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第232話 雪の巨人の核を破壊し、ついに決着!

「なんだと!?」


 ウバルドが両目を大きく見開いた。


「それはどういう意味だっ」

「言葉の通りだ。俺たちが近づかなければ、やつはそのうち動きを停止させる。そのときに戦闘を再開させるのだ」


 プルチアの岩の巨人もそうであったが、彼らは巨体ゆえに動き出すまで時間を要するのだ。


 正々堂々ではないかもしれないが、生還が必須であるこの状況下で甘ったれたことは言っていられない。


「あいつは動きが鈍いから、また動き出す前に決着をつけようということか」

「そうだ。卑怯だが、俺たちはなんとしても青の結晶を持ち帰らなければならない」

「ふ。こんなバケモンを相手にしているのに、卑怯だとか、そんなどうでもいいことを考えられる余裕があるとはな」


 ウバルドに俺の意向は伝わったか。


「やつの動きが止まったら、俺たち全員で突っ込むのか」

「いや。まずはウバルドとルーベンのふたりでやつの注意を引きつけてほしい」

「なんだとっ」


 三人で別々に攻撃するより、一点集中すべきであろう。


「やつの意識から俺が外れたところで、俺が背後から接近してやつを葬り去る」

「そういうことか。だが、いいのか。お前の役目が一番危ないんじゃないか」

「それならば、まったく問題ない。このような局面には何度も対応してきた」


 雪の巨人の動きが止まったか。


 騒がしかった洞窟がしんと静まり返る。


「ルーベン、いるか!?」

「おうっ、いるぜぇ!」

「これからウバルドとふたりで斬りかかって、やつの注意を引きつけてくれ!」

「わかったぜぇ」


 ルーベンもまだ戦意をたもってくれているか。


「行くぞぉ!」


 ウバルドが長剣を抜いて、フロアの中央へと躍り出た。


 ルーベンも壁の影からあらわれて、地面に転がる雪のかたまりを槍で突き刺す。


「おらっ、おら!」

「お前はこのあたりで力尽きろ!」


 ばらばらになった雪の巨人の残骸が、ふるふると動き出す。


「くっ、くるぞぉ」


 雪の巨人の頭部と胴体は、まだひとつにつながっているか。


「グラート、たのむぞぉ!」


 ポールアクスを引っさげて、雪の巨人が支配するフロアへと忍び寄る。


 壁伝いに駆けていき、雪の巨人の本体の背後へと近寄った。


「これで終わりだっ」


 氷の地面を蹴って高く跳躍する。


 がら空きとなった雪の巨人の大きな背中を一刀のもとに斬り伏せる。


「おおっ」

「やった!」


 右肩から左のわき腹にかけて、まっすぐに斬り伏せたぞ。


 心臓もまっぷたつに斬り裂いた。ミッションコンプリートだっ。


 雪の巨人の上半身が地面へと落下する。


 洞窟のすみずみに行き渡りそうな轟音が耳をつんざく。


「けっこう、やばかったなぁ」


 ルーベンが右腕で額の汗をぬぐう。


 ウバルドの顔も汗と泥でよごれている。


「そうだな。打ちどころが間違ってたら、俺たちが墓場行きになるところだったぜ」

「こんなところで墓を建ててくれるやつなんているかぁ? 骨だけになっておわりだぜ」

「そうだな。あまり想像したくないが」


 このような場所で朽ち果ててしまったら、だれがヴァールをおさえるのか。


「まぁまぁ。結局俺らが勝ったんだから、よかったじゃねぇの」

「ああ。アンサルディが欲してるものをさっさと持って帰ろう」


 大きな円のかたちをしたフロアの向こう。


 玉座のようにちいさな階段が設けられた先に青くひかる物質がある。


「やっと、お前の下にたどり着けたのだな――」


 地響きのような鈍い音が聞こえる。


「なんだ!?」

「かなり、嫌な予感がするぞっ」


 地響きは足もとから発せられている。


 まっぷたつに斬られたはずの雪の巨人が動いているだと!?


「まだ生きてるぞ!」


 雪の巨人のふたつの胴体が宙に浮いた。


 斬られた腕や足の残骸まで、呼応するように動きはじめる。


「やられたんじゃなかったのかよぉ!」


 雪の巨人の凶悪な吹雪が吹き乱れるっ。


 大きな胴体もみずから細かく分離させて、全方位の攻撃をしかける気だ!


