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第43話 魔物化した古代樹との死闘、ジルダの突撃

「くるぞ!」


 白いヘビのような頭が、無数に飛びかかってくる。


「うおっ!」


 シロヘビキノコの攻撃を、横にとんでかわす。


 無数のシロヘビキノコが地面にぶつかり、遺跡の石だたみをふき飛ばした。


「うそだろぉ。なんだよあれ!」

「普通のシロヘビキノコの強靭さではないっ」


 古代樹のまわりから、シロヘビキノコが次々とあらわれる。


 シロヘビキノコの白いかさは一度上空へと上がり、くるりとターンしてから俺たちに急降下してくる。


「くっ!」


 なぞの強靭さにくわえ、はげしい降下でヴァールアクスのような破壊力を生みだしているのか。


「グラート、どどどど、どうすんだよ!」

「この古代樹は魔物になってしまったのだろう。俺たちで食い止めるぞ!」

「マジかよぉ!」


 シロヘビキノコの突撃は受け止められるが、身体に巻きつけられたら厄介だ。


 はげしい突撃をかわしながら、ヴァールアクスをかまえて接近、


「そこだ!」


 シロヘビキノコの根もとである地面を粉砕する。


「す、すげぇな――うお!」

「ジルダっ!」


 ジルダはシロヘビキノコの突撃を受けそうになったが、


「このやろ!」


 炎の魔法で反撃して、シロヘビキノコをあたまから燃やした。


「とりあえず、根もとの土を掘りおこせばいいんだなっ」


 ジルダが魔法をとなえて、両手を地面におしあてる。


 地割れを魔法で発生させて、かたい地面をあっさりとこわした。


「ジルダ。やつにあまり近づくな! 遠くから攻撃するんだっ」

「ぼくはいいけど、グラートはどうすんだよっ」

「俺は接近して倒す!」


 シロヘビキノコの突撃が左肩に直撃する。


「グラート!」


 身体がよろめくが、右足でふんばる。


「は!」


 ヴァールアクスを水平に斬り、シロヘビキノコのあたまをまっすぐに分断する。


 シロヘビキノコの根もとを破壊し、古代樹のまわりは穴ぼこだらけになった。


「ひと通り、破壊したか?」

「そうだな」


 俺たちの前にそびえるあの古代樹は、他の古代樹と様子がちがう。


 幹の中央から先にかけて、女性の身体のようなものが見える。


「なんだ、あの古代樹は」

「精霊みたいな感じなのかな?」


 古代樹が長い枝を後ろへ引く。


 限界まで引かれたつるが解きはなたれるように、古代樹の長い枝がせまってきた!


「くっ!」


 重たい枝の威力は、シロヘビキノコの突撃とはくらべものにならない。


 穴ぼこだらけの地面に隕石が落下したように、大きな爆発が俺たちをおそった。


「グラート!」

「古代樹の庭園に、こんな魔物がいるのかっ」


 強敵との戦いから、しばらくはなれていた。


 ヴァールアクスもあの攻撃を見てうずいているか!


「ジルダは遠くから魔法で撹乱してくれ!」

「わ、わかったっ」


 ヴァールアクスを引っさげて、突撃だっ。


 古代樹がすかさず柱のような枝を払ってくる。


 左から高速でせまる太い枝をよけることはできない。


 ヴァールアクスを立てて、受け止めるが、


「ぐっ!」


 巨獣の突進にもまさるその勢いを相殺することができない。


 俺はふき飛ばされて、遺跡の壁に右肩を強打した。


「グラート!」

「俺はだいじょうぶだ。ジルダは、撹乱を」

「く、くそぉ!」


 ジルダは遠くから真空波をとばす。


 半透明の円盤は古代樹の枝を裂くが、やつの中心部である幹まで切断できないか。


 ジルダのことは気がかりだが、古代樹の注意を引きつけてもらわなければならない。


 古代樹がジルダを攻撃している隙に、古代樹の後ろへとまわり込む。


「は!」


 がら空きになっている背中に、ヴァールアクスを打ちつける。


 幹は、かたい。そして、ぶあつい。


 二、三度、斧を打ちつけただけでは切り倒せないか。


 シロヘビキノコが足もとから出現する。


 そして、俺の四肢にぐるぐると巻きついてきた。


「しまった!」


 古代樹の枝が、頭上で大きく動いた――まずいっ。


 ヴァールアクスをはなして、両手のシロヘビキノコを引きちぎる。


 両足を拘束しているシロヘビキノコもちぎって、古代樹の攻撃をぎりぎりのところでかわした。


 ヴァールアクスをひろい、左足をつよくふみ込む。


「くたばれ!」


 ヴァールアクスの刃は古代樹のかたい幹に切り込みを入れる。


 いけるっ。このまま、お前を切り倒す!


