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バレンタインデー

今日はバレンタインデー……つまり愛の日だ。

愛……愛かぁ…愛してた人いなくなっちゃったな……はぁ…


ほしめとではチョコを配ったりしてるのだろうか?ここにいる人達が他の誰かと愛し合う……ってのはあんまり想像できないし、友チョコみたいなのを配るのかな?


そんなことを思いながら音夢、もとい、くま人形(?)はキッチン方面に向かっていた。2両目のキッチンを覗くと、くまたろさんがせっせとチョコをラッピングしていた。ちなみに今は午前3時である。


「やっほーくまたろさん」

「あっ、く……ねむちゃん。まだ呼び名に慣れないわ」

「まぁ仕方ないよ。ずっとくまちゃん呼びだったし、今はちょっとボク……ねむの記憶とバッテリーで動いてるだけの人形だし」

「最近思ったんだけど、それロボットなんじゃないかな…?」

「ロボットより人形の方が可愛いじゃん」


人形と名付けたのはそれが理由だ。くまたろさんはそういうもんかなぁ……と首を傾げているが、そういうもんだ。可愛いは正義。可愛ければいいのだ。


くまたろさんは、一頻り首を傾げたあとラッピングの作業を再開した。黙々とラッピングされていくチョコ達を見ていると少し食べてみたい気持ちになった。まぁ、この身体だと食べれないけど。そう言えば、くまたろさんはちゃんと寝てるのかな?無理はダメだからなぁ……無理するとほんとに…


「くまたろさん、僕が代わりにラッピングするから寝ていいよ」

「でも、後ちょっとだから……」

「いいから寝て。幾らなんでも午前3時まで起きてるのがおかしいよ」


言ってから思ったけど……くまたろさんも人形だし寝る必要は無いのか……?いや、寝なくてもいいから休んでもらおう。


「じゃあ……お言葉に甘えてちょっと休憩してくるわ」

「行ってら〜なんだよ」

「久しぶりになんだよって語尾聞いたわぁ……」


さぁ、ラッピングするぞー!!


2時間後。ラッピングは終了したのだが……


「ねむちゃん、なんでこんなグチャグチャにラッピングされてるのか説明して貰っていいかな?」

「えーと……人形の手じゃ無理でした。てへっ☆」

「てへっ☆じゃないのよ……まぁいいわ、幸いそんなに多い訳じゃないし、私とねむちゃんは全部このラッピングで……みんなには、これと綺麗なやつをいくつかあげましょうか」


やらかしたぁ……怒ってそうな声色なんだけど普通に怖いんだけど逃げたらしばかれそうだなぁ……


くまたろさんはチョコを小分けにして袋に詰めていった。あっという間に綺麗な袋に入ったチョコがカウンターに並ぶ。お店に売ってそう。こんな感じのやつ。


「はいこれはねむちゃんの。ハッピーバレンタイン」

「わ〜ありがとなんだよ〜……食べれないけどめちゃ嬉しいんだよ。ボクのとこ持って行くことにするね」

「……そう言えばそうだったね。じゃあ袋の飾り付けに使ってたリボンでもしていく?チョコじゃないけどバレンタイン感はあるよ……ちょっとだけ」

「可愛いなら大歓迎」

「大丈夫。可愛いから」


耳の下にリボンを付ける。チョコの柄が付いたピンクのリボン。可愛い。好き。


「じゃーね、また後でねくまたろさん」


ねむは自分の部屋に帰り、寝ている自分の枕元にチョコを置く。置くだけ。ねむは動かないし、チョコの袋を見せても反応はない。まぁ仕方ない。元々ねむはちゃんと生きれる人間じゃなかったんだから。なんか悲しくなって泣きそうだな。涙とか出ないけど。


ねむはベッドに飛び乗り、自分の横で何も考えずに目を瞑る。眠れはしないがこうしてるだけで気は楽になるから。気が楽になる気がするだけかもしれないけど。


5時間後の午前10時、ポルくんが部屋に来た。チョコ貰えたーって嬉しそうに報告して帰っていった。何故か知らないけどポルくんはボクにチョコ渡していった。今日はボクがあげる側のはずなんだけどなぁ……?なんか勘違いしてそうだな。まぁいいか。


お昼はみんな部屋に来た。最近はお昼ご飯を食べる時はボクの部屋に来る人が増えた。2両目で食えと思いつつも、態々ここに来て食べてくれるのは正直嬉しい。というかそろそろ疲れてきたからいい加減、人間のボクに起きて欲しいし、人がいればなんとなく起きてくれそうだからみんなが1日1回くらい来てくれるのはありがたい。


「そう言えば、そっちのねむちゃんはいつ起きるの?」


お昼ご飯の後、みんなが居なくなったタイミングで瓏さんにそう聞かれた。いつ起きるのか……そうだなぁ…


「正直に言えば分からないけど、割と一生このままも有り得るよ。もう死んでるし、ほしめとに一生って概念があるのか微妙な感じだけど」

「起きてた頃のねむちゃんみたいな返答するね……」

「当たり前でしょ、これもボクで寝てるあれもボクなんだから」

「まぁそうだね」


?……結局何が聞きたかったのか分かんないけど、瓏さんはそれだけ言って出て行った。お昼すぎたし、いつもの日課をやって……後はのんびり歩き回ろ。


ねむの身体を起こし、布団を整える。正直、あんまり動かないから毎日整える必要もなさそうだけどなんとなくやっている。その後、足の包帯を変えて……髪を梳いて身体を軽く拭いて寝かせる。よし、終わり。


ボクはベッドから降りてチョコの袋を掴む。ん?なんか軽い?中を見るとチョコが減っている。なんでだ?このチョコはずっとボクの枕元にあったから食べれる人はいなかったはず……


そこまで考えて、もしやと気づく。


「ねぇ。ボク?もしかしてこれ食べた?」


当然返事はない。が、食べれたのがボクしかいなかったのだからボクが食べたと見るのが妥当だ。もしかして、もうすぐ起きるのか?


「ボク、起きてる?動ける?」


返事はない。そもそも、ねむが自力で動けるはずないのだ。それはボクがよく分かってる。


なんとなくその場に居づらくなったボクは、チョコをもってくまたろさんに返しに行った。残されたねむの虚ろな目に微かに感情が揺らめいた事を、くま人形(かのじょ)はまだ知らない。

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