表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/271

第26話 都へ急げ! 裏切者のギルマスとの再会

 魔族の軍の中枢であったドラゴンたちをしりぞけたことで、クレモナの関所をまもっていた魔物たちの統率がみだれた。


 都ヴァレンツァに急がなければ、陛下のお命があぶないっ。


 クレモナの関所を強引に突破し、ヴァレンツァへと急行した。


「なんとか、クレモナまで切り抜けましたね」


 シルヴィオが、馬とトカゲをかけ合わせたような騎獣を走らせている。


「少し強引だったが、止むをえまい」

「一刻の猶予もないですから。それにしても、ドラゴンをあんな簡単にしりぞけてしまうなんて、グラートさんの強さに言葉も出ません」


 ドラゴンたちは強かった。


 だが、ヴァールアクスさえあれば、俺はどんな敵とも戦える。


「俺が強いのではない。この斧のおかげだ。ヴァールの力をえたこの斧が、俺に千人力の強さをあたえてくれるのだ」

「ヴァールの鱗と牙できたえた斧ですね。ヴァールの力が宿ってるというのは本当なのでしょうか」

「実際のところはわからない。だが、この斧がなければ、俺はドラゴンどもを倒せなかったのは事実だろうな」


 ヴァールはとてつもないドラゴンだったが、そのヴァールが俺に起死回生の力をあたえてくれるのだから、少し皮肉だと感じる。


「そうでしょうか。グラートさんなら、どんな武器を使ってもドラゴンを倒せそうな気がしますが」


 シルヴィオの声に力がない。疲れているのだろうか。


「クレモナの戦いで消耗したか」

「い、いえ! 俺は疲れてなんかいません。ただ……」

「ただ?」

「ただ、グラートさんがあまりに強すぎて、とても追いつける気がしないので。……やっぱり俺はグラートさんの足もとにもおよびません」


 シルヴィオが俺のせいで自信をうしないかけている。


「それはちがうぞ。俺がドラゴンをしりぞけられたのは、あのような大きい魔物との手合いが得意だったからだ」

「そうでしょうか」

「そうだとも! オーガとの戦いで、すばらしい戦いを見せてくれただろう。ギルドを去ってからも、鍛錬をしっかりと続けていたようだな。おどろいたぞ!」


 シルヴィオがてれくさそうに頭の後ろをかいた。


「そんなことはありませんよ」

「シルヴィオ。お前は強い。もっと自信をもてっ」

「はっ。ありがとうございます!」


 シルヴィオの顔に、いくらか力がもどった。


「グラートぅ」


 今度はアダルジーザか。


「どうした?」

「このトカゲみたいなお馬さん。乗りにくい……」


 アルビオネの魔族からうばった騎獣があつかいにくいのか。


「そうだな。馬のように素直に走ってくれない」

「手綱で、ちゃんと、指示して……わっ!」

「大丈夫か!?」


 アダルジーザが騎獣から落ちてしまった。


 彼女は尻から落ちたようだから、けがはしていないようだ。


「乗りにくいようだが、この騎獣はふたりで乗ることができないようだ。もう少し、ゆっくり走るか?」

「ううん。それだと、都に間に合わないから……」

「そうだな……」


 クレモナの関所につないであった騎獣だから、人間が乗ることを考慮されていないのだろうな。


「あたしのことはいいからっ。はやく行って!」

「わかった。この騎獣にアダルがどうしても乗れなくなったら、アダルをかついでいく」


 なれない騎獣で街道をひた走る。


 夜通しで走り続け、陽が東の山々からあらわれた頃に、都ヴァレンツァが遠くに見えてきた。


「見えたぞ。ヴァレンツァだ!」

「ほんとだぁ!」


 ヴァレンツァの関所のように高い城塞が、あそこに。ああ! 何カ月ぶりだろう。


 あの城壁の向こうには黄金の街並みがひろがっているのだろう。


 しかし、城壁の前に魔族らしき者たちの姿が!


「グラートさん!」

「ああっ。アルビオネの本隊に攻撃されているようだ」

「どど、どうしようっ」


 ゾルデというヴァールの腹心だった男が指揮しているのか。


「おそらく、敵は主力の何割かをクレモナに割いていたはずだ。俺たちがヴァレンツァに向けて、関所を突破してきたからな」

「そうだと、いいんですが……」

「敵の主力はかなり削られている! 戦いの終わりは目前だっ」


 ヴァールアクスを引っさげて、ヴァレンツァの北門に突撃だ!


「おい、なんか来るぞっ」

「クレモナの別働隊か!?」


 敵の軍の後方で戦いの手をとめていた者たちが、俺たちに気づいた。


「ちがうっ。あの斧……ドラゴンスレイヤーだぁっ!」

「くそぅ、クレモナの別働隊まで突破されたのか!」


 敵の弓兵がすかさず矢をはなってくる。


「ヴァレンツァの北門はまだ敵に突破されていないっ」

「間に合ったってことぉ?」

「そうだ!」


 歩兵や槍を持った者たちが、俺に斬りかかっ――。


「すべて、なぎ倒す!」

「ぐわぁ!」


 ヴァールアクスの一撃で、魔物たちをいっきにけちらす。


「貴様ら! よくも、俺たちの都をっ」

「わたしも、がんばるよぉ!」


 アダルジーザとシルヴィオも加勢してくれる。いいぞ!


