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第71話 グラートの帰還と、ウバルドとの別れ

 アダルジーザをさがすためにサルンを発ってから、一ヶ月以上もの月日がながれてしまった。


「やっと、村に帰れるんだねぇ」


 陛下からいただいた白馬に乗り、村へと続く森の小道をあるく。


 アダルジーザが俺の後ろでおだやかに言った。


「そうだな。オドアケルの襲撃で村がこわされてしまったが、皆はちゃんと食事を摂れているだろうか」

「そうだね。だいじょうぶかなぁ」

「非常食は備蓄していると、村長が前に言っていたような気がするが」

「うん。だけどぉ、そんなにたくさんは、まだ備蓄できてないから」


 村を復興していた最中なのだ。むりもない。


「だいじょうぶだって。ドラスレ村の連中は、ああ見えてみんなしぶといから」


 俺のとなりで馬に乗るジルダが、あくびをしている。


「ふふ。そうだねぇ」

「ここはもう何回も魔物に攻撃されてるんだろ。一回くらい攻撃されても、平気だって!」


 そう願いたいが。


「村の復興が最優先だが、関所の修繕にも力を入れていくべきだな」

「おとなりから、また魔物が攻めてくるから?」

「そうだ。アルビオネの魔族たちは、またすぐに南下してくる。その準備を着実にすすめているはずだ」


 ジルダが、「うげっ」とうめいた。


「そういうのもあるんだ。大変だなぁ、ここ」

「サルンは都とアルビオネにはさまれた土地だからな。アルビオネの動向には細心の注意をはらうべきだろう」

「そのために関所をなおすってわけか。ま、しゃあねぇな」


 アダルジーザが、くすくすと笑った。


「ジルちゃん。これからも、わたしたちをたすけてねぇ」

「お、おうっ」


 森の道の終端に、村の簡素な門が見えて……なんだ、あれは。


 村の門は太い丸太を何本も打ち立てただけの、簡単なつくりのものだったはずだが。


「あそこ、看板みたいの見えね?」

「あっ、ほんとだぁ」


 いやな予感がする。


 村の入り口に、前までなかったはずの大きな看板がとりつけられていた。


 看板自体は数枚の板をつなげただけの代物だが、看板に書かれているのは「王国の勇者ドラスレ様が治める奇跡の村。ずばりドラスレ村!」……。


「あはは! なんじゃありゃあっ」


 ジルダが腹を抱えて笑い声をあげた。


「わぁ。すてきだねぇ」


 アダルジーザも目をかがやかせるが、すてきではないだろう!


 村にかかげる看板を鋭意製作中ですじゃ、と村長が言っていたような気がするが、まさか本当に製作されてしまうとは……。


「あいつら、ほんとにドラスレ村にしちゃったのかよっ。バカだなぁ!」

「バカじゃないよぅ。いい名前だよぅ」


 村長と会話したあのとき、強い語気で止めておくべきだった。


「あっ、ドラスレさまだ!」

「おかえりなさいっ」


 村の入り口で会話していた女性たちが、すぐに気づいてくれた。


「みんなぁ、ドラスレさまが帰ってきたよぉ」


 村は、かなり修復されている?


 オドアケルによってこわされた家々が、以前のように建てられている。


 村の中央にあった井戸もなおっている。ふみ荒らされた地面もきれいに均されていた。


 村の者たちが、ぞくぞくとあつまってくれる。


 彼らの陽気さは、かつての被害をまったく感じさせない。


「皆、村を修復してくれたのか! すばらしいはたらきだっ」

「へへっ、あたりまえですぜ」

「あのくらいじゃ、なんともないわよねっ」


 村の者たちが口を大きく開けて笑う。


「ドラスレ様にびっくりしてもらおうと思って、村のみんなでがんばったんですよっ」

「三日くらいで、片づいちまったよな!」

「お前は何もしてないだろ!」


 まったくもって、ジルダの言う通りだった。サルンの人たちは強い!


