表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/271

第33話 ジルダと再会、でも家臣にはなりたくない?

 プルチアの流人たちが、駆けつけてくれたのか!


「ひさしぶりだな、ジルダ」


 ジルダの勝気な態度は、あいかわらずだ。


「おう。テオフィロに言われたから、来てやったぜ」


 ジルダと流人たちが一斉に笑う。


「テオフィロ殿から?」

「そ。なんも聞いてねぇの?」


 テオフィロ殿から、そんなことを……ああ。活きがいい者というのは、ジルダたちのことだ――。


「ジルちゃん!」


 アダルジーザがジルダにとびついた。


「わっと」

「ジルちゃん! ジルちゃんっ」

「ははっ。アダル、ひさしぶりっ」


 アダルジーザがジルダに抱きついて、身体をふるわせる。


 ジルダの目にも、ひかるものがあった。


「ずっと、会いたかったんだから……」

「ぼくも、そうだよ」


 ジルダが来てくれて、よかった。


「グラートさん。しばらく、そっとしておきましょう」

「そうだな」



  * * *



 陽が落ちて、仮住まいの屋敷にジルダを案内した。


 屋敷と言っても、農村の小屋みたいな建物でしかないが。


「プルチアではたらかされていた者たちは、釈放されたんだな」

「そうだぜ。だからぼくたちは、無罪放免で自由の身になったってわけ」


 この屋敷は、プルチアで借りていた家になんだかそっくりだ。


 居間のテーブルを、ジルダをくわえた四人でかこむ。


「テオフィロから聞いたぜ。グラート、あんたが陛下に奏上してくれたんだろ?」

「ああ。宰輔にはにらまれたがな。陛下は俺の言葉を聞いてくださった」

「陛下はいいけど、さいほって、だれ? 国のえらい人?」

「ああ。えらい人だぞ」

「へぇ。そうなんだぁ」


 のんきな言葉をはなつジルダに、アダルジーザがくすくすと笑う。


「王宮でも、グラートは元気に無双してたってわけか! あんたはほんと、敵なしだなぁ」

「そんなことはない。毎日、苦労がたえない」

「それ。あんたが言っても説得力ないから!」


 ジルダのするどい言葉に、笑いが込みあげてしまった。


「ジルダもやはり無実の罪でプルチアへ流されていたんだな」

「そうだぜ。言わなかったっけ?」

「どうだったかな。わすれてしまった」


 ジルダが露骨にいやそうな顔をした。


「うわ、ひでぇ。せっかくたすけに来てやったのに、これだぜアダル。グラートは騎士になったから、ぼくらのことなんか、もう、どうでもいいんだぜぇ」

「そんなことないってばぁ」


 ジルダがいると、さらににぎやかになるな!


