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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

辺境伯閣下と契約結婚して、初夜に「貴女を愛することはない」と言われたので、気ままに生活していたら、なぜか溺愛されるようになりました。

作者: 和泉 涼佳

 私はクローディア・ビスティ。


 ビスティ男爵家の長女です。


 ビスティ男爵家は、大洪水によって多額の借金を背負ってしまいました。


 そこに、手を差し伸べてくれたのが、オズワルド・ブランデブルク辺境伯閣下でした。


 オズワルド閣下は、惜しみない支援を約束してくださいました。


 その対価として、私はオズワルド閣下と契約結婚することになりました。


「すまない、クローディア」

 父コンラートは、私に対して深々と頭を下げました。


「気にしないでください。私は貴族家の娘として、お家のために結婚するために育ちました。この私が、皆のお役に立てるのですから、悔いはありません」

「しかし、オズワルド閣下はいつも仮面を被って行動する奇人で、変態趣味を持っているという噂もある。だから、もう28歳であるにも関わらず、結婚相手が存在しなかったんだ。もしお前が嫁いだら、どんな目に遭うか分からない」

「それでも構いません。オズワルド閣下は、我が家に支援を約束して下さり、しっかりとした契約書も作成してくださいました。たとえ私が死んでも、この契約は必ず履行されます。私1人の犠牲で皆を救えるのなら、この命など惜しくはありません」


 



 私は、馬車に揺られて、領都ローベレトに到着しました。


 領都ローベレトはブランデブルク辺境伯領の中心部にあり、オズワルド閣下はこの街で暮らしています。


 領都ローベレトは、大勢の人で栄えていました。


 現在は、花嫁である私の到着を記念して、歓迎パレードが行われています。


 馬車越しに、歓声が聞こえてきます。


 ブランデブルク辺境伯領は栄えており、領民からは支持されているようです。


 歓迎パレードが終わり、馬車は屋敷に到着しました。


「ようこそ、クローディア」

 オズワルド閣下は、長身の方で、本当に仮面を被っていました。


 悪い噂を思い出して、私は思わず怯えてしまいました。


「……長旅で疲れただろう? 今夜は、大切な初夜だ。風呂に入って、よく汗を流しておけ」





 それから、私はメイドに案内され、お風呂に案内されました。


 お風呂はとても大きく、100人くらい同時に入れそうでした。


 そこで隅々まで綺麗に磨かれて、香油を塗られました。


「クローディア様は本当にお美しい方ですね。これならきっと、旦那様も気に入ってくださいますよ!」

 メイドは、私の姿を見て大喜びしていました。


 そして、私は、透けるような薄さのネグリジェを着て、オズワルド様が来るのを待っていました。

 うぅ……恥ずかしいです。


 私は、毛布を身体に巻き付けて、露出を減らしました。

 この格好で、殿方の前に出る勇気はありません。


 ガチャリ。

 扉が開いて、オズワルド様が現れました。


 オズワルド様は、私を見て、驚いたように足を止めました。


 ……確かに、寝室に入るなり、毛布を巻き付けた人がいたら驚きますよね。

 元々、初夜のムードを高めるために、恥ずかしい思いを我慢してネグリジェを着ていたのに、これでは台無しです。


「……クローディア。貴女はまさか、ここで寝床を共にすると思っていたのか? これは契約結婚だ。貴女を愛することはない。貴女に手を出すこともない。……だから、そんなに怯えなくてもいい」

「……え? そうなのですか?」

「ああ。メイドが余計な気を利かせてしまったようで、申し訳ない。後できつく叱っておく」


 貴族社会では、結婚して初めて一人前として扱われます。

 だから、私と契約結婚することにしたのでしょう。


「貴女の部屋は別にある。案内しよう」

 こうして、私は豪華な部屋に案内された。


「……え? 本当にこんな場所で暮らしていいのですか?」

「ああ。困ったことがあったら何でも言ってくれ」

 そう言って、オズワルド様は丁寧に頭を下げ、立ち去りました。


 



