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第240話 シルヴィオとジルダを救出しろ!

 ディベラの二名の部下が昼にカタリアに帰ってきた。


「ディベラさま、急報ですっ」


 イルムに飛び降りるなり、彼女たちが青白い顔でディベラにせまった。


「どうした」

「それが……ドラスレ様の臣下の方の居場所がわかったのです!」


 なんだと!?


「それは本当かっ!」

「はい! 先日に宮殿にわたしたちの仲間から連絡が入ったのです。あなた様の臣下は、マドヴァの北にあるマメルティウスという監獄に捕らえられているそうです」


 シルヴィオとジルダはやはり無事であった!


 しかし、マメルティウスという名は初めて聞いた。


「その監獄は、たしかアルビオネで罪を犯した者を収監する場所だったな」


 ディベラの問いに、彼女の部下がうなずく。


「はい。通常はアルビオネの犯罪人を閉じ込める場所なのでしょうが、以前に遂行したマドヴァの特殊作戦で逃げ遅れた者たちが大勢います。ドラスレ様の臣下の方々がマメルティウスに連行されていても、不思議ではないかと」


 監獄にしのび込んで、シルヴィオたちを救出する手はずになるか。


「ドラスレ様、いかがなされますか」

「逡巡する理由はない。マメルティウスの監獄に突撃だ!」


 シルヴィオ、ジルダ……待っていろ!


 お前たちを必ずたすけるっ。


「しかし、ドラスレ様。凶悪なアルビオネにしのび込むだけでも危険だというのに、監獄に入り込むのはリスクが高すぎるのではないですか。せっかく新しい武器を新調して、これからヴァールと戦おうというタイミングだというのに」

「そうかもしれないが、シルヴィオとジルダは大切な臣下だ。なんとしても助け出したい」


 ディベラに反対されても、俺は行くぞ!


