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再戦!

 作戦はシンプル。それは蟻正やイチロウ、空音隊長の力を多大に借りる必要があるものであった。本来であれば、新入社員の私情など知るか、と言われてもおかしくはない。しかし全員、俺のやることを否定はしない。



 これもまた、一種の新入社員研修なのだろう。自身で計画を立て、他人に助力を求め、実行し解決する。だから求められていることを実行するべく、迷うことなく大掛かりな作戦を口にする。



「王我社長は今、自分以外の仲間が全員捕まった状態です。発覚したが最後、徳川ネオインダストリー内部では生存できない。なんとしてでも『外』に逃げようとします。恐らく『外』との取引の材料となりうるのは、『PCP』製造装置。蟻正さんとイチロウさんにも協力してもらって、『外』の連中を捕まえれば社の利益になると思われます」


「つまり一旦王我コーポに装置を引き渡す。その上で『外』にこっそり移送しようとする王我社長を追跡し、他企業のスパイを捕縛するというわけだな」


「恐らく後ろにいるのは鎧装連合。そのスパイを捕まえるという功績を盾に、装置を破壊するわけじゃな」


「幸いにも装置の扱いは上層部の中でも割れています。また、王我コーポの賄賂は非常に多い。それらを解明する際に、『運悪く』壊れてしまった、と言えば誤魔化しが効くかと。そこの交渉は、空音隊長にお願いすることになります」


「社会への不安についてはどうする?」


「王我コーポについては、離反ではなく賄賂や違法行為の横行、という理由で処分を行えるかと思います。離反を企てた会社が多いのが問題なのであって、汚職は社会不安よりも怒りや浄化への意欲を引き起こすと思っています」



 そこまで沈黙していたイチロウは少し頷き、今までの議論に対し採点を行う。



「60点、ですね。最低限の言い訳はできています。しかしこれでは装置の破壊を合理化するには少し足りません。あと一歩で合格なのですけれど」


「……僕ではなく、王我コーポが証拠隠滅のために壊したことにする、とかですか?」


「「仕方が無かった」と言えれば、それでよいのですよ。では、本社を弾丸にする段取りを始めましょう」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 王我社長が別ルートで逃走したのは極めて幸運だった。まずイチロウが一瞬で『連絡役』と社長達、ついでにクソ息子を捕縛する。そのまま俺は王我コーポの社長室に蟻正の助けを得て侵入。蟻正のハッキングにより積層式ビルのロケットを点火し、イチロウの超能力で加速することで装甲飛行船に力づくで突入する。因みにイチロウは『連絡役』の仲間を捕まえるために、装甲飛行船まで手が回らないという設定だ。



 イチロウなら兎も角、大型装甲飛行船の装甲を破り侵入するのは容易ではない。故に、仕方なく王我コーポ最上階をぶつけるという荒業を使わなければならなかった。だからその衝撃で精密装置が壊れるのも、仕方が無いことなのだ。良くわからない、未完成の装置より亡命の阻止の方が大事なのだから。



 装甲飛行船の速度は自治区上空ということもあり、かなり低速だ。だからこそ王我コーポ最上階は見事に衝突し、俺は内部に入ることが出来ていた。



 辺りは衝突の影響で、エラー音や出火、異臭が漂っている。広々とした船内を、慣れない巨大な強化外骨格を着て、ガシンガシンと足音を立てながら、保管庫に向かって前進した。強化外骨格の両腕には、王我社長と王我コーポ副社長が括り付けられており、二人とも悲痛な叫びをあげている。



「「放せ!!!!」」



 侵入者が甲板から降りてきた、という情報は入っているのだろう。数多の改造人間たちがぞろぞろと通路の脇から現れる。だがその全員が、俺の両腕を見て一瞬沈黙する。彼らは銃器を向けて叫ぶものの、引き金に触ることが出来ずにいた。



「どうすんだよあれ!」


「背後から打てば問題ない……あいつめっちゃ手を振り回してやがる! 発射中止! どう射撃しても命中するじゃねえか!」


「お前が人質にしているの、誰だと思ってやがる!」



 スラム街にいた時、あれだけ恐ろしかった治安維持部隊。それが今、俺の目の前であたふたしている。職務を果たすどころではなく、困惑と恐怖に身をすくめている。気分が良くなった俺は、大声で叫び、船内を駆け抜ける。



「右手に社長、左手に副社長、これが最強の肉壁だ! 違法行為に手を染めた社員共、大人しく道を開けろ!」


「「「違法行為をしてるのはお前だろ!!!!」」」



 よいツッコミである。現在だけでも誘拐、違法侵入、器物損害、脅迫が頭の中に思い浮かぶ。が、これから行うことで全てひっくり返すのだ。耳元から通信が入る。



『こちら蟻正。地上側の『連絡役』とその仲間は確保完了、情報も一先ず引き出せた。これより援護を開始する』



 俺を攻撃できない社員たちを強化外骨格で吹き飛ばし、前進する。火災対策の緊急作動シャッターが蟻正のハッキングにより降りていく。俺の経路に敵が来ないよう的確に通路が封鎖され、あっという間に一本道が完成した。もう周囲には人はほとんどいない。僅かにいる敵を押しのけて、道を駆け抜ける。



 数分走ると、大きなエレベーターが見える。ロックはハッキングにより解除されており、俺は内部に乗り込んだ。内部は簡素な構造になっており、黒のパネルが光る。同時にエレベーターは直ぐに下降を始めた。



『エレベーターに乗ったな。下降先が目的地だ。素早く制圧し、目的を果たしてこい』



 ここまでハッキングが簡単に進む理由もまたシンプル。数日前に蟻正がウイルスを仕込んだのだ。離反についての調査、という名目で大型装甲飛行船に乗船し、作戦を実行。変なものが見つからず安心する王我社長を他所に、既に仕込みは完了していた。



 装置を破壊すれば、鎧装連合が王我コーポを受け入れる理由は無くなる。がたん、という音と共にエレベータが下降をやめて、停止する。ここまでは順調だ、と息を吐く。少し気を緩め開く扉を眺めた、その瞬間だった。



 現れたのは爆炎。轟音が鳴り響き、エレベーター内部を熱と圧力が駆け巡る。炎の隙間に見えるのは『PCP』。発動距離からみて、自身の体表を対象にした能力発動ではない。すなわち、直線対象の能力行使。



 咄嗟に超能力で相殺しするが、余波が体をエレベータの壁に叩きつける。咄嗟に両腕を掲げ、襲い来る暴力に備えようとするが、それより早く槌が俺の体を捉え、エレベーターごと強化外骨格を粉微塵にした。体が大きく吹き飛び、呼吸が痛みで停止する。視界の端に映る女の名を、俺はよく知っていた。



「ハンマーメイズ……!」


「今度はこっちの番だぜ、BRIGADE!」

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