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第74話 シルヴィオとジルダを連れて都へ

 シルヴィオは陽がしずみはじめた頃に、顔を見せてくれた。


「グラートさん。申しわけありません! 着替えに時間をとられてしまいました」


 シルヴィオは馬を引いて、旅装までととのえてくれていた。


「かまわない。火急の用ゆえ、お前の予定もかんがえずに招集してしまった。すまない」

「何を言ってるんですか。こういうチャンスを、俺はいつも待ってるんです。逆に声をかけてくださらなかったらグラートさんを恨んでますよ!」


 シルヴィオは今日もやる気に満ちている。たのもしいぞ!


「それなら、ためらうことは何もないな」

「俺のことは気にしないでください。それより、ヴァレダ・アレシアで住民反乱が起きたというのは、本当なんですか?」


 村人たちが用意してくれた馬に乗り込む。


 ヴァールアクスも、肩にしっかりとかけている。


「真相はまだわからない。だが、ベルトランド殿の使者は、そのように言っている」

「このあいだから、ヴァールの侵攻や宮廷の騒動が起きてましたから、国民が不安がるのはわかりますが、それにしても急ではないですか」

「そうだな。宮廷の権威が揺らいでいるのかもしれないが、ヴァレダ・アレシアの国民が反乱を起こす直接的な理由にはならないだろう」


 国民が反乱を起こす動機が他にあるのか。


「おふたりさんさ。こんなところで話してないで、さっさと出発しようぜ」


 ジルダにうながされて、馬の足をすすめさせた。


「今回は、ジルダもグラートさんについてくるのか?」


 シルヴィオがジルダにふりかえりながら言う。


「そうだぜ。わるいか?」

「いや、わるくはないが。危険な任務だぞ」


 ジルダがけらけらと笑った。


「ぼくは元冒険者で、この前までグラートと流刑地にいたんだぜ。まったく問題ないって」

「そうか。なら、足を引っぱるなよ」

「おう!」


 ふたりのコミュニケーションもとれているようだな。


「シルヴィオ。ジルダの攻撃魔法は強力だ。何も心配することはない」

「はい! いや、あの、一応気にしただけですから」


 困惑しながら顔を赤らめるシルヴィオが、おかしかった。


「プルチアにいた頃から、ジルダの魔法には世話になっていた。プルチアの巨大なヘビやカエルと戦っていたのが、なつかしい」

「巨大なヘビって、ニョルンだろ。いたっけな。そんなやつ」

「他にも、プルチアで火事になったことがあったが、あの火事もジルダの氷の魔法で消火していたな」

「グラートが調子に乗って、テオフィロの宿舎を斧でふっとばしたんだよな! あれは、おもしろかったなぁ」


 プルチアにいた頃が懐かしい。


 あそこに流されてしまった当時は、強い絶望を感じていたが、それも良い思い出になっていくのだな。


「そういえば、グラートさんとジルダは、流刑地で知り合ったんでしたね。なんだか、うらやましいなぁ」


 シルヴィオだけは、プルチアの思い出を共有していないか。


「すまないな、シルヴィオ。お前だけ知らない話をしてしまった」

「い、いえっ」

「プルチアにまた行ければ、テオフィロ殿をあらためて紹介したいが、あそこは流刑地だ。関係者しか立ち入ることがゆるされていないのだ」

「わかってます。ですから俺は、サルンで勲功を打ち立てます。俺のことは気にしないでください!」


 シルヴィオは今日も元気だ。


 子どものように言う彼を見て、ジルダが笑った。


 オレンジ色にかがやく陽が、遠く山のうらに姿を消していく。


 ヴァレンツァへと続く街道は月と星が照らしてくれるが、先を見わたすことはほとんどできない。


「グラート。このまま、都にむかうのか?」

「いや、今日はもう、ここで野宿しよう。夜道を走るのは危険だ」

「そうだな。真っ暗で、なんも見えねぇ」


 ヴァレンツァへと続く長い道のそばで、野宿できる場所をさがす。


 低い崖が半円の壁をえがいている。この崖のふもとなら、野宿しやすそうだ。


 馬を降りて、近くの木に手綱をむすびつける。


 崖のふもとに荷物をおろして、腰をおちつかせよう。


「グラートさん。食料をさがしてきます」

「ああ。たのむ」

「あ、ぼくも行く!」


 シルヴィオが近くの森へと飛び込んでいく。


 ジルダもすぐシルヴィオの後を追っていった。


「あのふたりは、知らぬ間に仲良くなっていたのだな」


