第248話 ストラとフェンリルの襲撃を切り抜けろ
なぜストラがこんな場所に飛んでいる!
アルビオネにもストラは棲みついているのかっ。
「やつらが攻撃してきます!」
ストラたちの鳴き声がアルビオネの上空にひびきわたる。
不自然な急降下をはじめて、下を飛ぶ俺たちに上から突っ込んでくる。
「ちっ」
右手をのばし、青の斧をにぎりしめる。
青い刃を斬り払い、突撃してきたストラたちの顔と胸を引き裂く。
「数が多い……!」
ストラたちの鋭くとがったクチバシが、俺の肩をえぐる。
ディベラの腕やイルムの翼も傷つけられてしまう。
「はなれろ!」
青の斧で応戦するが、ストラの数が多すぎる。
ルーベンやウバルドも後ろで戦ってくれているが、多勢に無勢だっ。
「ディベラっ、とにかく退避だ!」
「承知しました!」
ストラたちの数は、百匹は優に超えている。
急降下を終えた彼らは、ハチの群れのように上空を器用に旋回する。
上空を舞い、太陽を背にまた急降下を開始したぞ!
「おなじ攻撃を何度も受けるものか!」
潜在力を青の斧へ込める。
「くらえ!」
右から大きくふりかぶり、冷たい真空波を放った。
青白い刃がストラの大軍の中央にぶつかり、彼らの隊列を大きくくずした。
「やりましたかっ」
「いや、まだだっ。だが数は減った」
残されたストラたちはかまわずに突撃してくる。
数は減っているが、この鋭いクチバシやかぎ爪で攻撃され続けたら、身がもたないぞ。
「あそこの山へ下りますっ。ドラスレ様は、迎撃を!」
「まかせろ!」
ストラたちはまだ攻撃をしかけてくるか?
上空へとハチのように上がったが、動きを止めたか?
半数近く減ったから、うろたえているのか。
「敵の動きが止まった。いっきに地上へ降りるのだ!」
「わかりましたっ」
イルムはまだ無事か。
だが、あんな攻撃を受け続けたら、ヴァレダ・アレシアに帰還する前にイルムたちが全滅してしまうぞ。
* * *
名もわからない山に緊急で降り立つ。
紫色の木々が生い茂る場所は地面がぬかるむ。
背の高い樹木に陽が遮られているせいか。
「ディベラ、無事か」
イルムから飛び下りる。
ブーツがやわらかい土にめり込んだ。
「なんとか。しかし、腕や頭を切られてしまいました」
ディベラもイルムから飛び下りて、イルムの翼をたたませる。
イルムは全身を血でよごしている。
痛みをこらえている姿に胸がしめつけられる。
「イルムはまだ飛べそうか?」
「ええ。無理をすればヴァレンツァまで飛べるでしょうが、確実に乗りつぶれるでしょう」
それはだめだ。イルムたちに無理はさせられない。
ルーベンやウバルドを乗せたイルムも次々と降りてくる。
彼らの乗るイルムは、いくらか傷が浅いか。
「ちくしょう、なんだったんだ、今の」
「あいつら、確実に俺たちを狙ってたよな」
ルーベンたちも地面に降りて苦言をもらす。
「あの鳥は、ストラだ。人に鳥の翼と肢をつなげたような、鳥型の魔物だ」
「ストラ……って、どっかで聞いたことがあるような」
「ストラはヴァレダ・アレシア東部の反乱で、オドアケルによって使役されていた。魔物使いのベネデッタによってな」
ルーベンの表情が一変する。
ウバルドも色をうしなって、
「オドアケル……サルヴァオーネの下で悪事に加担していた連中か」
声をふるわせながら言葉を吐いた。
「そうだ。サルヴァオーネが宮廷から去った後、オドアケルはヴァレダ・アレシア東部のフォルキアやラブリアで軍事蜂起したのだ」
「そうか。そういえば、ルーベンはオドアケルにいたんだったな」
「その通りだ。ルーベンは先ほどのストラに関与していないが、オドアケルに魔物を自在にあやつる者がいたのだ。その者がストラをあやつっていた」
あのストラたちは、ベネデッタが使役したのか?
