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第229話 青の地下迷宮をさまよい、声がみちびく道へ

 青の洞窟はたくさんの分かれ道が出現する、かなり複雑な構造になっているようだ。


 広いフロアと細い回廊が無規則で入り組み、侵入者を迷わせるつくりになっているのかもしれない。


 白い水晶の魔物はそこかしこに存在し、俺たちに敵意を向けてくる。


 彼らのかたい身体をくだくのには力がいる。戦闘が続けば俺たちが消耗していくのは明らかであった。


「なぁ、こっちの道で合ってるのか?」


 ルーベンが鋼鉄の槍の石突きを氷の地面に突き刺す。


「わからん。この洞窟は、思ってたより広いぞ」


 ウバルドもヒザに手をあてて呼吸をととのえている。


 ふたりとも疲労が蓄積されているか。


「青の結晶がある場所にはもうじきたどり着く。もう少しだけ、辛抱するのだ」


 ふたりに酷な指示は出したくないが、このような場所で倒れてほしくない。


 右ななめ前に敵の気配……っ。


 切り立った崖のそば。球体の不思議な水晶が暗闇からあらわれ、俺たちに氷の魔法を放ってくる。


「うおっ!」


 氷の魔法が地面をえぐりながら高速で飛んでくる。


 俺たちは左右に飛んで攻撃をかわした。


「これでもくらえっ」


 ウバルドが魔法をとなえ、長剣をもたない左手から炎を放った。


 火炎は宙に浮く水晶の魔物に直撃し、するどい閃光を放出しながら爆発した。


「すまぬが、お前たちにかまっている時間はないっ!」


 ポールアクスで宙を割り、真空の刃で彼を攻撃する。


 水晶の魔物は身体をまっぷたつに切り裂かれて、やがてぽとりと地面に落下した。


「けっこう、あぶなかったなぁ。ウバルもグラートもナイス!」

「気にするな。ここも地上の遺跡と同様、凶悪な魔物たちによってまもられている。つねに警戒していないと、いつ攻撃されるかわからないぞ」

「そうだな。ここも地上の遺跡と同じで、敵の攻撃がしんどいぜ」


 この洞窟は、あの遺跡の下にあるのだろうか。


 それともエルブス山のどこかにあるのか。


「グラートっ」


 また敵があらわれたのかっ。


 壁に沿ってゆるやかに曲がる道の終端。水晶で全身をつくりあげた獣が飛び出してきた。


「なんだこいつはっ」


 獣は口を開け、透明な牙をむいて俺たちに襲いかかってくる。


「くっ」


 魔獣のようにすばやい!


