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第262話 甦る戦いへの渇望

「ルーベン、ウバルド! 俺のそばからはなれろっ」


 ヴァールは闇の斧を瞬時に召喚していた。


 俺は斬られる寸前に青の斧をかまえて、ヴァールの斧を受け止めた。


「なんだ、その斧は。しばらく見ねえうちに、新しい武器をこしらえてきたのか?」

「この斧は、お前を倒すために用意したものだ。前の斧より強いぞ!」


 ヴァールが斧を押しつけてくる。


 巨獣を押し倒してしまうほどの力は、全力で対処しなければすぐに押し飛ばされてしまう。


「青くひかる斧たぁ、無駄にしゃれ込んでるじゃねえか。宝石か水晶でもつかってやがんのか?」

「お前なんぞに教える義理はない!」


 両腕に力を集めて、瞬間的な爆発力を生み出す。


「ふっとべ!」


 ヴァールの剛腕を力づくで押し返す。


「なにっ」


 この前のようにやられはせん!


 ヴァールは床をけって素早く後退する。


 その後を追うように距離をつめろっ。


「はっ」


 頭上にふり上げた青の斧を容赦なくふり下ろす。


 ヴァールの脳天を目がけて刃を下ろしたが、斬る寸前でよけられてしまった。


「くそがっ」


 ヴァールは左に逃れていた。


「ちぃっ。この俺様が、力で人間ごときに負けるだとっ」

「ヴァールよ。お前は俺と戦いたかったのではないのか? それなのに、俺をただの人間と同一視しているとは――」


 攻撃の手をやすめる理由はないっ。


「即刻そのあやまりを直せ!」


 青の斧が空を斬り、ヴァールの背後にたたずんでいた柱を斬り落とした。


「くくっ。これだぜ。ぞくぞくするぜぇ!」


 ヴァールはやはり手ごわい。


 力押しの戦闘スタイルでありながら、俺が繰り出す致命的な攻撃をしっかりとかわしている。


「グラートっ。てめえはやっぱり最高だぜ!」


 ヴァールが後ろに飛び、柱の上部を右足でけった。


「シャァッ!」


 闇の斧を一閃すると、闇の波動が一直線に襲来した。


 なんだこれはっ。


 横に飛んで強烈な攻撃をかわす。


「うわぁぁ!」


 ヴァールの腹心たちが、やつの攻撃に巻き込まれたか。


 闇の力は柱ごと腹心たちを吹き飛ばし、玉座の間に巨大な穴が開いた。


「ぼさっとしてんじゃねえ!」


 ヴァールが闇の斧を続けてふりまわす。


 闇の波動が真空波のように飛来してくる。


「青の斧よ!」


 青の斧を盾のように向ける。


 透明の大楯おおたてが出現し、闇の波動をすべて防いでくれる。


「くっ」


 だが、衝撃までは相殺することはできない。


 押し負けないように、腰を落としてヴァールの攻撃を耐えた。


「なんだ、その斧はっ。どうなっている!?」


 ヴァールが玉座の向こうで目を見開いていた。


「グラート、てめえは魔法なんて使う野郎じゃなかったはず。魔法が込められた斧だというのか?」

「お前にわざわざ答える道理はないが、お前を倒す特殊な斧だということだけは付け加えておこう」


 青の斧の力は絶大だ。


 攻撃力でヴァールに押し負けず、防壁を張る特殊能力までそなえている。


 この斧ならば、ヴァールに対抗できる。


 アンサルディ殿が示した困難な道筋が、俺をここまで導いてくれたのだ。


「俺を倒すための斧、か。ますますおもしれえ」


 ヴァールは口を大きく開けて笑っていた。


「俺はっ、こういう戦いを望んでたんだ。戦いっつうのは、やっぱりこうでなくちゃな!」


 ヴァールが斧を手にしていない左手を上げた。


 何をする気だっ。


 彼の手から召喚されるのも、鎌のような大斧おおおのだとっ。


「しねっ」


 ヴァールが左右の大斧をふり下ろす。


 闇の力が剣のように放出されて、俺にまっすぐ襲いかかってくる。


「だったら、そのうざってえバリアを強引に割ってやらあ!」


 すさまじい波動を感じるが、青の斧の盾でふせぐのは簡単だ。


 青の斧をかまえ、両足をふみしめてヴァールの攻撃をふせいだ。


「死ね死ねしねえぇぇっ!」


 闇の攻撃を連発する気かっ。


 むちゃくちゃだ。利かないとわかっているはずなのに、強大な力をかまわずに連発するのか。


 有りあまる力をもつヴァールらしい戦法だ――。


「ぼさっと突っ立ってるんじゃねえ!」


 俺が防御に専念している隙を突いて、ヴァール自身が突撃してきただと!?


