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第63話 オドアケルとの死闘、ビルギッタの最期

「ほんとにお前らは、何度戦っても気に入らない連中だねっ」


 ヴァールアクスをかまえて、ビルギッタと対峙する。


「それはこちらのセリフだ。今回ばかりはお前たちをゆるすことができない」

「そう。なら、どっちかが死ななきゃね!」


 クルガたちが飛びかかってくる。


 馬の突進のように早いかれらの体当たりは、一撃で身体じゅうの骨を粉砕する力がある。


「くっ」


 三匹のクルガが次々と襲いかかってくる。


 するどくとがったかぎ爪で俺を斬り、強靭なアゴでかみついてくる。


「今日こそあなたをここで殺すわっ。ヒルデブランド様、見ていてください!」


 ヒルデブランド様だと?


 一匹のクルガが空へと上がり、超音波をはなってくる。


 あの攻撃は、頭痛がするからいやなのだっ。


「グラート!」


 他のクルガがまっすぐに突っ込んでくる!


 クルガの直撃を腹に受けてしまった。


 吹き飛ばされて後ろの廃屋に背中を打ちつける。


「ふふ、やったわ! ついにドラスレをやったわっ」


 狂喜するビルギッタの声が聞こえてくる。


「でも、このくらいで満足していちゃダメよ。あいつの身体をバラバラにしちゃいなさい!」


 三匹のクルガが曇った空を上昇していく。


 上空の一点でくるりと大きな円をえがき、隕石のように降りそそいできた。


「そんなものっ」


 クルガたちの黒い身体が地面に激突する。


 その強烈な力は地面をわり、村に大きな穴を開ける。


 ラグサで倒したクルガよりも、強い。だが、俺は負けん!


 穴から飛び出し、俺にかみついてきたクルガにヴァールアクスをはらう。


 ヴァールの強固な力が、クルガの胴を一瞬で斬り裂いた。


「他のやつらもまとめてかかってこい!」


 二匹のクルガも穴から飛び出して、俺に体当たりをしかけてくる。


 クルガのすばやい動きと重たい攻撃は脅威だが、基本的に一直線の動きだ。


「お前らの動きを見きわめるのは簡単だっ」


 先に突進してきたクルガをしゃがんでかわし、ヴァールアクスを低くかまえる。


 後から襲いかかってきたクルガにヴァールアクスを斬り上げて、逆袈裟ぎゃくけさでクルガを斬りすてた。


 二匹のクルガをしとめた。残るは一匹――。


「くっ」


 はなたれたのは氷の弾丸か!?


 遠くから魔法をはなったビルギッタが、俺をにらみつけていた。


「お前は、この国にいちゃいけない人間なんだよ!」


 ビルギッタが曇天に数本の氷柱を召喚する。


 神殿の柱のような氷柱が高速で落下し、俺のふんでいた地面を破壊する。


 背後から襲いかかる超音波は……残っているクルガの攻撃かっ。


「いい子だよ。その調子でドラスレのうごきを止めるんだ」


 この超音波は、感覚がにぶるから苦手なのだっ。


 だがクルガは俺の攻撃があたらないように、上空で超音波をはなっている。


 真空波をあてればいいが、そうすると氷を召喚しているビルギッタに背をむけることになる。


「しね!」


 ビルギッタがまた氷柱を落としてきた。


 俺は前に跳び、氷柱の下をくぐるようにして攻撃をかわした。


 氷柱の冷たい空気が、俺のあたまをなでた。


「なにっ」


 倒しにくいクルガは後だ。主のビルギッタを倒す!


「すまぬが、お前をここで殺す!」


 目を大きく開いてヴァールアクスをふりおろす。


 無防備なビルギッタの脳天をとらえたと思ったが、ビルギッタは間一髪で俺の攻撃をかわした。


「くっ、わたしもなめられたもんだよっ」


 ビルギッタが逃げるように後退する。


 俺も追いかけるが、逃げ足の早いやつめ!


「お前は危険人物だ。生かしておくわけにはいかんっ」


 ビルギッタの足はそれほど速くない。じきに追いつく。


 彼女もそれを察知したのか、すぐに足を止めて身体を俺にむけた。


「観念したか。その命、もらうぞ」

「ふふ。観念なんてするわけないでしょ」


 ビルギッタが胸の前で腕を交差させる。


 両手の手のひらから白い煙が噴射される。大量に。


「何をする気だ!?」


 この煙は、毒でも仕込んであるのか。それとも他のデバフをかける魔法か?


