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第241話 アルビオネの監獄に潜入

 城壁の南門と思わしき鋼鉄の扉が開け放たれている。


 城門のまわりに守兵もいない。


 なんだこれは。ここは監獄なのではないのか。


「ドラスレ様。これはどういうことでしょう」


 ディベラもすぐ異変に気づいた。


 監獄から一旦はなれ、近くの岩場にイルムを留める。


 監獄というわりに、やすやすと侵入できてしまうあの様子は変だ。


「おいおい、グラート。どうしたんだよ」


 ルーベンたちも、俺たちのそばに降り立った。


「妙だと思わないか」

「妙……て、何がだよ」

「あの監獄だ。門が不自然に開け放たれているのだ。あれでは、部外者に簡単に侵入されてしまうぞ」


 部外者の侵入もそうだが、あんな様子だと囚人も簡単に脱走できてしまうのではないか。


「門が開いてるんだから、ちょうどいいじゃねぇか。さっさと中に入ろうぜ」

「それが危険だと言っているのだ。罠かもしれない」

「ドラスレ様の言う通りです」


 ディベラが岩陰からマメルティウスの監獄を観察している。


「あれでは、わたしたちに入ってくださいと言っているようなものです。そんなの、おかしいでしょう」

「そうかもしれねぇけどよぉ」

「何か危険な罠がしかけられているのかもしれない。何も考えずに侵入するのは危険です」

「そんなこと言ったってよぉ、あそこに入らねぇとグラートの仲間はたすけらんねぇんだろ? こんなとこまで来たのに、あぶねぇからやっぱやーめたって、お天道様はゆるしてくれねぇだろ!」


