第231話 無敵の巨人をどうやって攻略する!?
俺がかつて流刑地であったプルチアに流されていた頃、プルチアの生産力を上げるためにアダルジーザたちと鉱脈を探していた。
プルチアのとある鉱山を見つけたが、そこは岩の魔物たちによって守護されていた。
今はプルチアの有名な金山となったあの洞窟の最深部で、この雪の巨人と同じような魔物と俺はかつて戦った。
「プルチアの鉱山にいた岩の巨人。あの敵とこの雪の巨人はそっくりなのだっ」
雪の巨人は、俺が切断した足を謎の力であやつり、俺たちにぶつけようとしてくる。
「プルチアの……?」
「岩の巨人だとっ」
愕然と顔色を変えるルーベンとウバルドに浅くうなずく。
「俺がかつて冤罪でプルチアに流されていたときに、プルチアの鉱山を探していたことがあった。そのときに、この雪の巨人と同じような魔物と出くわしたのだ」
雪の巨人があやつる攻撃をかわし、ポールアクスで彼の胴を斬り払う。
岩のようにかたい胴体だが、俺の潜在力で斬れないものはない。
「プルチアっつうところに、こいつと同じようなやつがいたのか!?」
「ああ。その敵は巨大な岩が意思をもったような存在であったが、やはり今のようにダンジョンの最深部を陣取り、俺の前に立ちはだかっていた」
「そいつを、どうやって倒したんだ!?」
「その敵は――」
斬り落とされたはずの胴体が宙に浮き、何事もなかったように反撃してくる。
ふり下ろされた腕をかわし、反撃で腕をふたつに斬り裂く。
「プルチアにいた岩の巨人は、預言石によって使役された存在であった。彼の中央部に預言石が埋め込まれていて、その核となっていた預言石を破壊することで彼の活動を止めることができたのだ」
この雪の巨人も、預言石によって使役された存在だというのか?
この青の洞窟もおそらく預言士によってつくられた施設の一部だ。
彼らが侵入者をふせぐために雪の巨人をつくり出したのだとしたら、預言石がこの敵の核となっている可能性は高いかもしれない。
「なら、お前がプルチアで敵を倒したように、この怪物も倒す方法があるというのかっ」
ウバルドが肩で息をしながら懸命に火の玉を放っていた。
「そうだ。プルチアにいた岩の巨人と同じであれば、この雪の巨人にもおそらく預言石が埋め込まれている。預言石を破壊すれば、この雪の巨人の動きも止まる!」
雪の巨人が下半身だけとなった足をふり上げてくる。
とてつもない重量だが、決して早くない攻撃をかわせば大きな傷を負うことはない。
「預言石って、あれだよな。ヒルデ様が俺たちに使った。あれがこいつの身体にも埋め込まれてるっつうのか!?」
ルーベンはオドアケルに所属していた頃に、預言石をヒルデブランドによって使われたか。
「おそらく、そうだ。預言石は俺たち人間の力だけでなく、雪や炎などの物質やエレメントの力も引き出すことができるのだ」
「なんだって!? そんなのありかよっ」
「にわかに信じられないだろうが、目の前で立ちはだかるこの現実こそが、すべてを物語っているのだっ」
雪の巨人は身体をくだかれても活動を停止しない。
不死身な身体の正体を知らなければ脅威であるが、理屈さえわかれば恐怖感と絶望感はだいぶ薄まる。
「こいつの中にある預言石を破壊すればいいのか」
「簡単に達成できないミッションだろうが、気持ちはだいぶ軽くなったな!」
ルーベンとウバルドの士気が戻ってきたか。
「まずはこの者の身体をかまわずに斬り伏せるのだっ。そうすれば、預言石が直に姿をあらわす!」
力にものを言わせて雪の巨人を吹き飛ばす。
下半身は両足が切断されて、元のかたちがわからない状態になったか。
「預言石はおそらく胸のまんなかにある。心臓と同じ位置に預言石が埋め込まれているはずだ!」
雪の巨人に真正面から突撃する。
雪の巨人が左腕を大きくふり上げる。
「グラート!」
木のように太い左腕が、地面に影をつくる。
頭上に迫り来る腕をポールアクスで受け止めた。
「ぐうっ」
なんという重さだっ。
城塞の重さを優に匹敵してしまうほどだ。
両足が氷の地面に食い込む。
このまま押しつぶされて……たまるかぁ!