そんなはずはない。ベネデッタがアルビオネに加担するはずがないのだ。
「じゃあ、オドアケルがアルビオネに協力してるっていうのか?」
「そんなことはあり得ない。オドアケルがアルビオネに協力しても、利点などひとつもないのだ」
「そうかもしれんがなぁ」
きっぱりと言い切ったが、いやな予感がする。
この間から感じはじめているヒルデブランドの影と、ストラの群れ。
ストラたちは明確に俺たちを狙ってきた。
ただの魔物たちであるならば、大軍で執拗に攻撃をしかけてこないだろう。
「ドラスレ様の主張に水を差すようですが、アルビオネのひとつの部隊である可能性は捨て切れないかと」
ディベラが静かに反論する。
「先ほどの魔物の群れとオドアケルに共通点はあったのかもしれませんが、あの魔物はそれほど珍しい存在ではないのでしょう?」
「さぁ、それはわからないな。魔物のくわしい生態など、俺は知らないからな」
しかし、ディベラの意見は一理あるか。
「マメルティウスの監獄に潜入してから、敵の執拗な罠に翻弄されている。敵に惑わされないように、気を引きしめて――」
近くの茂みが音を発している。
別の魔物たちに捕捉されたか……!?
「ルーベン、ウバルドっ。武器をもて。敵だ!」
青の斧をかまえて前に出る。
茂みからあらわれたのは、黒い体毛をもつフェンリルかっ。
フェンリルたちはよだれを垂らしながら唸り声を上げている。
殺気立ち、今すぐに飛びかかってきそうだ。
「イルムたちをやらせはせん!」
先制攻撃でいっきに倒す!
青の斧をふりあげて、先頭のフェンリルの頭をくだく。
地面に触れると、刃はやわらかい地面を一瞬で凍らせる。
そして、ガラスをくだくように地面を割った。
「さすがっ」
衝撃でフェンリルたちを吹き飛ばしたか。
「ディベラたちはイルムを避難させるのだっ。イルムの翼はなんとしても守らなければならない!」
衝撃をかわしたフェンリルたちが、するどい牙を突き立ててくる。
青の斧で反撃するが、左右から同時に繰り出される攻撃を防ぎ切ることはできないっ。
左腕と右の腰をかみつけられてしまったが、フェンリルたちを力づくで引き離した。
「くそっ、こいつらもベネデッタがよく使役してたぜ!」
ルーベンも槍でフェンリルを串刺しにする。
だがフェンリルたちの攻撃をかわすことができず、腕にかみつけられていた。
「魔物使いというのは、こんなにも自在にあやつれるものなのか!?」
ウバルドは炎の魔法で応戦している。
フェンリルは炎が苦手なのか、ウバルドには近づけないようだ。
「ウバルド、火をもっと放ってくれ。この者たちには火が効果的なようだ」
「わかった。まかせてくれ」
ルーベンとともに下がり、ウバルドに炎を放ってもらう。
紅蓮の炎が草木に引火して、その勢いを強くしていく。
赤い魔物のようにひろがっていく炎に、フェンリルたちはふるえて後ずさりをはじめる。
「いいぞウバルっ、もっとやれ!」
「いや、これ以上はだめだ。火が強くなりすぎると、逆に消せなくなっちまう」
敵国とはいえ、山を必要以上に燃やしてはならない。
「アルビオネの山なんか燃やしちまえよ」
「ばかやろうっ。山を派手に燃やしたら、俺たちの居場所が敵にわかっちまうじゃねぇか。派手なことはするなって、前にも言っただろうがっ」
「俺たちの居場所なんて、とっくに知れてるんだろ。いっそのこと、やつらに知らせちまえばいいじゃねぇか」
ルーベンの自暴自棄ととれる発言は危険だ。
「ルーベン、ウバルドの指示に従え」
「ちぇっ。んだよ、グラートもつまんねぇなぁ」
「ウバルド、炎は俺の斧で消せる。細かいことは気にしなくていい」
「お前の斧は火も消せるのか? なんでもありだな」
青の斧は冷気をあやつれる。炎も難なく消せるだろう。
フェンリルたちは恐れをなして、一匹、また一匹と戦場からはなれていった。