「やべぇ。やべぇぞ!」

「こんなの勝てっこねぇよぉ」


 どうする、グラートっ。


「ぐうっ」


 雪の巨人が放つ大きな雪つぶてが俺の腹を殴打する。


 鋼鉄の鈍器で容赦なくなぐられたような衝撃だ。


 それが頭、肩、腕、足すべてにまんべんなく襲いかかってくるのだ。


「グラートっ」

「逃げろぉ!」


 この攻撃を受け続けていたら、俺は倒れてしまうっ。


 だが、ここでこの敵を倒さなければならないのだ!


「この雪つぶての攻撃は、プルチアの岩の巨人のそれと同じっ」


 ばらばらになった岩の巨人のどこかに、核となる預言石が浮遊していた。


 俺はその預言石をくだいて、あの戦いに勝利したのだっ。


「預言石は……どこだっ」


 ポールアクスで雪の巨人の攻撃をふせぎつつ、目を開ける。


 巨大な雪の猛烈な攻撃のせいで、前がほとんど見えないっ。


「ちくしょぉ!」


 ウバルドの声だ。


 どこからか出現した火の玉は、彼が放ってくれたものかっ。


「グラートにだけつらい思いはさせないぜ!」


 ルーベンも、たすけてくれるか!


「こいつをかならず倒すぞ!」

「おうっ。絶対負けんな!」


 止まっていてはだめだ。袋叩きにされてしまうっ。


 足もわき腹も痛むが、この場から離れるのだ。


 雪の猛烈な攻撃は俺を的確に追跡してくる。


 俺の位置をだれかが把握しているのか。


 預言士がつくり出した防衛装置は途方もなく高度だ。はるかむかしにつくられたものだとは思えない。


「いってぇな、ちくしょぉ!」

「おっ、俺も、行くぞぉ……!」


 ルーベンとウバルドも前に出てくれたおかげで、雪の巨人の攻撃がいくらかやわらいだか。


 雪つぶてをポールアクスで払いつつ、預言石の場所を探す。


 どこかに、かならず……あった! はるか上に紫色にひかる物体があるっ。


「あのような場所で戦場を俯瞰ふかんしていたから、俺が雪の巨人を斬っても倒せなかったのかっ」


 大きな木の先端のようなあの高さに、俺の攻撃が届くか。


 もっと近づかなければ、真空波を放っても届かないかもしれない。


「グラートっ」

「そろそろ、やべぇ……」


 じっくりと考えている時間はないか。


 壁を蹴れば、わずかに高く跳ぶことはできるか。


「考えている時間はないと言ったはずだっ」


 左足の靴底を壁につける。


 あのような場所に預言石を配置すれば、俺たちが攻めあぐねると思ったか――。


「グラート!」


 ルーベンの悲鳴が聞こえた。


 真正面から雪の巨人の大きな頭部が迫ってくる……!


「これだっ」


 壁を蹴り、高く跳躍した。


 雪の巨人の頭を右足でとらえ、宙に出現した足場とした。


「グラート!」

「なっ、何をする気だっ」


 よしっ、予想以上に高く跳ぶことができたぞ!


 しかし、それでもこの高さで真空波を放ったところで、預言石を斬り裂くことはできないっ。


「ならばっ、斧ごとお前にくれてやる!」


 両手でもっていた斧を片手に持ち替える。


 真下に下ろして、預言石が浮く洞窟の天井へと斧を放り投げた。


 斧は高速で回転しながら真上に飛んでいく。


「な、なんだぁ……?」


 斧は勢いを殺さず、洞窟の天井へとたどり着いた。


 預言石を破壊することはできたか!?


 斧はそのまま天井に突き刺さったのか、地面に落ちてこなかった。


「何を、やったんだ?」


 猛烈な吹雪と化していた雪の巨人が、止まった。


「攻撃が……」

「止んだ、のか」


 雪の大きなかたまりが氷の地面に落ち、ぴたりと停止していた。


 今度こそ、ミッションコンプリートか。


 俺の足もとに何かが音を立てて落ちた。


 禍々しい紫色の光を放つそれは、砕け散った預言石で間違いなかった。


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