 ヴァレンツァの北門に殺到していた魔物たちの軍を、背後から一気呵成に攻め立てる。


 敵の数は多いが、背後の一点を短時間で攻めれば、風穴くらいは簡単に開けられる。


「北門の兵をしりぞければ、敵の軍はまっぷたつに割れる。そうすれば敵の指揮系統はいっきにみだれる!」

「うんっ」


 寡勢かぜいでも、多勢をしりぞけることは充分に――あれは!


「グラート?」


 開かれた北門の前で、都の騎士団らしき者たちが戦っている。


 かれらの中に、おかっぱ頭の白い顔の男がまじっていた――。


「ひるむな! 陛下とわれらの都を、なんとしてもまもるのだっ」


 ウバルドっ!


「あっ! あの人、は……」

「ウバルド……っ」


 こんなところで、再会するとは……。


「今はごちゃごちゃと考えているときではない!」

「グラートさん!」

「先に行く!」


 心の奥底からわき上がる邪念を吐きすてて、北門の魔物たちに突撃だ!


「くたばれっ!」


 跳躍してヴァールアクスを力まかせにたたきつける。


 強烈な力が、魔物と街道の石だたみをくだいた。


「なんだ!?」


 ヴァールアクスをふりまわし、うろたえる魔物たちをまとめてぶった斬る!


 門の前にむらがっていた者たちはこれですべて蹴散らした。


「おっ、お前は……!」


 ウバルドも俺の存在に気がついた。


 ウバルドの頬は砂でよごれ、チェインメイルをまとった腕は赤く染まっている。


「こんなところで再会するとはな」


 ウバルドはぶら下げた右手をふるわせていた。


「その腕では戦えまい。ここは俺にまかせ、都の中へ引きかえすのだ」

「な……んだとっ」

「門の扉を閉めれば、治療に専念できる。応急処置が済んだら、西門か東門の守備にまわればいい」


 この男のためを思った助言だったが、


「ふ、ふ……ふざけるな!」


 ウバルドがなぜか声をあらげた。


「俺はっ、陛下におつかえする勇者の館のギルドマスターだ。その俺が、尻尾をまいて逃げるというのか!」

「そういうわけではないが……」

「貴様はいつもそうやって俺をバカにするっ。ドラゴンスレイヤーだかなんだか知らないが、調子に乗るのも大概にしろぉ!」


 ああ……この男とはやはり、分かり合えないのか。


「グラートさん!」


 シルヴィオの声がしてふりかえると、剣をかまえたリザードマンが斬りかかっていた。


 ヴァールアクスの一閃でリザードマンの胴を裂いたが……魔物たちがあつまってきたか。


「アダル、シルヴィオ! 気をつけろ。数が多いぞっ」

「え、ええ……」

「そんなこと、言ったってぇ」


 腰を下げて、ヴァールアクスに両腕の力を集中させる。


「アダル、シルヴィオ、はなれろ!」


 ヴァールを倒した圧倒的な破壊力で、すべてをたたき割る!


「はっ!」


 空高くとび、街道の石だたみに刃を――圧倒的な力をたたきつける。


「くっ!」

「きゃぁ!」


 超大な爆撃のような力が八方へはなたれる。


 圧倒的な力が味方ごと魔物たちを彼方へ吹き飛ばす。


「しまった……力が強すぎたか」


 北門の前に、噴水のような穴ができてしまった。


 アダルジーザとシルヴィオまで遠くへ吹き飛ばしてしまったか……。


「アダル、シルヴィオ、すまな……」


 北の森へとのびる街道に、金色の人間がひとりだけ立っている。


 門の周辺にいた他の魔物たちはすべて吹き飛ばされたというのに。


「ドラゴンスレイヤー……貴様か。ヴァールさまの、お命を……うばったのは」


 黄金を身にまとったような男だ。


 背たけはシルヴィオとおなじくらい。金色のおっ立てられた髪に、白い顔。


 ひょろっとした身体に金の胸あてをつけて、金箔のようなマントをはためかせていた。


「その金色の見た目。お前が、ゴールドドラゴンのゾルデとやらか」

「きさま……ゆるさん。ゆるさんぞぉ!」


 ゾルデが地面をけり、まっすぐに突撃してくる!


「しねぇぇぇ!」


 ヴァールすらしのぐ殺気だっ。


 右手で地面に引きずっていた剣はヴァールアクスよりも大きいだと!?


「ぐぅっ」


 大剣のすべての重量が、ヴァールアクスの柄にのしかかる。


 並の斧なら、この一撃で折れていただろう……。


「貴様だけは、貴様だけは……この手でかならず殺すっ!」


 ゾルデの狂気が俺の身体を吹き飛ばした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] どうも、こんにちは。 Twitter企画をしていた神代リナです、遅くなって申し訳ありません。 全話は読めなかったので、26話までの感想となります。 まず、よくある追放モノでありながら先の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