第28話 都のラストバトル、ドラゴンスレイヤーたちの連携
ゴールドドラゴンの姿にもどったゾルデが、電撃のブレスで都を破壊する。
「うわぁ!」
「に、にげろ!」
一度の攻撃で十戸の土地はゆうに破壊するブレスだ。敵味方の区別などつけられない。
電撃にまき込まれた人間、魔物の兵ともども全身を焼きこがされていく……。
「このままだと、ヴァレンツァが破壊されてしまう」
片手でヴァールアクスを斬りつけるが、ゾルデの鋼のような鱗に刃がはじかれてしまう。
「そんなふざけた攻撃が俺に通用するか!」
ゾルデの尻尾による攻撃が、巨獣のような衝撃をあたえる。
「ぐっ……」
俺は尻尾の攻撃を真正面から受けてしまい、戦場の外へ投げ出されてしまった。
「とどめぇ!」
ゾルデが二枚の翼をはためかせ、俺の真上にせま――ふみつぶすつもりか!
ずしりと城が落ちてきたような衝撃が地面に伝わる。
地面は轟音を発し、振動で地割れまで生まれる。
俺はふみつぶされる直前に横にとんで回避したが、振動の余波にまき込まれてしまった。
強い! ヴァールの腹心だったあの男は、並みのドラゴンとは格がちがうっ。
「グラートさん!」
崩壊したヴァレンツァの北門から駆けてくるのはアダルジーザとシルヴィオか。
「グラート、大丈夫!?」
「大丈夫だっ。なんとかな」
ゾルデが足もとを見下ろして、長い首をきょろきょろと動かしている。俺をさがしているのだろう。
「アダル、すまないが左肩の治療をたのむ。肩がはずれてしまった」
「う、うん!」
アダルジーザがすぐに回復魔法をとなえてくれる。
「なんて強さだっ。あのドラゴン。クレモナをまもってたドラゴンとは全然ちがうぞ!」
「シルヴィオ。やつはドラゴンたちの総帥である上に、俺へのにくしみで力を増大させている。あの強靭さはヴァールをしのぐかもしれない」
「な、なんと……!」
ゾルデが戦線から離れた俺に気づいた。
「俺ひとりの力では奴を倒せない。ふたりとも、力をかしてくれ」
「もちろんですとも!」
「みんなで、戦おう!」
ゾルデが翼を大きく広げて空へと舞い上がった。
「逃げろ!」
ゾルデがまた急降下し、俺たちをふみつぶそうと攻撃してくる。
「なんだぁ、そいつらは。貴様の仲間か? ザコがむらがったところで、俺には勝てんぞ」
ヴァールアクスがゾルデの後ろに転がっている。さきほどの攻撃で、落としてしまったかっ。
「シルヴィオ! 少しだけ、やつの気を引きつけてくれっ」
「りょ、りょうかいです!」
シルヴィオが双剣をかまえてゾルデに突撃する。
「そんな細い武器で俺が斬れるかっ!」
ゾルデが巨大な右手をふりおろしてくる。
シルヴィオは華麗に跳躍し、ゾルデの金色の顔面を斬りつけた。
「ぐおっ」
「どうだ悪竜っ。俺の剣でもお前の顔は斬れたぞ!」
シルヴィオ……よくやるっ!
「調子に、乗るな!」
「くっ」
ゾルデの顔から飛び下りるところで、シルヴィオが反撃を受けてしまった。
「むりに接近するな! 直撃を受けたら致命傷だぞっ」
「え、ええ。わかってます」
ゾルデの背後にまわり込み、ヴァールアクスをひろう。
短いあいだだったが、アダルジーザが俺の肩を治療してくれた。肩がつながり、痛みがかなり引いている。
「くらえっ!」
シルヴィオに気をとられて、背中ががら空きだ!
「ぐわっ!」
いけるっ。両腕で斧をにぎれば、ゾルデの鱗は斬れるっ。
「くそっ。前と後ろから、ちょこまかと……」
ゾルデはガレオスなどの巨大生物と同じだ。重たい身体を瞬時に転回することができない。
シルヴィオと挟み込むように撹乱すれば、ゾルデの攻撃はにぶくなる。
「いいかげんにしろ!」
ゾルデがいかり、尻尾を鞭のように打ちつける。
山を破壊するような一撃だが……そんな雑な攻撃ではくらわんぞ!
