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第57話 ドラゴンスレイヤーの休養、宰輔ついに動く

 旅のつかれをいやすため、一日だけ休むことにした。


 旅の途中で受けたけがはアダルジーザに治療してもらった。


「これで、だいじょうぶだねぇ」


 肩の矢傷がふさがったのを見て、アダルジーザが言った。


「いつもながら、完璧な回復魔法だ」

「それだけが、わたしの取り柄だからぁ」


 そんなことはない。アダルジーザのいいところは、他にもたくさんある。


「アダルが回復してくれれば、俺は何度でも戦える」

「ふふ。そうだねぇ」


 アダルジーザがほほえみながら、「あ!」と声をあげた。


「どうした?」

「ん? だからね、わたしがグラートを回復しなければ、いいのかなぁって」


 なん、だと……?


「何を言うか。やぶから棒に」

「わたしが、グラートを回復しちゃうから、グラートはすぐに戦いに行っちゃうんだよねぇ」

「そう、かもしれないが、アダルに回復してもらえないと、困るんだぞ」


 アダルジーザが俺をじっと見つめて、くすりと笑った。


「グラートはぁ、わたしが回復しなくても、戦いに行っちゃいそうだねぇ」

「そうかもしれない」


 アダルジーザが茶を出してくれた。


「ジルちゃんの、むかえに行くのぉ?」


 ジルダをフォレトに残している件は、アダルジーザとシルヴィオにつたえている。


「そうだな。すぐにむかえに行かなければならない」

「グラートがいくの? シルヴィとかに、まかせても、いいと思うんだけど」

「いや、俺が行く。ジルダは、フォレトで俺を待っているはずだ」


 ジルダは大事な仲間だ。こんなところで、うしないたくない。


「うん。そうかもねぇ」

「アダルもむかえに行きたいだろうが、待っていてくれ。今度はすぐに帰ってこれるだろうから」

「うん……ジルちゃん。心配だねぇ」


 オドアケルの連中は、俺とジルダの関係に気づいていない。


 ジルダはフォレトでのんびりくらしているだろう。


 アダルジーザが農具や手ぬぐいを用意して、立ち上がった。


「それじゃあ、グラート。いってくるねぇ」

「ああ、たのむ」


 アダルジーザは今日も農作業に出かけるようだ。


「グラートは、はたらきすぎだからぁ。今日くらい、ゆっくりやすんでね」

「わかった。肝に免じる」


 俺も農園に行くと言ったが、アダルジーザからかたく断られてしまった。


 ばたん、と仮住まいの屋敷の扉が閉じられる。


 質素な屋敷だが、広い空間にひとりでたたずんでいると、妙な孤独感におそわれる。


 じっとしているのは、苦手だ。


 居間をかたづけたり、寝室のベッドやまくらをいじってみるが、どうにも落ちつかない。


「やすむと言っても、家でじっとしていなくてもいいだろう。サルンの領内を視察しよう」


 ヴァールアクスをとって、屋敷の扉を開ける。


 手配した馬にまたがって、まずは村に寄ってみよう。


 村はゆるやかな坂道をおりた先にある。


「あっ、ドラスレさまっ」


 村の井戸であそんでいた子どもたちに、すぐに気づかれた。


「朝から元気だな。井戸の水は枯れてないか?」

「うん。だいじょうぶだと、思う」


 子どもたちは、五、六歳か。長い髪を脳天で結んでいるのが、かわいらしい。


「お前たちが自由に遊べる場所は、用意できているのかな? できていなければ、村のおとなたちに手配させるぞ」

「う、うん。だいじょうぶだよっ」


 子どもたちは、俺に怯えているのか? あまり歓迎されていないようだ。


「これはこれは、ドラスレ様。おはようございます」


 杖をついているこの老人は、村長だ。


「村長、おはよう」

「ドラスレ様も奥様も、起きるのが早いんですね。これはこれは、ご立派で」

「そんなことはない。皆は生活リズムを俺たちに合わせなくていい。各々の生活リズムでくらせばよいと、みなにつたえてくれ」

「は。かしこまりました」


 村長が深々とあたまを下げた。


「ところで、ドラスレ様。聞きましたか。わたしたちの村の名前を」

「いや、聞いていない。なんという名前になったのだ?」

「ほほ……それはもう、聞いておどろかれるな。『ドラスレ村』ですじゃ!」


 ド、ドラスレ村……。


「どうです、感動しましたか? 感動しましたでしょうっ!」

「あ、ああ。感動、した……」


 落ちついた村長が、急に前のめりになって、言い出したっ。


 いいのか? そんな、名前で……。


 しずかだった子どもたちが、きゃっきゃとさわぎ出した。


「いやぁ、わたしらも、考えに考えぬいたのですよ。ドラスレ様が治める、このすばらしい村にちなんだ、よい名前がないかと」

「もっと、よい名があったと、思うのだが……」

「この村の名物は何か。他の土地や村にはない、この村の一番の特色になるものは何か。それは、あなた! ドラスレ様ですっ。ドラスレ様の存在自体が、この村の一番の特色なのですじゃ!」


