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第256話 寸分の勝機をつかめ!

 ザパリョーネが亜人の姿にもどり、地面の中へと消える。


 地中から飛び上がる攻撃をしかける気かっ。


「グラートっ」


 ルーベンの声がする。


 全身を血と土でよごしているが、大きなけがはしていないか。


「やつがまた下から攻撃してくるぞ。遠くへはなれるのだ!」

「おっ、おう!」


 まずい。ここで苦戦していたら、ヴァールの侵攻など止められない。


 だが、ザパリョーネは強敵だ。どうする……!?


 俺の足もとから地鳴りのようなものが聞こえてくる。


 やつは俺の真下にいる。


 地面をけって後退した直後に、足もとの地面が割れた。


「くっ」


 噴火に似た強い衝撃を回避することは不可能だ。


 しかし、ザパリョーネが出現する場所を予測し、直撃をさければ致命傷はさけられる。


 空中で冷静に態勢をととのえて、やつの強烈な攻撃に対処できればよいのだ。


 着地と同時に接近し反撃をしかける!


 案の定、地上にあらわれたザパリョーネは隙だらけだ。


「なにっ」


 刃で地面を擦るようにかまえ、跳躍と同時に斬り上げる。


 跳躍の最高地点と同時に刃を切り返し、落下と同時に斬り落とした。


「ぐっ、バケモノめ!」


 ザパリョーネが巨体をゆらしながら後ろに飛んだ。


 着地と同時に地面が揺れて、俺はバランスをくずしてしまった。


「そこだっ」


 ザパリョーネが巨大な土のかたまりを召喚し、飛ばしてくる。


 腕の力をつかって横へ移動したが、攻撃をよけ切ることができなかった。


 左足に強烈な一撃が打ち込まれる。


「ぐっ」


 土のかたまりが直撃して骨が折れたかっ。


 足を負傷したら、攻撃をよけることはおろか、攻撃をしかけることもむずかしくなってしまう。


「ヴァール様を……いや、わが国をおびやかす貴様はっ、ここで死ななければならないのだ!」


 ザパリョーネが次々と土のかたまりを飛ばしてくる。


 カタリアの戦場は大きな土のかたまりが散らばり、また無数の穴が開いて惨状と化していた。


「お前たちが思い上がった野心を抱かなければ、俺はお前たちを攻撃しない!」


 真正面から飛ぶ土のかたまりを青の斧でたたき割る。


 土が右と左に軌道を変えて、俺の前に血路が開かれた。


「ふざけるなっ。わが国の脅威を取り除くことの何が悪いかっ!」


 ザパリョーネが空高く飛び、俺を押しつぶそうとしてくる。


 横に飛んで直撃を避けたが、同時に発生した地震まで回避することはできなかった。


「それはこちらも同じ。わが国を侵略するお前たちは、ヴァレダ・アレシアの脅威そのものだ!」


 すぐに態勢をととのえて反撃する。


 斧を斬り上げ、ザパリョーネの横腹を斬った。


「お前たちが俺たちを脅かすから、お前たちを殲滅せねばならんのだっ」

「たわけたことを申すな! お前たちの度重なる侵略に脅かされているのは、俺たち人間の方だ」


 ザパリョーネが身体を旋回させて、長いしっぽを飛ばしてきた。


 傷ついた足は、まだ動くっ。


 長いしっぽを完全にかわすことはできないが、大きなダメージを回避できれば充分だ。


 ザパリョーネがきつくにらみつけてくる。


「俺としたことが、人間風情と話し合おうとなどと、少しでも考えたのがバカだったぜ」

「人間と魔物の戦いは、ヴァレダ・アレシアとアルビオネが建国されるはるか昔から続けられていたものなのだ。今さら、どちらが悪いなどという不毛な言い争いをしても無駄だっ」

「なにをぉ!」

「俺も無駄な戦いはしたくないが、お前たちが平和をおびやかす以上、戦いをやめることなど断じてできん!」


 左足で地面をける。


 跳躍して空中で身体を旋回させる。


「ならば、お前たちが一人残らず消え去るまで、食らいつくしてくれるわ!」


 ザパリョーネが炎を吹いたか。


 青の斧を盾にして炎を防ぐ。


「はっ!」


 青の斧でザパリョーネを斬り落とす。


 この男を倒すまで、戦うことをやめるな!


「お前のようなバケモノが人間の側についているかぎり、俺たちは戦うことをやめん! たとえここで倒れても、俺たちの意志を継ぐ者がお前たちを滅ぼすのだっ」

「バケモノとは失礼な。大きな身体で俺たち人間を押しつぶすお前たちこそ、バケモノであろう!」

「ほざけ!」


 ザパリョーネがまた炎を吐き出した。


 だが火の勢いはかなり弱くなっている。これならば、青の斧でふせぐまでもない。


 横に飛んで、炎をかわしつつ真空波で反撃する。


「させるかっ!」


 ザパリョーネが土のかたまりを盾にして、俺が放った真空波をふせいだ。


 あの土の力は、あのような使い方もできるのか。


 ザパリョーネは武人肌な性格に似合わず、意外と器用な男だ。


「なんてしぶとい野郎だっ。お前の体力は底なしかっ」


 ザパリョーネが正面から向かってくる。


 口をひろげて、するどい牙で俺をかみ殺すつもりか。


「ヴァールと戦ったときは、こんなものではなかったぞ。俺も、やつもな」


 ザパリョーネの動きは、確実に衰えてきている。


 にぶくなった攻撃ならば、後退してかわすのは容易だ。


「ぐっ。たとえヴァール様の域に達せなくとも、ここでお前を倒す!」


 ザパリョーネが亜人の姿にもどり、地面の中へと消えた。


 そろそろ、決着をつけるぞ。


 地上へ姿をあらわしたときに、わずかだが隙が生まれる。


 一瞬の勝機をつかんで、ザパリョーネを倒す!


