いであった。特に最後の散弾は、警戒していれば能力など使わずとも避けることが出来た。汚染区域にいた以上、最低限の戦闘訓練は受けたが、腕が錆びついている。今回はバレてはいないようだが、繰り返すとどうなるかはわからない。



 周囲を見ると、多くの人は逃げ出し、死者や怪我人はいないようであった。そしてすぐに厨房から出てきた屈強な店員が彼らを回収していく。しれっと隠れていたピンホールは俺の方を見て目を輝かせていたが、彼女が口を開く間もなく一人の男が俺たちの間に割り込む。



 その料理人は何事もなかったかのように、手に持っている焼肉定食、ハンバーグ定食、合成チキンカレー40辛を机に並べていく。料理人は真っ白な軍服を来ており、腰には銃剣を携えている。……うん、すごく見覚えがある人だ。



「お待たせしましタ」


「上級固体さん!?」



いやあんたが経営してるのかよここ!

『上級個体』

本当にただただ異様に強いだけの料理人。至る所で美味しい食事を提供するべく店を開いている。彼の店では今どき珍しい天然食が安く旨いと評判である。おすすめは焼肉定食食べ放題付き。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 上級個体さん、全国焼肉屋巡りして自分でもお店やりたくなっちゃったのかな?
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