「わかりました。では、これからマメルティウスへ向かいましょう」


 ディベラがため息まじりで賛同した。


 イルムに乗り、アンサルディ殿の洞窟を飛び立つ。


 カタリアのトレヴィシア山から北西に進み、アルビオネの南西部へと侵入する。


 山奥の大きな滝のそばに降りて火を焚く。


 食事を終えた後に、ルーベンとウバルドに次の目的地を伝えた。


「マメルティウスの監獄だとっ! これから、そんなやばそうな場所に行くのか……?」


 ディベラからわたされたアルビオネの地図をふたりに見せる。


 すぐに顔色を変えたのはウバルドだ。


「そうだ。シルヴィオとジルダをなんとしてもたすけたい」

「シルヴィオ……お前に心酔してる、あの生意気な野郎か。お前の気持ちはわからんでもないが、危険じゃないか」


 ルーベンは大きな口を開けて笑っている。


「びびんなよ、ウバル。俺たちはあんな北の山まで行ったんだぜ。今さらアルビオネの監獄なんて怖くねぇって」

「お前ら、正気か? アルビオネの監獄って、凶悪な魔物どもがうじゃうじゃいやがるだろ。そんな場所に俺らだけで行って、ただで帰れると思ってるのかよっ」

「気にすんなって! グラートの最強の斧だってできたんだぜ。楽勝だって」


 ルーベンの言う通りだ。ヴァールとこれから戦おうとしているのに、監獄などに臆してはいけない。


「前哨戦には打ってつけであろう。ヴァールと戦う前のいい腕試しになる」

「おうよ! その斧の力も早くためしてぇもんなっ」

「そうだなっ」


 気分が高揚したルーベンと拳を突き合わせる。


 その端でウバルドが深いため息をついた。


「この戦闘ばかどもが……っ」

「ウバルは心配性なんだよっ。アルビオネの監獄なんて、大したことねぇって」

「俺が心配性なんじゃなくて、お前らが呑気すぎるんだよ! まったく、お前らと付き合ってたら、命がいくつあっても足りやしねぇ」

「かっかっか! とか言いながら、しっかりと生き延びてるじゃねぇかっ。ウバルは逃げの天才だからな。どこに行ったって死にゃしねぇって!」


 ウバルドは持ち前の慎重さと用心深さで、どのような危機からも逃げ延びてきた。


 戦いでいつも大けがを負う俺よりも、生存能力が高いのかもしれない。


「ウバルもある意味で最強だぜ。いよっ、逃げのプロ!」

「調子に乗るな!」


 ウバルドがルーベンの頭を殴ると、場がかなりなごやかになった。


「それにしても、敵の監獄に仲間が捕らえられてるって、よくわかったな」


 ウバルドの問いに、ディベラがこたえる。


「わたしたちの仲間が情報を入手したようです。アルビオネにしのび込んでいる者がたくさんいますから」

「そういうことか。すごいんだな。あんたたちの仲間は」

「諜報員ですから、あたり前です。サルヴァオーネ様の下ではたらいていたときも、わたしたちが王国のすみずみから情報を吸い上げていたんですよ」


 サルヴァオーネという名前に、ウバルドの顔が引きつった。


「冗談はこのあたりで終わりにして、ドラスレ様の臣下を救出したら、そのままマドヴァを急襲するのですか」


 ひとり白い顔をくずさないディベラが、頃合いを見計らうように言う。


「そうしたい気持ちはあるが、多勢に無勢だろう」

「でしょうね。わたしたちだけでアルビオネの大軍に挑むのは無謀でしょう」

「マメルティウスの監獄を急襲したら、カタリアかクレモナの守兵と合流しよう。ヴァレンツァに侵攻される前に、関所でヴァールを迎え撃つのだ」


 今後の方針はこれで決まった。


 アルビオネの警備に引っかからないように、細心の注意を払いながらマメルティウスの監獄を目指す。


 アルビオネもヴァレダ・アレシアと同様に緑が多い。


 首都マドヴァをはじめとした国の中央部は平地がひろがっているが、北と南は高い山がそびえている。


 ヴァレダ・アレシアよりも山岳地帯が多いかもしれない。


「アルビオネはヴァレダ・アレシアよりも山が多いな」

「そうでしょうか? おなじくらいだと思いますが」

「ヴァレダ・アレシアで山が多いのは北部と西部だけだ。東部は乾燥地帯だが、南部は温暖な平地がひろがっている」

「そうかもしれませんが、わたしたちには関係ないでしょう」


 ディベラは土地に興味をしめさないか。


「ヴァレダ・アレシアとくらべて、アルビオネは農地が少ないのかもしれない。だからアルビオネはヴァレダ・アレシアに侵攻してくるのか」

「野蛮で好戦的な彼らに、戦う理由なんてありませんよ。彼らはわたしたち人間が憎いから、襲いかかってくるだけです。はたまた、単に暴れたいだけなのか」


 そうなのであろうか。


「わたしたち人間の敵である魔族の事情など、あなた様が考えなくていいのです。彼らは二本足で歩く獣と同等。獰猛な野獣の気持ちなど、わたしたち人間が知る必要はありません」


 数日をかけてアルビオネの上空を駆け、マドヴァの北部へと進出した。


 ここはカゼンツァやフォルキアと同様に荒れ地がひろがっている。


「この地は山が少ないが、草木も生い茂っていないのだな」

「そのようですね。雨が少ない地域なのでしょうか」

「うむ。ヴァレダ・アレシアの東と似ているな。あちらも雨が少ないため、作物が育たない環境であった」


 住みにくい環境のせいか、首都に近いはずなのに魔物たちの姿がない。


 魔族の集落も見あたらない。素直によろこんでよいものか。


「ここには警戒網が敷かれていないようですね。このまま直進してしまいましょう」

「わかった。お前たちの判断にまかせる」


 無人の荒野を飛び続ける。


 一日ほどイルムの背に乗り続けて、翌日の昼下がりに都市が見えてきた。


「ドラスレ様。あの向こうに村のようなものが見えます」

「そうだな。村にしては、妙に角張っているような気がするが」


 カタリアの要塞に似ている。


 高い城塞が絶壁のように立ちふさがり、俺たちの視界をうばっている。


 ヴァレダ・アレシアの四角を基調とした、飾り気のない城塞とは違う。


 アルビオネ特有の三角形の鋸壁きょへきが攻撃的な印象をあたえてくる。


 巨大な塔が城塞を等間隔で区切っている。


 あの侵入者を拒む威圧感は、村などではない。


「マドヴァの北に位置していることから推察すると、あの城塞がマメルティウスの監獄なんでしょうね」

「そういうことになるな」


 あの監獄は、まるで要塞だ。


 アルビオネの堅牢な防衛施設に、これから少数で突撃するのか。


「予定通り、あの監獄に潜入しますか? 引き返すのも勇気だと、わたしは考えますが」

「忠告ありがとう。だが、俺はあの監獄に潜入する。ディベラは部下たちとともに近くに隠れているのだ」

「わたしたちのような非戦闘員は戦場にいても足手まといになるだけですからね。気をつけてくださいよ!」

「わかった。まかせておけ」


 堅牢なマメルティウスの監獄が、高速で俺たちに近づいてきた。


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