 ルーベンの言うことは一理あるが……。


「危険であるならば、目的を達成せずに引き返すのなんて、諜報員の中では常識です」

「おいおいおい、なんだそりゃ! そんな腰抜け野郎みたいなこと、俺はしたくねぇぞっ」

「ルーベン、やめろ。諜報員のねえさんが言ってることが正しい」


 ウバルドもルーベンを止めた。


「ウバルまで! びびってんじゃねぇよぉ……」

「あのなぁ。あそこはアルビオネの中でも一二を争う地獄なんだぞ。そんなとこにバカみたいにしのび込めるかっ」

「だいじょぶだっつうの。その辺は、俺とグラートでなんとかすっから」

「あほか。お前みたいに頭を使わないやつらが早死にしていくんだ。とにかく、夜まで待てっ」


 はやる気持ちをおさえて、監獄からはなれたこの岩場で陽が落ちるのを待つ。


 岩場の影から時おり顔を出して監獄の様子をうかがうが、特別な変化は起きない。


 広大な荒れ地に監獄がただずんでいるだけで、くもった空にも一切の変化がなかった。


「それにしても、あの監獄からだれも出てこないな。看守とか、ほんとにいんのか?」


 ウバルドも俺のとなりでマメルティウスの監獄を見ている。


「看守はいるはずです。あそこは今でも使われているはずですから」


 ディベラは岩にもたれながら、水筒の水を飲んでいた。


「そんなふうには見えないけどな」

「わたしの仲間が前にあの監獄を調べています。凶悪な囚人も収監されているようですよ」

「そ、そうか。お前の仲間って、諜報員か?」

「もちろん。宮廷はアルビオネのどのような情報も欲しますから」


 あの静かな監獄が稼働しているようには見えないが、ディベラがそう言うのだから間違いないのであろう。


 待っている間に顔料で魔物の変装を施す。


 黒い外套を着込み、フードを目深にかぶり、余った時間で武器の手入れをしているうちに陽が落ちていった。



  * * *



 銀色の三日月が、やがて暗闇の空に浮かび上がった。


「これ以上待っても意味はない。そろそろ出発しよう」


 決然と起き上がると、ルーベンが「よっしゃ!」と飛び起きた。


「それでこそグラートだぜっ」

「やっぱり、行くのか」


 ウバルドは及び腰か。


「びびんなって! 俺とグラートでなんとかすっからよぉ」

「じゃあ、お前らだけで行ってこいよっ」

「かっかっか! それもいいかもしれねぇなっ」


 ルーベンとウバルド、そして俺の三人でマメルティウスの監獄に潜入する。


 あの中に囚われているシルヴィオとジルダを救出して、すぐに監獄から脱出する。


 ディベラたち諜報員は外で待機してもらい、頃合いを見計らって迎えに来てもらう。


「あの監獄の中はどのような構造になっているかわかりません。お気をつけて」


 月明かりをたよりにマメルティウスの監獄へと向かう。


 明かりのとぼしい夜の荒野は、ほぼ暗闇だ。


 夜目をこらして監獄の城壁へと近づく。


「城門はまだ開いてるのか?」

「わからない。城門が閉まる様子は見られなかったから、まだ開いていると思うが」


 夜になっても城門が閉まらないのは、やはり妙だ。


「グラート。本当に行くのか?」


 ウバルドも危険を感じているか。


「だいじょうぶだ。敵に囲まれたら、俺がなんとかする」

「たのむぞっ」


 城門に張り付きながら、中の様子をうかがう。


 監獄の中は物音ひとつしない。もぬけの殻だ。


 ここは今も使われているはずだが、もしかしてマメルティウスの監獄ではないのか?


 身をかがめながら城門を通過する。


 監獄の中はかなりひろそうだ。城塞都市とほぼ同じつくりなのだろう。


「看守はいなそうだな。こんだけ静かだと、気味が悪いぜ」

「そうだなぁ。張り合いがないっつうか」


 他の砦をマメルティウスの監獄と間違えてしまったのだろうか。


 だれもいないが、念のため近くの建物の裏へとまわりながら移動する。


「ここからどうやって、お前の臣下を探し出すんだ。建物の中をひとつずつ確認していくのか?」

「そうするしか方法はないな。シルヴィオたちがどこに捕らえられているのか、俺たちは知らないからな」


 ここの建物をかたっぱしから調べていくにしても、地下から調べていった方がよいか。


「この監獄もヴァレンツァの地下牢と同じで、おそらく地下にたくさん部屋があるだろう。凶悪犯や政治犯などは、おそらく地下の部屋に閉じ込められているはずだ」

「お前の臣下も地下にいる可能性が高いということか」

「だがよ、地下で俺たちの正体がばれちまったら、逃げられなくなるぜ」


 地下に行けば行くほど危険度は高くなる。


「もちろんそうだが、仮に地上の部屋を探している最中に見つかってしまった場合、地下の捜索がきわめて困難になる。看守の警備がきびしくなると、地下に入りにくくなってしまうからな」

「ほぇぇ。たしかにそうかもなぁ」

「賭けになってしまうが、ここはあえて危険を冒して地下を探すべきだと思う。看守の警備がきびしくなっても、地上の部屋ならまだ探しやすい」

「グラートの言う通りかもしれねぇなぁ」


 表の通りに出ないように、建物の裏へと飛びうつるように移動していく。


 裏道は意外と幅があるが、行き止まりになっている場所が多い。


 木箱が乱雑に積まれた場所を飛び越えるのは危険だ。その場合は裏道をあきらめて建物の表に出るしかなかった。


「この建物、ごみばっかだぜ。さっきから変なにおいがしやがる」

「静かにしろ。敵に聞かれるぞ」

「だけどよぉ。マスクしてても我慢できねぇぜ」


 ルーベンが言う通り、何かの腐ったにおいが充満しているのだ。


 この鼻をかぎりなく刺激するにおいは、死臭か? かぎ続けるのは危ないっ。


「いったん、表に出よう。地下へと続く階段をそろそろ探し出さなければならない」


 建物の隙間から顔を出して、左右をしっかりと確認する。


 看守がいないことを確認して、表の通りへと躍り出る。


 次に隠れる建物は、どれがよいか。


「地下に行くんだったら、どれかの建物に入らないとだめなんじゃね?」


 ルーベンが俺たちを見かねるように言った。


「そうだな。外をうろついているだけでは埒が明かない」


 中央の大きな通りの終端に、ひと際大きな建物がある。


 看守の宿舎か? 不自然に扉が開いているが……。


「あの建物から地下に行けそうだな」

「おうよ!」

「あそこはなんで開け放たれてるんだ? 不自然じゃないか」


 ウバルドも危険を察知したようだ。


「ここから地下牢に行ってくださいって、言ってるみたいだが……」

「考えすぎだって。空気の入れ替えでもしてるんだろ」


 陽が落ちた監獄でのんきに空気の入れ替えなどしないと思うが……。


「考えてもこたえは出ない。あそこに入ろう」


 俺の提案を快諾するルーベンと対照的に、ウバルドは気が進まないようであった。


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