 身のこなしも獣同然に軽い。せまい回廊で襲われたら、かわし切れないぞっ。


「このやろっ。下がれっ」


 ルーベンが槍で水晶の獣を威嚇する。


 獣は唸り声をあげてルーベンを威嚇し返す。


「すごいぞ、こいつ。ほんとに獣みたいだ。水晶でできてるのか?」

「ウバルっ、敵に感心してる場合かよ!」


 ルーベンが獣の注意を引きつけている間に、ウバルドが炎の魔法をとなえる。


 炎の玉を当て、獣が怯んだ隙にルーベンが槍で追撃して水晶の獣を撃退した。


「ここはさっきの遺跡と違って、いろんな種類の敵がいるんだな」

「敵に応じて戦い方を変えなければならないのは、意外と厄介だな」

「ああ。こんなことなら、炎の魔法をもっとまじめに習得しとくんだったぜ」


 ウバルドが「ち」と舌打ちする。


 魔法の習得は、武器や武術の習得よりも得意と不得意の差が出やすい。


 ジルダやアダルジーザのように魔法を短期間で習得できる者がいれば、俺やルーベンのように魔法を不得意とする者も多い。


 俺にはアダルジーザやシルヴィオがいるし、魔法を使う局面にもあまり遭遇しない。


 であるから魔法の勉学を怠ってしまったが、これからは魔法の習得も考え直さなければならないかもしれない。


 凶悪な水晶の魔物たちを撃退しながら、青の洞窟を駆け抜けていく。


 初めて訪れる、複雑な洞窟の構造などわかるわけがない。


 勘をたよりに分かれ道を選び、行き止まりに差しかかれば来た道を引き返すだけだ。


「くそっ!」


 水晶の悪魔たちがフロアのあちこちから出現する。


 俺たちの侵入を正確にとらえて、冷気の魔法をすかさず放ってくる。


「またこいつらかっ。何匹いやがるんだ!」


 ルーベンが鋼鉄の槍を払って水晶の悪魔たちを追い払う。


 彼らは槍にくだかれて、ガラスの破片のように地面へと落ちた。


「地上のやつらほどじゃないが、こいつらもかなりしつこいな。どうあっても俺らを通さない気らしいぜ」


 ウバルドは炎の魔法の扱いに慣れてきたのか、すばやく唱えて水晶の悪魔たちに火の玉をぶつける。


 火の玉は衝突すると閃光を放って敵を爆破させた。


「ウバルの魔法もだんだんと見慣れて……うおっ!」

「ルーベン!」


 水晶の悪魔たちの攻撃がルーベンの肩をかすめた。


 冷気が彼の肩を凍らせ、左腕へと範囲をひろめていく。


「う……くっ」

「ウバルド、炎の魔法でルーベンの凍結を治せ!」


 水晶の悪魔たちに突撃してポールアクスを斬り払う。


 板のような刃が鈍い音を発して敵の身体を粉砕した。


「ルーベン、じっとしてろよ」


 ウバルドが両手をルーベンの肩に伸ばす。


 炎の魔法を小さく唱えて、ぼっとちいさな火柱が瞬間的に立ちのぼった。


「あっつ!」

「へっ、平気か!?」


 炎の熱さにルーベンが飛び上がったが、左の肩と腕は燃えていないようだ。


「ちょっと熱かったけど、平気だぜ。サンキュ!」


 ルーベンが凍っていた左の肩をまわして笑った。


「かなりの荒療治あらりょうじだったが、うまくいったな」

「ああ。この方法は使えるな」


 ウバルドが魔法を使えてよかった。


「しっかし、ここの連中の魔法はけっこう怖ぇな。かすっただけで肩が凍っちまう」

「そうだな。こんなに強い魔法を使えるやつは、ヴァレダ・アレシアでもそうそういないぞ」


 ウバルドが長剣を鞘に収める。


 水晶の悪魔はいなくなったが、青の洞窟の終着点はまだ見えない。


「青の結晶っつうのをさっさと見つけたいが……」

「敵がうじゃうじゃいるからな。その上、道もわかりにくい。すぐには見つからないだろうな」


 ここは幸い、明るいため夜になっても暗闇で身動きがとれなくなることはないだろう。


 水晶の悪魔たちは、実にいろいろな形状の者たちが存在する。


 獣のような者たちはもちろん、鳥のような形の者、魚のような形の者まで存在する。


 彼らは一様に冷気の魔法を使役し、またかたい身体をぶつけて俺たちにダメージを負わせようとする。


 地上のガーディアンたちのように数が多いため、戦うたびに体力をうばわれていった。


「くそっ、まだ出口は見えねぇのか」

「わからんっ。青の結晶というのは、どこにあるんだ」


 まずいぞ。ふたりとも体力の限界に差しかかっている。


 ここで倒れたら、生きて戻れないっ。青の結晶を一刻も早く見つけなければ。


「もうすぐだっ。あきらめるな!」


 青の結晶は、見つけられないのかっ。


 疲弊してにぶった頭に、突如として青い光が灯った。


 ――われを求めよ。


 この声はっ。


「青の結晶か!」


 複雑に入り組んだ青い道の終着点。


 くねくねとヘビのように曲がった細い道の奥から、青の結晶の声が聞こえたぞ!


「グラート?」

「青の結晶だっ。この先に、絶対にある!」


 疲れた足と身体を叱咤して、進めっ。


 青い地面から這い出るようにあらわれる悪魔たちを蹴散らしながら、終着点へと確実に進んでいく。


 細い回廊の奥は広い空洞へとつながっていた。


 見上げても天井がわからないほど広い場所だ。


 ドラスレ村の者たち全員を軽々と収容できてしまいそうだが、吹雪のように白い粉が宙をただよっている。


「なんだ、これは」

「なんか、すげぇ嫌な予感がするが……」


 吹雪から発せられているのか、殺気のような強い気配を感じるぞ――。


「グラート、あれ!」


 ルーベンが人差し指で前を指した。


 白い吹雪の奥に、青くひかる何かがある。


 いや、青の結晶だっ。間違いない。


 蒼玉のような神々しい光だ。


 深海のように冷たい色だが、不思議と温かみが感じられる。


 お前の下に、ついにやってきたぞっ。


 お前の悪を討滅する力を俺に分けてくれ!


「お、おい、グラートっ」


 ウバルドの怯える声が聞こえた。


「どうした」

「あ、あれ……」


 今度はウバルドが前を指す。


 彼が指した先にあるのは……白い吹雪の流れが、先ほどよりも強くなっている!?


「なんだこれはっ」

「くるぞ!」


 白い吹雪が大きな渦を形成する。


 侵入者を即死させるほど強い殺意が、前方から音も立てずに襲いかかってきた。


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