 煙は俺を包み込むように、あたりにひろがっていく。


 視界は白い霧でほとんど見えなくなった。しかし、それ以外の身体の異常は起きていない。


「ただのめくらましか」


 ビルギッタは、どこに消えた?


 前方にかすかな気配を感じる。両手に力をあつめて、ヴァールアクスを――。


 後ろから気配!?


「ぐ!」


 後ろから強烈な体当たりをしかけてきたのは、クルガだ。


 クルガはこの視界が悪い霧の中でも、俺の場所がわかるのか。


 今度は右から氷柱の攻撃かっ。


 ビルギッタのはげしい魔法が俺を上からおしつぶそうとする。


 だが、ビルギッタはきっと俺の正確な場所がわからないのだろう。氷柱はずれた場所に落下していた。


「この霧の中だったら、わたしたちの場所はわからないでしょう? でもクルガは、暗闇でもお前の場所がわかるのよ!」


 くっ、コウモリの特性を生かした連携なのか。


「さぁ、クルガ。あのにくたらしい男をやっつけておしまい!」


 クルガが霧の中にあらわれて、かぎ爪で俺を斬りつけてくる。


 するどい爪が俺の胸と肩を裂いて、赤い血がシャツをよごす。


 ビルギッタの氷の魔法は当てずっぽうだが、油断ならない攻撃だ。


「逃げてもむだよ。わたしたちには見えなくても、クルガにはあなたの大きな身体がしっかりと見えてるんだからね」


 この霧の中では、俺とビルギッタ、人間の目は役に立たない。


 クルガはおそらく目で相手の位置を認識しないから、霧の中でも俺の居場所がわかるのだ。


 ビルギッタにクルガを攻撃させるか。


「ビルギッタ、どこをねらっている。俺はここだ!」


 腹の底から声を解きはなつ。


「な、なんだとっ」

「俺を殺したければ、よくねらえ。それとも、お前の主はその程度の訓練しかほどこしてくれなかったのかっ?」


 大きな声を出せば、俺の位置をつかみやすくなるだろう。


「なんだと。言わせておけば……」


 引っかかったな。


 クルガは純朴に俺を攻撃してくる。


 主のビルギッタが怒っていても、かまわずに俺をねらってくる。


「だったら、特大の魔法でお前を押しつぶしてやるよ!」


 ビルギッタがいるのは、右か。


 クルガを誘引し、地面をける。


 左の後方にとび、ビルギッタがいる右側と俺のあいだにクルガが配置されるように移動した。


「しねっ、ドラスレ!」


 クルガの攻撃をヴァールアクスで受け止めていると、上空から強烈な冷気が発せられてきた。


 くっ、よけろ!


 ビルギッタのはなった冷気のかたまりが地面に落ちる。


 クルガを押しつぶし、地面にはげしく落下する。


 大地をゆるがすような衝撃で突風が発生した。


 突風は白い霧を消し飛ばし、ビルギッタの居場所を曇天の下にさらした。


「やった! これでドラスレは死んだっ」


 ビルギッタは右手をにぎりしめていたが、立ちつくす俺を見て顔色を変えた。


「ど、どうして、お前が立ってる。クルガは……」

「クルガはお前が倒したのだ!」


 足をふみ込み、ヴァールアクスをふりおろす。


 逃げるビルギッタの細い背中を、ヴァールアクスのぶあつい刃が斬りふせる。


 ビルギッタはうつ伏せになって倒れた。


「敵とはいえ、人を殺したくなかった。ゆるせ」


 クルガから受けた攻撃で、腹が痛む。


 胸や肩の切り傷も、ほうっておくと悪化しそうだ。


「こんな、ところで……」


 ビルギッタは、虫の息か。もうたすかるまい。


「お前たちは、宰輔の命令でウバルドをねらってきたのか?」


 ビルギッタは青白い顔で、俺を見た。


「そんなの、知らない……ね」

「なら、質問を変えよう。ヒルデブランドというお前の主に命令されたんだな」


 ビルギッタが身体をふるわせながら、にやりとした。


「ヒルデブランド様、は……この世界を、変えよう……と」

「世界を変える? 何を言っている」


 ビルギッタが目を見開いて、大量の血をはき出した。


「ヒルデブランド様、は、すべ……て、を、つくり……なおす」

「すべてをつくりなおす?」


 オドアケルは宰輔の命令で動いているのではないのか?


「どういうことだ、ビルギッタ!」


 ビルギッタは俺を見て、笑っていた。


 口からまた赤い血をはき出して、彼女は息を引き取った。


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