 ふたりの関係をアダルジーザにたずねたときも、「ふたりとも、仲いいよぅ」と言っていた気がするな。


 シルヴィオはたくさんの弟や妹を世話している者だ。何も心配することはないな。



  * * *



 あつめた焚き木に火をつけてもらい、シルヴィオとジルダが採ってくれた食料を火であぶる。


 アダルジーザとヴァレダ・アレシアの各地を冒険していた頃は、こうやって毎日のように火をかこんでいた。


 騎士になってからも、山野さんやで火を焚くのはめずらしくないか。


 野鳥やキツネの肉は固く、くさみも少しある。調味料を常備しておくべきだったか。


 シルヴィオは俺の左であぐらをかいている。


 ジルダは右側で眠たそうにしているな。


「ジルダ、眠いか?」

「ああ、うん。だいじょうぶ」


 ジルダが目をこすった。


「眠いんだったら、むりして起きなくていいんだぞ」

「お、おう」


 シルヴィオはひたすら鳥肉を噛んでいる。


「この肉、かたいですね」

「そうだな」

「こんなことなら、携行食をもっと用意しておけばよかったです」


 旅をするときは、干し肉や塩漬け肉、干したパンなどを携行食として持っていく。


 手軽にたべられ、日持ちもする食事を携行食として常備するが、わずかな量しか持っていかれない。


 そのため、携行食に手をつけるのは、食料調達が困難なときにかぎられる。


「村から持ってきた食べ物は、貴重なものだ。たくさん持っていくことはできない」

「そう、ですね」

「ドラスレ村も、今は食料が村人たちに行きとどいているが、これからはどうなるか、わからない。凶作になれば食料の調達が困難になるから、村に余裕がある今のうちに保存食をたくさん用意しておいた方がいいだろうな」

「はい」


 シルヴィオの家族は違う土地に住んでいる。


 農奴のうどとして農家で畑仕事に従事しているはずだが、シルヴィオの家族は無事だろうか。


「シルヴィオの家族も食事に困っていないか?」

「あ、はい。たぶんですけど、だいじょうぶだと思います」

「そうか。ドラスレ村が落ちついてきたから、お前の家族を村に移住させてもかまわないが、今のままの方がよいか?」


 シルヴィオの家族は、まずしい生活を余儀なくされている。


 サルンで畑をあたえられれば、シルヴィオの家族は今より裕福になれるはずだ。


 シルヴィオは口を少し開いたまま、逡巡しているようだった。


「いいんですか? そんなことをしていただいて」

「もちろんだ。村が落ちついたから、お前の家族をやしなう余裕ができた。畑もたくさんあるから、土地もあたえられるぞ」

「そう、なんですね」


 家族を他所の土地に移住させるのだ。そう簡単には決断できないだろう。


「あちらの領主には、俺から交渉してやろう。もちろん、シルヴィオや家族の同意を得るのが先だ」

「いや、しかし……俺たちのために、そこまでしてもらうわけには……」

「俺はお前のはたらきをずっと見ている。お前の功績に対する正当な報酬だ。お前が変にためらう必要はない」


 シルヴィオのくもっていた表情が、少し明るくなった。


「はい! では、家族に相談してみますっ」


 うん。それがいい。


「グラートはあいかわらず、言うことがかてぇよなぁ」


 右どなりでジルダの笑い声が聞こえてきた。


「そうか? ふつうに言葉をえらんでいるつもりだが」

「だったら、『お前の家族が心配だ』て言えばいいじゃん。なんだよ、正当な報酬って」


 シルヴィオのはたらきに対する報酬……だと思ったのだがなぁ。


 ジルダがシルヴィオを見やった。


「シルヴィオは、たくさんの家族がいて大変なんだなぁ」

「大変……といえば、そうかもしれないけどな。俺は嫌だと思ったことはないぞ」

「そうなの?」

「あたり前だ。俺の弟も妹も、大事な家族だ。俺は、あいつらの笑顔が見れるから、どんなことだってがんばれるんだ。大変なんかじゃないさ」


 シルヴィオは、強いな。


 弟や妹をもたない俺には、絶対に出せない強さだ。


「そっか」

「サルンに移住できるって聞いたら、母さんもよろこぶぞ! ああ、はやくつたえてやりたいなぁ」


 シルヴィオのこういう素直な一面も、良い部分だな。


「それなら、お前だけ家族のもとに帰ることを許可するぞ」

「い、いいですよ! 今回の住民反乱が落ちついてからでっ」


 言下に首を横にふるシルヴィオが、おかしかった。


 俺とジルダはつい苦笑してしまった。


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