プロローグ & 別荘俯瞰図
「それってどういうこと」
「理解してもらえなかったかな」
「あんたの説明がわかりにくいからでしょ」
「放っておきなって。現実的に対応できるぼくたちだけでなんとかしようや」
「そうやってまた勝手に決めて」
「黙ってくれ。うらやましいな。責任をとらなくていいひとは」
「あんたたちがわたしに何もやらせないから――」
「ね、こわいひとがくるの?」
「こわいかどうかはわからない。ただ、あの医者と同じで面倒な存在であることはたしかだねぇ」
「恐ろしい。わたしたちが欲しているのは平穏な日常だというのに」
「その喋り方やめて。イライラする」
「乱暴な言葉を使うんじゃない。まねされたら困るよ」
「子どもには優しいんだ」
「そうだ。そしてきみはもう大人だ」
「脱線している」
「失礼したね。特別なにか策を講じようだなんてつもりはないんだ。つまりこれは、覚悟というのかな。これから起こるだろう事実について共有しておこうというだけだ」
「嘘をついたな」
「なにかな」
「正直にいえよ。あんたが危惧しているのはあの言葉のことだろ」
「その話はもうしないって……」
「そのとおりだ」
「ちょっと」
「まさか探偵のお出ましとは。あの男。鼻にもかけないそぶりを見せて、じつは相当気にしていたわけだ」
「その話なら興味ない。おれ抜きで話せよ」
「そういうわけにもいくまい。何故なら、そうだな。あの時の繰り返しになるが、もう一度訊こう。あの言葉は、誰がいったんだ」
「おれじゃない」
「ぼくじゃないよ」
「いってない」
「わ、わたしじゃないったら」
「わたくしでもありません」
「よくわかんなーい」
「おまえはどうなんだ」
「いうはずがない。いうべき理由もない」
「それじゃあ残るはひとりだけだ。あいつだろ」
「彼女はあんな野蛮なことを口にする性格じゃない」
「野蛮か。この中でそのことばが似合うのはおれだよな」
「そんなことはいっていない」
「目が語っている。お前ら全員の目が。だが誓ってもいい。おれはいっていない。絶対にだ。むしろ、お前らみたいに上品な仮面をかぶったやつらにこそお似合いな言葉じゃないか」
「逆説的だね」
「ふわぁ……」
「これくらいでいいんじゃないかなぁ。おちびちゃんはもう眠そうだし。誰がいったかはわからない。だが言葉はしょせん言葉だ。それが本当に――本当に、ひとを殺すわけがないだろう?」