「グラート、上!」


 はっと見上げた先に、古代樹の太い枝が――よけられないっ。


「ぐぅっ」


 頭上で交差させた両腕が、強烈な衝撃でこわされそうになる。


 鉄柱を何本もつみらかさねたような重量だ。俺の腕は、折れたか……。


 古代樹が左右の枝を大きくふりかぶる。


 左右から俺をはさんで、そのまま押しつぶすつもりかっ。


「やられるかっ」


 二本の巨木が轟音を発してせまる――その寸前で俺は跳躍してかわしたが……左足が引っかかってしまった。


「グラートぉ!」


 あたまから落ちそうになるところを、両手をのばして地面をささえる。


 俺の両腕は、まだつかえそうだ――。


 古代樹の果敢な攻撃はまだ続くか!


 古代樹の攻撃をふりきって、ヴァールアクスを幹に打ちつけた。


「グラート、いったんもどれ!」


 ジルダは古代樹の攻撃範囲に入らないようにしているか。


「すまない。いいときに声をかけてくれた」

「グラートががんばってるのは、すげぇけどよ。あんな戦い方してたら、身体がもたないぜ」

「そうだな。さっきの攻撃で、腕の調子がおかしくなった」


 腕の骨は折れていないが、肘から手にかけて痺れのようなものを感じる。


「げげっ、マジかよ。ぼくは回復魔法とか、得意じゃねぇぜ」

「わかっている。斧はもてるから、気にするな」


 まずいな。あの古代樹のつよさは、エンデや他の魔物の比ではない。


「アダルのバフがあれば、一撃必殺で倒せるかもしれんが……」

「アンプリファイか。でも、ぼくはつかえねぇしなぁ」


 一度、撤退するしかないか。


「わかった。ぼくが、あいつの動きを止めるよ」


 あいつの動きを止める?


「そんなことができるのか?」

「動きをにぶらせるだけだけどさ。雷の魔法のサンダーストームは、敵を感電させられるんだよ」

「感電のデバフで、やつの動きを遅くするのか。よし、やってみよう」


 ヴァールアクスをとって、古代樹に突撃する。


「あんまりちかづくなよぉ。サンダーストームの攻撃にまき込まれるからなっ」

「わかった!」


 古代樹がこわれたおもちゃのように、動き出す。


 頭上の枝をふりかぶって、俺をふき飛ばそうとする。


「くっ!」


 重たい一撃をヴァールアクスで受け止める。


 致命傷にはならないが、突風のような勢いを殺すことができない。


 俺は後方にふき飛ばされたが、両足で地面にふんばり、転倒をさけた。


「くらえっ!」


 ジルダが古代樹の前まで来て、雷の魔法をとなえる。


 灰色の空から紫電が落ち、古代樹の全身に直撃した。


「まだまだ!」


 ジルダが続けて魔法をとなえる。


 紫色の光をはなつエネルギーが古代樹にふりそそぐ。雨のように。


 天の怒りのような音が、古代樹の庭園をゆらせていた――古代樹の動きがっ。


「ジルダ、さがれ!」


 俺が叫ぶのと、古代樹が攻撃するのは同時だった。


 ジルダは古代樹がふりはらった攻撃にふき飛ばされてしまった。


 俺と、したことが……。


 古代樹は、感電したか。動きがおそくなっている。


「ジルダがつくってくれた機を逃してはならん!」


 ヴァールアクスを引っさげて、突撃だ。


 がら空きになっている古代樹の幹に、ヴァールアクスを打ちつける。


 頭上の小枝が、悲鳴のようにゆれる。


 このまま、お前を倒す!


 古代樹は枝をふりおろしてくるが……遅い!


 ジルダの魔法によって感電した古代樹は、力もうしなっている。


 だが、デバフが効くのは一時的だ。しばらくすれば、古代樹は力をとりもどしてしまう。


「その前に、お前を倒す!」


 姿勢をととのえて、古代樹にヴァールアクスを打ちつける。


 何度、打ちつけたのか。ヴァールアクスの刃が幹の中央にたっしたときに、古代樹の重たい身体は大きな音を立てて、地面にくずれた。



  * * *



「ジルダ!」


 ジルダは遺跡の壁のそばで倒れていた。


 気をうしなっているのか、身体をゆらしても目をあけてくれない。


「ジルダ、だめだ! こんなところで死んではならんぞっ」


 何か、俺にできることはないのかっ。


 あたりをあてもなく見まわす。


 戦いの終わった狩場に、薬草が都合よく生えているわけがない。


 だれでもいい。だれか、回復魔法を――。


「お、お前はっ」


 向こうの廃屋に立っているのは、だれだ。


 冒険者か? チェインメイルを着込んで、腰に長剣をさしている。


 兜をかぶっていない頭は、見たことのある、おかっぱ頭だ――。


「グ、グラートっ」

「ウバルドか」


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