「俺は負けん!」
足と腕に力のすべてを注ぐ。
力を一気に解放し、雪の巨人の腕を押し返した。
「すげぇ!」
「お前はここで滅びるのだ!」
跳躍し、ふりかぶったポールアクスを全力でふり下ろす。
雪の巨人の左の肩が分断され、太い腕が氷の地面に落下した。
「よし! これであいつは手足を全部うしなったぞっ」
「まだだっ。この者は斬り落とされた手足を自在にあやつることができる。反撃にそなえろ!」
地面に落ちた雪の巨人の手足がひとりでに動き出す。
ちいさなかたまりになっていた身体の一部までもが、ふるふると小刻みにふるえていた。
「くそっ。ならば、俺の炎で燃やし尽くしてやるっ」
ウバルドが雪の巨人の残骸に火を放つ。
業火は雪のかたまりを溶かすが、この広いフロアの全体に散らばった雪をすべて処理するのはむずかしいだろう。
「くるぞっ!」
フロアに散らばった雪が、動き出した。
矢のように高速に、俺たちを射殺そうとまっすぐに飛びかかってくる。
「くっ、なんだこれは……ぐおっ」
「ルーベン!」
雪の巨人の大きな足がルーベンのみぞおちをとらえる。
突出した力で彼の巨体をなんなく吹き飛ばした。
「なんだこれはっ。無数の鈍器じゃないか!」
「ウバルドも気をつけろっ。無理せず下がるんだ!」
飛んでくる雪のかたまりをポールアクスで斬り払う。
無数の石つぶてとひとしき雪のかたまりをよけ切るのは不可能だっ。
「ぐっ」
「グラートぉ!」
まずいぞ。俺の戦闘スタイルでは、無数の雪つぶてを防ぐことができない。
こういうときは、アダルジーザに魔法防御のバフをかけてもらうか、ジルダにたのんで遠距離攻撃を展開してもらうのが定石だ。
だが、今はふたりともここにはいない。
アダルジーザはサルンを守っているだろうし、ジルダにいたってはアルビオネではぐれてしまい、行方がわかっていない。
俺が彼女たちを守るべきだというのに……。
「くそっ、どうする、グラート」
「まずいな。俺の魔法防御をたかめることができれば、速攻で一気にかたをつけられるだろうが」
「バフをかける魔法か。すまないが、俺は大して魔法など使えないぞ」
ウバルドはアダルジーザのように、支援に特化した者ではない。
「こんなことになるなら、魔法をもっと勉強しとくんだったぜ」
「いや。ないものをねだっても仕方あるまい。ここにあるもので工面するしかないのだ」
「しかし、どうやってあの猛攻をふせぐというのだ? 言っておくが、あそこに飛び込むのはごめんだぞ」
雪の巨人は全身を雪のこまかいかたまりに変貌させて、広いフロアを縦横無尽に飛んでいる。
かたい石が飛び交う戦場のような場所だ。無策で飛び込むのは自殺行為だ。
「ルーベンは、攻撃の当たらない場所に逃げたのか」
「おそらくな。あいつのことだ。さっきの一撃だけで野垂れ死んだりしないだろう」
こんな場所でルーベンをうしなうわけにはいかない。
「それにしても、グラート。あの雪のかたまりはここまで飛んでこないな」
「ああ。あの者は青の結晶をまもるガーディアンなのだから、目標に近づかれなければ攻撃しなくてよいと指示されているのだろう」
「指示? あいつをつくったという古代人にか?」
「おそらく、そうだ」
あの雪の巨人にかぎらず、預言士の遺跡を守護する者たちは敵を深追いしてこない。
どんなに勝てる相手であっても、迂闊に近づいてこない相手に戦う価値が見いだせないのだろうか。
「びゅんびゅん飛んでるあいつの動きが、おさまってきたか?」
「そうだな。先ほどとくらべて雪つぶての量が減ってきた」
俺たちが迂闊に近づかなければ、ガーディアンは攻撃してこないのか。
この動きの緩急を利用しない手はないっ。
「ウバルドっ。やつの動きが完全に止まったときが戦闘再開の合図だ!」