 やつはきっと、先ほどと同じく真下から飛び上がってくるだろう。


 だが、迂闊に移動したら、やつが飛び出してくる場所とタイミングをつかみにくくなってしまう。


 ここから移動せず、攻撃のタイミングをつかみ取るのだ。


「何を、やってるんだ……?」

「静かにしろっ」


 目をつむった方がよいか。


 土の底から、わずかだが振動がつたわってくる。


 俺に気づかれないように、かなり深い場所まで潜っているのだろう。


 この足の裏から伝ってくるものは、かたい土をどけているときに発生する振動か。


 土をあやつるザパリョーネならば、土をどけることなど容易いのだろう。


 つたわってきた振動が、止まった。


 ここからきっと、高速で地中から這い上がってくる。


 青の斧をそっと地面に下ろす。


 次の振動がつたわったら、右に跳んでザパリョーネの攻撃をかわす。


 そして、間髪入れずに渾身の一撃をあたえ、やつを倒すのだ!


 振動は、まだつたわってこないか。


 ゆるやかな風が頬をなでる。


 ザパリョーネもきっと、必殺の瞬間を地の底でうかがっている。


 下手に動けば、そのタイミングをねらわれる。


 待つのだ。必殺の瞬間をつかむまで、心を落ちつかせて、足の裏に神経を集中させるのだ。


「あの野郎は、もしかして逃げたのか?」

「いったい、どうなっている?」


 ルーベンとウバルドは、遠くはなれた場所で立ちつくしている。


 駆け寄らないと近づけない場所にいるから、ザパリョーネの攻撃の余波を受けることは――振動がつたわってきた!


「ここか!」


 地面をけって横に移動する。


 噴火のように大きな振動へと変わり、俺の足もとが爆発した。


「うおっ」

「きたぞ!」


 爆発がかなり大きいっ。


 横に飛んだくらいでは、とてもよけ切れない。


「しねぇ!」


 吹き飛ばされた勢いを殺さずに、斧の重さを使って身体を旋回させる。


 ぐるぐるとまわる視界の中で地面の位置をさがす。


 両足でしっかりと着地し、斧を引っさげてザパリョーネに突撃しろ!


「今度こそ、倒し――」


 ザパリョーネは太い首を動かしている。


 俺の居場所がわかっていないとは――好機!


「ザパリョーネよ、さらば!」


 前に飛び、ザパリョーネの腹を左足でけり上げる。


 やつの首の高さまで飛んで、青の斧を全力で斬り払った。


 かたい刃がザパリョーネの首を斬る。


 太い首を斬り落とすことはできなかったが、首の深い部分まで切断することができた。


「ぐっ、あ……っ」


 ミッションコンプリートだ。


 ザパリョーネの首の裏をけって、地面にそっと着地する。


 ザパリョーネの首から大量の血が噴き出している。


 やつは力をうしなって、地面へと音を立ててくずれた。


「やった……のか」

「すげぇ」


 ルーベンとウバルドは先ほどの衝撃で吹き飛ばされていたが、土と砂で髪や服をよごしているだけであった。


「首を斬られれば、巨大な魔物とて生きていくことはできない。俺たちの勝ちだ」

「グラートひとりの勝利だろうがな」

「こんなでっけぇやつまで、倒しちまうなんて」


 ザパリョーネはまだ意識があるか。


 近づくと、赤い目だけを俺に向けた。


「苦しいか。その首を斬り落としてやってもいいぞ」

「断る……お前らの、ほど……こしは、受けんっ」


 この男は誇り高い魔物であった。


 お前の名とこの戦いは、決して忘れないぞ。


「バケ、モノ……ヴァール、さまは……もう、侵攻を……終えた」


 なんだとっ。


「それは、どういう意味だ」


 ヴァールが侵攻を終えただとっ。


 俺がアルビオネで時間をうばわれているうちに、あの男はヴァレンツァを攻め落としたとでもいうのか!?


 はげしい痛みで苦しむザパリョーネが、わずかに笑みを浮かべた。


「お前……らは、おわ……。俺たちの……じだ……もう、そこに……」


 ザパリョーネの赤い目が俺を見つめなくなった。


 大きな頭を横たえて、残されていた力のすべてを地面へと返した。


「死んだ、のか」

「たぶんな」


 魔物とはいえ、亡骸を白日の下にさらしておくのは不憫だ。


 せめて、開いた目だけでも閉ざしてやろう。


 彼の大きなまぶたを動かして、赤い目をそっと隠した。


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