ココア
三題噺もどき―にひゃくじゅう。
家の中に居るのも、防寒具なしでは辛くなってきた。
どうも、暖房機器のあの機械的な温かさが苦手なもので。一応買い置きをしてはいるものの、あまり稼働させることはない。
「……」
一人。
机の上にあれこれ広げたまま、ぼうと眺めている。
様々な資料がプリントされたもの。関連する本も開きっぱなし。
一番手元に近い所には、まっさらな原稿用紙が置かれている。
「……」
ただ肘をついて、ぼうっと眺めたまま。
片手に持った鉛筆をくるりと回してみる。
―昔から書き物をするときは、鉛筆一択だ。
「……」
いや、一時期はシャープペンシルを使っていたこともある。
あれって、なぜか羨ましく見えるだろう。小学校から中学へと上がり、高校に至るまでに。なぜか、シャープペンシルというものは、憧れの対象になりえる…。
性能も今ほどいいものでもなく。ただ細いだけの芯ががりがりと紙を削るだけで。ものとしての機能自体は鉛筆とさして変わらないのに。
なんであんなに羨ましく見えていたのだろう。
「……」
今や、あの固さがどうにもダメになってしまって、鉛筆を使っているのに。
あの頃の心情は未だによくわからない。
…この言い方ではシャープペンシルを毛嫌いしているように聞こえてしまうな。別段そういうわけでもないのだが。
「……」
しかしまぁ、今考えることではないということは確かだな。
現実逃避が過ぎてしまった。さっさと仕事に戻るか…。
「……」
とはいえ。
とはいえ、だ。
その気持ちだけであっさり手につくようなものなら、苦労はしないのだ。
それができないから、今こうやって途方にくれているというに。
「……」
切り替えがうまくいかないのは、一生の課題になりそうだ。
人生常に勉強とは言うが。そんなの嫌すぎる。
楽に生きられるのなら、楽に生きたいものだ。
「……」
だがそういうわけにもいかないし。
職業柄、楽に何てできやしない。それはもう、この道に足を踏み入れた時点で分かっている。だから、何とも思いはしないのだが。
まぁ、たまに…というか、今みたいな状況に陥ると。そうしてもやめたくはなるし、もっといい方法があったのではないかと思うことはあるのだ。
最終的にここに戻っては来るから、考えたところでやはり大した意味はないのだが。
「……」
もう一度、鉛筆をくるりと回す。
そんなので、思考が回るわけでもないのだが。
くるくるとまわして。
「……ふぅ」
かたりと、それを原稿用紙の上に置く。
息抜きだ。息抜き。
もうこうなると何も手につかない。さっさと気分転換だ。
「……」
椅子を後ろに引き、立ち上がる。
その時手を机についたので、少々紙がよれたが、気にしない。
「……」
スタスタと、キッチンへと向かう。
一人分の食器が置かれた水きりの中から、マグカップを手に取る。
次いで、コンロの上に置きっぱなしになっていた薬缶に水を注ぎ、火にかける。
―そろそろ電気ケトルとやらが欲しいところだ。
「……」
沸かしている間、粉末のココアをとりだす。
―正直、コーヒーでも飲みたいところではあったが。とりあえず甘いものを入れてみようとおもったのだ。
マグカップに適当に粉をいれ、沸くのを待つ。
「……ん」
そういえば―と、ふと思い出したことがあった。
少し前に付き合いで、チョコレートをもらったのだ。しかも、こいうココアなどに溶かしながら頂くやつだ。
「……」
どこに直したかと、ごそごそとキッチンを漁る。
ほんの少し前にもらったはずなのだが、適当に放ったな…探しきれん。
諦めようかとも思いはしたが、気づいた今頂かないと、そのまま腐らせそうだ。
「……ぁ」
ようやく見つけたときには、すでに湯が沸いて少したってからだった。
火にかけなおすか迷いはしたが、それもそれで面倒なのでやめた。
「……」
ぬるい湯で作られたココア。
その中にチョコレートをトプリと入れる。
適温ではなかったのか、あまりいいようには溶けず、塊が浮かんでいる。
「……」
あぁやはり失敗したなと思いつつ、スプーンで沈めながら溶かしていく。
「……」
未だに溶け切れていないそれを、口の中に放り込んでみる。
どろりとした感触が、口内に広がる。
甘く、胸焼けしそうなそれが、じんわりと侵食してくる。
「……」
苦手だなぁと思いながら。
こくり、こくりと。飲み進めていく。
さて、これで少しは頭が冴えただろうか。
「……」
大人しく机に戻って、作業を進めるとしよう。
お題:えんぴつ・チョコレート・ココア