「俺はこっちだ!」
左足をふみ込み、ゾルデの足にヴァールアクスを打ちつける。
ぶあつい刃が鱗を裂き、ゾルデは悲鳴をあげるが……致命傷にはならないかっ。
「かくなる上は……」
ゾルデが翼を動かして空へと上昇する。
塔の天井くらいの高さで静止して――電撃ブレスの攻撃かっ。
「くっ」
「きゃぁ!」
電撃がはげしい雨のようにふりそそぐ。
まともにあびれば、全身が丸焦げになってしまうような攻撃だ。
電撃が落ちた地面は土が何度も掘りおこされて、無数のモグラの穴ができていた。
「まずいです、グラートさん」
「そうだな。このままだと、ゾルデを倒せない」
アダルジーザがすぐに回復魔法をかけてくれる。
電撃の火花が腕や足を焼くため、火傷がひりひりする。
「ど、どうしよう……」
「上空に逃げられたら、俺たちは攻撃できない」
「ではっ、どうすれば――」
ゾルデがしつこく電撃をふらせてくる。
「ジルちゃんが、いれば……」
「ジルちゃん、とは?」
「俺たちがプルチアで知り合った女の流人だ。彼女は優秀な魔道師だったのだ」
「ああ……」
俺とアダルジーザは攻撃魔法が苦手だ。
シルヴィオは攻撃魔法をあつかえるが、あんなに高いところへは飛ばせないだろう。
「ここにいない者にすがっても、奇跡は起きないだろう」
「そう、だよねぇ」
「ならば、接近戦で倒すしかないですね」
ゾルデを地上へおびき寄せる方法はないか。
「アダル、マジックベイトでやつを地上へおびき寄せられるか?」
「マジックベイト? は、しゃべれない魔物じゃないと、おびき寄せられないよ」
マジックベイトはゾルデに通用しないか。
「あんなにおっきいんだから、ずうっととんではいられないんじゃ――きゃっ!」
ゾルデが落とした電撃が、アダルジーザにあたりそうになった。
「それなら、マジックバリアとアンプリファイを俺にかけてくれ!」
「えっ。もしかして、特攻するの?」
「それは危険です! いくらグラートさんでも、死んじゃいますよっ」
ふたりとも、いい仲間だな。
「そ、そうだよ、グラート。そんなの――」
「しかし、これしか方法がない。ゾルデを一撃でしとめなければ、俺たちは全滅だ」
「そう、ですが……」
アダルジーザを説得し、マジックバリアとアンプリファイをとなえてもらう。
「また、前みたいに倒れちゃう……」
「だいじょぶうだ。俺は死なん。俺をだれだと思っているんだ」
「そんな……グラートは普通の人間なんだよっ」
アダルジーザの目に、涙が――ゾルデの攻撃がはげしさをましている! かなしんでいる場合ではないっ。
「ふたりとも、向こうへ下がっていろ!」
電撃のふりそそぐ死地へと飛び込んだ。
「ぐぅっ」
電撃が近くに落ちるたび、高熱の火花が俺の腕や肩を焼く。
マジックバリアでまもられていなければ、致命傷だ。
空に浮かぶゾルデを見あげ、
「ゾルデっ、いつまでつまらない攻撃をしている。そのように雑な攻撃では俺を倒せんぞ!」
腹の底から力をしぼって、さけんだ。
「なんだとぉ?」
「ヴァールはそのように卑怯な戦いをしなかったぞっ。ヴァールの忠節を貫くと言うのであれば、俺をおそれないで戦え!」
雨のように降る電撃がぴたりと止まった。
「弱い人間のぶんざいで、たわごとを……」
「弱い人間をおそれるお前は弱い人間以下だっ。そのような戦いで俺を倒したところで、アルビオネの者たちはお前をヴァールの後継者とみとめないだろう!」
やつのプライドを刺激すれば、地上におりざるをえないだろう。
「弱い人間めっ。言わせておけば……」
ゾルデの巨体がゆっくりとおりてくる。作戦成功だ。
「ならば、貴様ののぞみどおり、この手で八つ裂きにしてくれるわ!」
ゾルデのふりおろされた右腕が、俺を吹き飛ばす。
「どうした! はやくかかってこいっ」
「言われなくともっ!」
ヴァールアクスをふりかぶり、フルスイングでゾルデの腹へ打ち込む。
アダルジーザのバフが効いた両腕は轟音を発するヴァールアクスに鬼神の力をあたえる。
「ぐわっ!」
「まだまだぁ!」
攻撃を連続でたたき込む!
ゾルデの黄金の鱗に、ヴァールアクスを何度も打ち込む。
ヴァールの力が込められた刃は強靭な鱗を裂き、鮮血を地面にながさせる。
「しねっ!」
ゾルデが身をひるがえして、尻尾の攻撃をくり出してくる。
至近距離で長い尻尾をよけることなどできない。俺はまた後方へ吹き飛ばされた。
「これでおわりだ!」
ゾルデが巨体をわずかに浮かし、俺をふみつぶしにかかる。
ふまれる直前に俺は地面を転がり、かろうじて致死の攻撃をよけた。
ゾルデが長い首を動かして、俺にかみついてくるっ。
巨獣の突撃のような苛烈さだが……負けるものか!
「今日ここで、お前を倒すっ!」
後ろへとび、ヴァールアクスを引いた。
アンプリファイで増強された力を、ヴァールアクスへ込める。
「はっ!」
右足で地面をけり、ゾルデの前を高く跳躍した。
ヴァールアクスの最強の力が空を裂き、大地へとまっすぐにふりおろされた。
強烈な一閃がゾルデの顔面と、首筋を割る。
「ぎゃあぁぁぁ!」
勝負あった! この攻撃は致命傷になったはずだ。
だが、ここで攻撃の手をゆるめてはいけない。攻撃をたたみかけろ!
「く、くそっ」
ゾルデが翼をはためかせて、後ろへ大きく退いた。
ゾルデの眉間から首筋にかけて、深い一撃が斬り込まれている。
「弱い人間の、ぶんざいで……」
ゾルデが上空へと上がっていく。また電撃ブレスに攻撃を切り替えるのか!?
「ゾルデめ、逃げるのか!」
ゾルデは上空で止まったまま、逆光を背に受けていた。
顔をおろし、俺をにらんでいるようだが、電撃ブレスはしかけてこない。
俺はヴァールアクスを地面に突き立てて、ゾルデがしかけてくるのを待った。
どのくらいの時間が経ったのだろうか。わずかな時間だったのか。それとも、悠久の時だったのか。
ゾルデが身をひるがえし、森の向こうへと去っていく。アルビオネがある方角だった。