「皆のすばらしいはたらきで、村をもとにもどすことができた。感謝するっ」


 村の奥から歩いてくるのは、シルヴィオと村長たちだ。


「グラートさん!」


 シルヴィオが駆けよって、俺に礼をしてくれた。


「おかえりなさいませ。宮殿の方は、落ちつかれたんですか?」

「ああ。おこなうべき政務は山積しているが、宮廷の人事などはひとまず落ちつくだろう」

「よかったです。ああ、俺も行きたかったのにっ」


 シルヴィオがくやしそうにこぶしをにぎった。


「あのけがではしかたあるまい。そのかわり、村の修復をてつだってくれたのだろう?」

「はい。少しでもいいところをグラートさんに見せたいですからね!」


 シルヴィオはあいかわらず、やる気に満ちあふれているなっ。


 そして、シルヴィオの後ろで立つ村長は、なぜかしたり顔だ。


「ほほ、ドラスレ様。見ましたか? 見ましたでしょうっ! わたしたちのつくった看板をっ」

「あ、ああ……」

「ドラスレ様がいつご帰宅なされるのか、気がかりでなりませんでしたからな。看板が間に合ってよかったですじゃ!」


 あんな看板をつくる時間があるのなら、村の修復を先に……ああ、村を修復した後に看板を製作したのか……。


「アダル様も、どうでしたか、あの看板はっ」

「うんっ。すてきだよぅ」

「すてきですかっ。アダル様から『すてき』をいただきましたぁ!」


 村長……。あなたは、そんなキャラクターだったのか。


 拍手喝采をおくる村人たちのすみで、ジルダが「くくく」と笑いをこらえていた。


「村長のキャラが、どんどんこわれていくぜぇ」


 この村長を止めることは、俺にはできないだろうな……。


 笑顔につつまれる村人たちの中に、ウバルドの姿だけが見あたらなかった。


「シルヴィオ。ウバルドは家にいるのか?」

「ウバルド? さぁ。俺は知りませんけど」


 ウバルドは騒がしい場所をこのまない。家でじっとしているのだろう。


 あつまっていた村人たちを解散させて、ウバルドの家の扉をあける。


 村のすみにあった彼の家は、がらんとしていた。


 テーブルや棚は置かれたまま。きれいにかたづけられている。


 地面にもチリひとつない。はじめから使われていない部屋だったのだと、錯覚してしまいそうなほどに。


「ウバルドは、ここから去ってしまったのか」

「たぶん、そうでしょうね」


 シルヴィオがつれない言葉で言う。


「あいつは、村に来てからずっと、ここで引きこもってましたからね。村の修復もろくにてつだわないで、ひとりでこそこそと。

 俺たちと仲良くする気なんて、はなからなかったんでしょうね」


 そうなのか? 俺には、そう見えなかったが。


「あいつは、グラートさんを陥れた張本人なんです。この村にいない方がいいんですよ」

「この人の、言う通りだと思うぜ」


 ジルダが、そっと同意した。


「グラートが、あの人をどう思ってるか知らねぇけどよ。あんたをだました人なんだから、簡単に心をゆるさない方がいいと思うぜ」

「そう、だが……」

「あんまり、感じよくなかったもんな。あの人。ぼくも、これでよかったと思うぜ」


 ウバルドは、俺に心をゆるしてくれなかったのか。


 彼は、俺にたすけをもとめているように感じた。


 ひとりで不安そうにしていたし、誘拐されたアダルジーザをさがしてくれた彼の誠意に、いつわりはなかった。


 俺はウバルドと、うまくやっていけると思っていたのだが……。


「グラート。だいじょうぶだよ」


 アダルジーザが、言葉を添えるように言ってくれた。


「またきっと、会える日がくるから」

「そうだな」


 おたがい長く生きていれば、どこかで会うことがあるだろう。そのときに、酒を酌み交わせばいい。


「酒、か。暗くなってしまったときは、酒を飲むにかぎるな!」

「えっ、おさけ?」

「グラートさんっ。ぱぁっと、やるんですね!」


 シルヴィオの顔が子どものように明るくなった。


「そうだ。村の復興を祝って、今夜は大宴会だ!」

「やった!」

「おおっ、ドラスレさま!」


 村長や村人たちの顔も一気にあかるくなった。


 俺の住む土地は、毎日あかるい時間がながれてほしいな。


ウバルドの処遇はかなり考えましたが、ここで一旦退場させることにしました。

ウバルドの性格を考えると、グラートの下でずっとはたらかないんですよね……。


ウバルドが名物キャラになったのは本当に意外で、今でも驚いております!

グラートとウバルドを共闘させた時点で批判を浴びると思っていました。


ウバルドは割と気に入っていますので、どこかでまた共闘させたいですね。

その場合、グラートのメインの仲間じゃなくて、気まぐれで登場する助っ人みたいな感じになるかなと思います。

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