「ぐっ」


 ヴァールは左手にもっていた斧を消失させて、一本の斧に力を込めて青い盾に打ちつけてきた。


 盾は割れないが、竜巻のような衝撃を押し殺すことができない……!


 吹き飛ばされて、背後のかたい壁に背中を強く打ちつける。


 全身の骨が折れるような衝撃と、止まりかけた呼吸を整えるのにわずかな間を要した。


「はっはっは! 死ねぇっ」


 ヴァールの連続攻撃かっ。


 腰を下ろし、床をけって右に逃れる。


 俺が打ちつけた壁は、ヴァールが一撃で粉砕していた。


 やつに攻撃ばかりさせるな!


 近くの柱に飛んで右足を押しつけて、突撃の勢いを倍加させる。


 ヴァールは塵煙じんえんにつつまれて、俺の居場所がわからなくなっているようだ。


「ヴァールよ、ここだ!」


 青の斧を両手でもち、全身の力を集める。


 幾多の魔物をしとめた渾身のなぎ払いが、油断していたヴァールをとらえた。


「とべっ!」


 青い刃がヴァールの左の胸のあたりにぶつかる。


 ヴァールは玉座の間の入り口の付近まで吹き飛ばされた。


 まだまだぁ!


 ヴァールを追って、真上から青の斧で押しつぶす。


「ぐっ!」


 ヴァールは顔をゆがめて、俺の攻撃をかわしていた。


 左に逃れるヴァールを追い、しつこく斧を斬り払う。


 死ととなり合わせの決戦をくり広げているはずなのに、なつかしい感覚がまとわりついてくるのは、どうしてか。


 この全身をふるえさせる感覚は、ゾンフ平原でかつてヴァールと戦っていたときのものだ。


「ヴァールよ、俺も思い出したぞ」


 あのときは何も背負わず、この最強の男を倒すことだけに全身全霊をささげていた。


「お前とかつてゾンフで戦ったとき、俺はお前を倒すことだけを考えていた。お前を倒し、この長い戦いの果てにおがめる景色に思いをはせて、俺はひたすら斧をふるっていた」


 あのときは、戦いにもっと純粋であったのかもしれない。


 俺がふり下ろした斧を、ヴァールが闇の斧で受け止める。


「お前の言う通り、俺は変わってしまったのかもしれない。騎士になり、王国を背負う立場になって、戦いに重大な意味や使命を感じるようになってしまった。純粋に戦えないというのは、とても残念なことだ」

「やっと、わかってきたということか」


 ヴァールの金色の瞳がわらっていた。


「つまんねえことをごちゃごちゃ考えねえで、どっちが強えのか、もてる力を尽くして戦えばいいだけの話だろうが。どいつもこいつも、こんな単純なことがどうしてわからねえ? 俺は理解にくるしむぜ」

「人もアルビオネの魔物たちも、お前のように強くないのだ。強くないから、敵に勝つ方法を模索しなければならないのだ」

「だからって、つまんねえ罠をしかけて勝ったって、何もうれしくねえだろうが。そんな勝利になんの意味がある!?」


 下腹部に強い衝撃がはしる。


 ヴァールが俺の腹をけったのかっ。


 足が床をすべり、俺はその場に倒れてしまった。


「おら!」


 闇の斧が俺の眼前にせまる!


「くっ!」


 横に逃れて強烈な一撃をかわすが、次の攻撃にそなえて青の斧をかまえた。


「アルビオネのやつらは人間どもが憎すぎて、人間どもを食い散らかすことしか頭にねえ。だから話にならねえんだ」


 ヴァールは闇の斧を消失させていた。


「人間が嫌えなのは俺も同じだが、人間どもを食い散らかした後に何がある!? 群れる人間どもを全部ぶっ倒して、前人未踏の領域に足を踏み入れられるから、おもしれえんだろうが。

 どっちがわりいだの、どっちが先に手を出しただの、くだらねえことばっか考えてっから、アルビオネの連中は俺がいねえと人間の国すら落とせねえんだ。カスばっかりで嫌になるぜ」


 玉座の間の隅に避難していた彼の臣下たちは、こぞってうつむいていた。


 ヴァールが他の魔物たちと違うのは、強さだけではないということか。


「お前はやはり一筋縄では倒せない敵だ」

「今さら気づいたのか? それとも、俺様の強さを改めて認識したのか?」

「さあな。どちらでもないかもしれない」


 死闘を演じているはずなのに、愉快な気持ちが込み上げてしまった。


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