 初夜の日から、1ヶ月が経過しました。

 相変わらず、私はオズワルド様から手を出されることはなく、白い結婚のままです。


 どうやら、あの夜の「貴女を愛することはない」という言葉は本当だったみたいです。


 オズワルド様は多忙な方で、いつも忙しそうにしているので、最近はほとんど会うこともありません。

 だから、一人で楽しく日々を満喫しています。


 オズワルド様は、火事で顔が焼けてしまい、火傷の跡を隠すために仮面を被っているようです。

 でも、今でも火傷の跡が痛むようで、あちこちの伝手を使って治療法を探していますが、成果は芳しくないようです。


 私は、ビスティ男爵家では薬師として働き、お小遣いを稼いでいました。

 薬師としての評判は上々で、私が結婚した時は、皆から惜しまれました。


 もしかしたら、私の薬なら、オズワルド様の火傷を治すこともできるかもしれません。


 だから、中庭を借りて、治療薬を作るために必要な薬草を栽培していました。


 良い治療薬を作るためには、良い材料が必要です。


 自作した聖水を使って、種から薬草を育てました。


 そろそろ、収穫の時期です。


 私は薬草を収穫し、すり鉢でゴリゴリとすり潰しました。


 そして、薬草を聖水で煮詰めて、不純物を取り除いて薬効成分を取り出します。


 何度も繰り返し煮詰めて、ドロッとした粘りのある液体状になるまで繰り返します。


 完成しました!


 早速、オズワルド様に試してもらいましょう。


「……え? 治療薬が完成した、だと?」

「はい。私は昔から薬を作って販売していましたけど、評判は上々でした。オズワルド様の火傷も、きっと治ると思います」

「……はあ、そうか。期待はしないが、一度くらい試してみてもいいだろう」


 オズワルド様はため息を吐き、治療薬を持って自室に戻りました。


 数分後、オズワルド様の部屋から歓声が聞こえました。


 仮面を外した、素顔のオズワルド様が駆けてきました。

 火傷の治ったオズワルド様は、とても格好いい方でした。


「良かった……。無事に治ったみたいですね!」

「ああ。素肌で外を出歩くのは10年ぶりだ。クローディアには、本当に感謝している。何か、願い事はあるか?」

「いえ、オズワルド様からは、もう貰いすぎるほど貰っていますので、これ以上望む事はありません。このまま、オズワルド様の妻でいられたら、私は満足です」

「……そうか」

 そう、ぽつりと呟いて、オズワルド様は立ち去りました。


 それからは、オズワルド様は社交界でも大人気となりました。


 私との結婚が、白い結婚であることは広く知れ渡っているみたいで、結婚中であるにも関わらず、オズワルド様の元には、多数の結婚の申し出が届いているようです。


 私は鏡を見て、自分の地味な顔を眺めました。


 こんな私より、可愛くて魅力的な子なんていくらでもいるはずです。

 最近は実家も復興して、洪水の被害から立ち直りつつあります。


 そろそろ、この契約結婚を終わりにすべき時が来たのでしょう。


 白い結婚の間は、自由に離婚することができます。

 

 私は離婚する決意を固めて、オズワルド様の元を訪れました。


「ちょうどいい所に来たな、クローディア。貴女に、渡したいものがあるんだ」

 そう言って、オズワルド様は、私に小さな箱を手渡しました。


 あれ?

 これって、もしかして……。


 箱を開けると、大きなダイアモンドの付いた結婚指輪が入っていました。


 ど、どどど、どうしましょう。

 この結婚指輪、きっとすごく高いですよね。

 私のイニシャルが刻まれていますし、返品も不可能そうです。


「……クローディア。貴女を一目見たときから、ずっと貴女のことを愛していた。遅くなってすまないが、この指輪を受け取ってほしい」

「……え、でも、初夜の時に、『貴女を愛することはない』と……」

「それは嘘だ。本当は、貴女と愛し合いたかったが、貴女が怯えているのを見て、ついそう言ってしまった。だが、その後も愛は深まるばかりで、仕事に没頭して忘れようとしても、なかなか忘れられなかった。それに……貴女は私の火傷を治してくれた。そのおかげで、私はまた日の当たる場所を歩めるようになったんだ」

 オズワルド様の声には、深い愛情が籠っていました。


 胸がドキドキして、頬が熱くなるのを感じました。


「……オズワルド様には、私なんかよりもっと、相応しい方がいるのではないでしょうか……」

「そんなことはない。私が愛しているのはクローディア、貴女だけだ」

 そう言って、オズワルド様は私をぎゅっと抱きしめました。


 こうして、私の白い結婚は終わり、私たちは正式な夫婦になりました。




 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] おお〜。辺境伯にはよくある流れ!(笑) 怖がってるから距離を置く…か〜ら〜の!溺愛!(笑) 読みやすくて良かったです〜
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