頼る者と頼る物
音夢は5両目に居た。正直降りない選択をした自分が5両目や4両目に行く必要は無いのだが……何となく5両目に来た。
真っ白な空間に高く伸びる螺旋階段。螺旋階段の先は見えないほど高い。音夢は階段の途中に座り込んでボーッと虚空を眺める。
「ふぅ……」
別段やることも無い。まぁそれが普通か。
「初めましてねむさん」
「あーと……リルだっけ?初めましてリルちゃん」
階段に寝転ぶ音夢を軽く見上げるようにリルは立っていた。音夢の空間はそもそもこんな上品じゃない。つまり無駄に白く、螺旋階段なんてものがあるのはこの子の影響という訳だ。
「……なんか用?」
「わたしとあなたが似てるって瓏さんから聞きました。それでちょっと興味が出てきて」
「…ここに来たのは自分の意思なの?」
「……いえ、ここに来たのは行ってみたらと言われたからきただけです」
「ふーん」
瓏さんめ……態々似てる子を送らなくてもいいのに。それにボクとこの子は確かに似てるけど……似て非なるものの代表みたいな感じになるでしょ……
「あのさ、なんで来たの?」
「だから興味が……」
「なんの興味?ぶっちゃけ、ボクときみは違うよ?ボクは人に頼らないと生きていけない物。きみは自分で生きていける人だろ?」
「わたしは……神様がいないとなんにもできません」
「かみさま。かみさまね、かみさまか……」
かみさまね……いるならぶん殴ってやりたい。とか思う気もする。知らんけど。リルちゃんの見た目的に宗教的な神様とかとは違いそうだな、となると親とか……それより近い何かか。いけない、考えるのをやめよう。他人の思考に踏み込むのはやめた方がいい事は現世で散々学んだ。
「あなたは、かみさまがいますか?」
「うん?ボクの神様?」
「はい、かみさまです」
「うーん……この列車の中なら瓏さんかな?あとは個人的にはポルくんとか、ここじゃないならやっぱりお姉ちゃんかな」
「なるほど……わたしにはかみさまがいたんです」
「それってなんなの?親とかじゃないの?」
「親……お義父さんじゃない。かみさまはかみさまです」
「ふーん、で、今その神様は?何処にいるの?」
「……わからないです。ここにはかみさまが居ないんです」
なるほどね。ここに来て神様を失くしたのか。失くしたものがハッキリ分かってるのってレアケースなのでは?いや、そうでも無いか?……まぁいいや
「ボクは帰らせてもらおうかな、疲れたし」
「じゃあわたしが帰るの手伝います。ねむさんは自分で歩けないって瓏さんから聞きました」
「5両目は大丈夫、4両目にはくまちゃんが待ってるし……一応帰れるけど……」
「でも困ってる人には手を差し伸べなさいと言われて……」
「じゃあ、瓏さん呼んできてもらっていい?」
「…………わかりました」
リルちゃんは5両目から出て行った。この時間の瓏さんは2両目辺りにいるだろうし……暫くはここで待つことになりそうだなぁ……
リルが5両目から出ると5両目はガラッと雰囲気を変え、屋上のような雰囲気の床と満天の星空が広がる空間へと姿を変えた。床に寝転び、満天の星空を眺めながら首に掛けた水晶を弄る。唯一遺ったこれを触ってる間だけは姉を思い出せる。
「神様か……神様がいたらわたしもお姉ちゃんもきっと…」
少しだけ羨ましいな……あの子