 そん、ちょぉ……。


 子どもたちが俺の腰に飛びついて、はしゃぎまわっていた。


 村長が腕組みして、うんうんとうなっている。


「村の者からこの事実を突きつけられたとき、はっとしたわけですよ。これしかない! と思ったわけですよっ。

 で、それなら『ドラスレ村』にしようとわたしが言ったら、満場一致で村の名前が決まったのです」

「アダルは、賛成しているのか? もっとよい名前が、あると思うのだが……」

「ご安心ください! アダル様でしたら、『グラートがぁ、よろこぶと、思うからぁ』と、満面の笑みで快諾してくださいましたぞ!」


 アダルジーザよ、なぜ反対しなかった……。


「ほほ。感動のあまりに言葉をうしなっているようですな。皆で考えぬいた甲斐がありました」

「あ、ああ。すばらしい名前を、ありがとう……」

「村の入り口にかかげる看板も、鋭意製作中ですじゃ。『王国の勇者ドラスレ様が治める奇跡の村。ずばりドラスレ村!』とでかでかと書かれていますので、たのしみにしていてくだされ!」


 そんな看板つくらないでくれ!


 ……と言いたいが、村の人間たちの意気をくじくわけにもいかない。


 はっはっはと声を出して笑うのが、やっとだった。


「ドラスレ様っ」


 ドラスレ村は、もうやめてくれ!


 いや、ちがう。さっきの声は、俺を呼んだものだ。


 三騎の兵が村の入り口からやってくる。


 帯剣しているが、敵意は感じられない。オドアケルの者たちではないだろう。


「村長。村の者たちと家の中へ」

「お、お気をつけてっ」


 兵たちが俺の前で下馬した。


「ここにおられましたか。さがしましたぞ」

「お役目ごくろう。宮廷の使いか?」


 先頭の者が剣をとなりの者へわたす。


 村の者たちが聞いていないことを確認して、俺に耳打ちした。


「祭司長の使いでございます」


 なにっ。ジェズアルド殿から!?


「宮廷で、サルヴァオーネ様がついにうごかれました。いそぎ、宮殿におこしくださいと」

「うごかれた!? ついに兵を起こしたのかっ」


 兵の男が首をかしげる。


「兵を……? いえ、そのようなことは、うかがっておりませんが……」


 兵を起こしたのではない? 話が見えてこないぞ。


「くわしいことは、移動しながら話しますっ」

「わかった。案内してくれ!」


 シルヴィオをつれていきたいが、間に合わないか。


 駿馬にまたがり、サルンを後にする。


 どのみちジルダをむかえに行く気だったのだ。出発する日が何日かはやまっただけだ。


「宰輔がうごかれたというのは、どういうことだ」

「それが……現在の陛下に王位を継ぐ資格がないと、宮廷でおっしゃっているのです」


 陛下が王位を継ぐ資格がないだとっ。


「どうしていきなり、そのようなことを。ジェレミア国王陛下は、ヴァレダ・アレシアの正当な王位継承権をもたれた方だぞ」

「はい。ですが、その……」


 兵たちは何をそんなに言いにくそうにしているのか。


「どうした。ありのままをはっきりと申せ」

「はいっ。それが、現在の国王陛下は女性なのではないかと、宰輔がお疑いをかけているのです」


 陛下が、女性……。


 馬を止めて、森のひらけた場所に兵たちを案内した。


「陛下が女性なら、王位を継ぐ権利がないということか」

「はい。ヴァレダ・アレシアの王位を継ぐのは男子のみとさだめられております。陛下は女性であることを否定されておりますが、多くの官吏たちの攻撃によって、苦境に立たされているようなのです」


 なんと! おいたわしや……。


「陛下は男性だ。女性であるはずがない」

「し、しかし、宰輔はすでに、証人を立てていると……」

「そんなものはでたらめだっ。だまされるな!」


 俺の右手が、ふるえている。


 こんな大きい反撃を、なんの予告もなくしてくるとは……。


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