 シルヴィオだけはひとりで茶をすすっている。ジルダのことを紹介しなければ。


「シルヴィオ。彼女はジルダだ。俺がプルチアに流されていたときに、世話になっていたんだ」

「あ、はい」


 シルヴィオがジルダに右手をさし出した。


「シルヴィオです。グラートさんの第一の家臣です。よろしく」

「おう」


 ジルダがシルヴィオと握手をかわすが、


「っていうか、家臣って、そういう関係なの?」


 俺に疑惑をふくませた視線をむけてきた。


「そうだ。俺は騎士になったからな。シルヴィオは側近だ」

「へ、へぇ」


 ジルダは若干だが引いていた。


「冒険者じゃないから、ギルドの仲間とかじゃないんだ」

「ギルドでもよかったのだが、宮廷は格式にこだわる者が多いからな」

「ああ……あのネグリさんみたいな感じね」


 ジルダがくちびるをひくひくさせる。


「でも、第一の家臣はアダルじゃねえの? この人なの?」

「この人ってな! アダルさんはグラートさんの奥方様なんだから、家臣なわけないだろっ」


 シルヴィオ、おちつけ。


「お、おくがた?」

「そうだ。今ごろ気づいたのか」

「おくがたって、結婚したってこと?」

「それ以外にないだろ」


 ジルダが思い切り目をまるくしている。


 俺とアダルジーザを何度も見くらべて……こういう間は、苦手だっ。


「やったじゃん、アダル! やっとグラートとむすばれたんだぁ」

「う、うんっ」

「グラートといっしょになりたいって、前から言ってたもんなぁ!」


 そう、だったのか。


「ジ、ジルちゃんっ」

「なんだよ、てれんなよぉ。この、このっ」

「ジルちゃんの、いじわるっ」


 ちょっと外に出て、夜風にあたりたくなってきた……。


「グラートも、赤くなってんぞぉ」

「そういう言い方は、やめろっ」


 ジルダの意地悪い性格を、すっかりわすれていた。


「話をもどすが、プルチアに流されていた者たちは、故郷に帰れたんだな」

「そうだぜ。全員じゃねえけどな。そんでもって、ぼくとか一部の物好きは、あんたに食わせてもらうためにここへ来たってわけ」

「俺は領主になったばかりだからな。お前たちを養える度量は、まだないぞ」

「へーき、へーき。ぼくたちで勝手にやるから。他のひどい領主なんかの下にいるより、あんたのとこにいた方が気楽だろ?」


 なるほど。ジルダらしい発想だ。


「無論だ。必要最低限のことだけこなしてくれれば、後は好きにしていい」

「へへ。ありがてぇぜ」

「ここサルンの地は、長い戦いで荒廃している。村の安定した経営がおくれるようになるまで、数年はかかるだろう。ジルダにはすまないが、どうか協力してほしい」

「まかせときな。ぼくはともかく、みんなはやる気まんまんだから、あんたに協力してくれるぜ!」


 ジルダもきっと協力してくれるだろう。恩に着る。


「テオフィロ殿は、まだプルチアにとどまっているようだな」

「ああ。なんか、都に返り咲ける的な話が来てたらしいんだけど、それをことわっちまったんだよ」


 テオフィロ殿は、みずからプルチアにのこっているのか。


 アダルジーザもおどろいている。


「そうなのぉ?」

「そ。『グラートとの約束をまもるために!』とか、テオフィロはほざいてやがったけど、実際は第二の金山が見つかって、浮かれてるだけなんだぜっ」


 俺はアダルジーザとずっこけそうになった。


「テオフィロさま……」

「なんか、金を掘るのがめっちゃ楽しいらしいぜ。ぼくたちには砂金すらくれねぇのによ。ほんと、けちだぜ、あいつ!」

「テオフィロ様はぁ、グラートよりも、お金のことにしっかりしてそうだもんねぇ」


 テオフィロ殿がしっかり者なのか。俺がだらしないだけなのか。


「つーわけだから、あんなドケチのことなんか、これーっぽっちも、気にしなくていいぜ」

「テオフィロ殿のことは、わかった。元気なのがわかれば、それでいい」


 プルチアにたくさんの資源がねむっているとわかれば、宮廷も態度を変えるだろう。


 テオフィロ殿も出世街道にもどれるかもしれない。


「これもテオフィロから聞いたけど、グラートは都に帰るなりドラゴンを倒しちまったんだろ? すげぇよなぁ」

「ドラゴンを倒したのは事実だが、俺ひとりの手柄ではない。アダルとシルヴィオの助力があって、はじめて成しえた功績だ」

「そうなんだぁ。ふたりとも、すげぇんだなぁ」


 アダルジーザがくすくすと笑う。


「グラート。宮殿の医務室にはこばれて、また何日も寝込んでたんだよぉ」

「また寝込んでたのかよ! ガレオスのときから、ちっとも成長してねぇじゃねぇかっ」

「むりしないでって、言ってるんだけどねぇ」


 また苦手な方向へ話が向かいはじめたな……。


「これが俺の役目なのだ。しかたないだろう」

「そうだけどさぁ。奥方様の立場としては、ほっとけないぜ?」

「そうだよぅ」


 うーむ。耳がいたい……。


「わかった。留意しておこう」

「ふふ。おねがいねぇ」

「留意なんか、絶対にしねぇと思うけどなっ」


 ジルダは口がよくないが、機転が利く優秀な女だ。


 ここに残ってもらえるのであれば、俺の家臣になってもらいたいが。


「ジルダ。単刀直入に言う。俺の家臣になってくれないか」

「えっ。家臣に?」

「そうだ。俺はたくさんのたすけを求めている。ジルダの実力と信頼性は今さら議論する必要もない。家臣になってくれれば、今以上に便宜をはかることもできるぞ」

「へ、へぇ。そうなんだぁ」


 ジルダの反応は、今ひとつか。


「ジルちゃん。だめかなぁ」

「だめとか、そういうんじゃねぇけど……」


 何か、ひっかかるものがあるのか。


「ぼくさ、ギルドとか、そういうのは苦手なんだよ。ふたりには、話してなかったかもしれねぇけどさ。騎士と、配下っていうの? そういう関係は、ギルドなんかとちがうかもしれないけど、こわいんだよ」


 騎士と臣下の関係が、こわい……のか?


「ギルドとか、グループ内の人間関係って、むずかしいじゃん。アダルもグラートも、いいやつだっていうのは、もちろんわかってるけど……」

「ギルドとかの人間関係って、むずかしいよねぇ」


 ジルダが気にしていることは、よくわかる。


「そうか。残念だが、ジルダの意思を尊重しよう」

「ごめんよ。グラートやアダルが嫌いだっていうわけじゃないんだ。その、ちょっと、仲間といろいろあったからさ」


 そうだったのか。


 そういえば、過去に仲間と何かあったと、話していた気がする。


「騎士になったグラートから声をかけられるのって、ほんとはすげぇ名誉なことなんだろ。でも……ごめん! ちょっとだけ、考えさせてっ」

「もちろんだ。家臣になってくれないからといって、ここから追い出したりはしない。だが、よい返事をいつまでも待っているぞ」

「お、おうっ」


 ジルダがもうしわけなさそうに頬をかいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 久々になってしまいましたが、ドラスレ様に会いに来ました♡ 騎士になったのはもちろん、アダルさんとの婚約に、ジルダさんの無罪放免と、嬉しいことだらけで、とても楽しく、よい息抜きになりました(…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