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第221話 青の結晶は北の古代遺跡の奥に

 長老の住居はマウリが住む家とそれほど差がないつくりであった。


 自然と調和する木製の壁や床。ふむとぎしぎし音がするのは、ドラスレ村の家と同じか。


 玄関には雪除け用のすきや手桶が置かれている。


 狩猟用の弓矢も壁にかけられているか。


 他にも小道具が棚にたくさん押し込まれている。


 毛皮のコートも壁にかけられていて、豪雪地帯ならではの情景に若干の戸惑いを感じた。


「あんた、お客さんだよ」


 長老の奥方である老婆が雑な声をかける。


 俺たちはマウリに案内されて、居間へと向かう。


「客? こんな時間にだれかね。サムロがまた酒でも飲みに来たのか?」


 このしゃがれた声が長老か。


「違うよ。よそから来たお客さんだってさっ」

「よそから? はて。そんな予定があったかな」


 居間で立ったまま待っていると、背の低い老人が杖をついてあらわれた。


 年齢は老婆と同じくらいか。


 ひょろりとした体格で、白い髪とひげが特徴的だ。


「やあ、長老」


 右手をあげて挨拶するマウリに、長老が目をまるくする。


「だれかと思えば、マウリか。それと、知らない者たちがぞろぞろとお出でになられたみたいだが」

「あなたが長老か。初めまして。俺たちは南のヴァレダ・アレシア王国から旅をしてきたのだ。俺は騎士グラートだ。ヴァレダ・アレシアのサルン領を治めている」


 長老が何度かまばたきをしている。


「サルン……? はて。知らない名前だが」

「サルンはヴァレダ・アレシアの北部に位置している領地だ。今、北のアルビオネ……ここからだと南に位置している国だが、アルビオネとの戦争が近づいているため、訳あってこの地を訪れたのだ」


 マウリも長老と同様にきょとんと立ちつくしているだけであった。


 南の他国の緊迫した情勢など、部外者は想像すらできないであろう。


 長老がやがて白い息を吐いた。


「ひとまず、そこにかけなさい」

「は。お気遣い、感謝する」

「マウリはこの方々を案内してきただけだろう。あとはわたしが話を聞くから、お前は子どもたちの下へ帰りなさい」

「たのんだぜ、長老」


 マウリが別れの挨拶をして家から退出していった。


「サルン、ヴァレダ・アレシア、アルビオネ……はるか南にある大国か」

「はい。ヴァレダ・アレシアはアルビオネと何度も戦い、境界をめぐって争いを続けている。アルビオネで魔王ヴァールが復活し、ヴァレダ・アレシアは窮地に追い込まれているのだ」

「ヴァール、か。聞いたことがある名だ」

「ヴァールはおそろしく強いドラゴンだ。彼は以前も大軍を引きつれてヴァレダ・アレシアを侵攻し、危うく首都ヴァレンツァまで侵されてしまうところだったのだ。そのときは死闘の末、俺がヴァールを倒したのだが、ヴァレダ・アレシアを守るため、俺はまたヴァールと戦わなければならない」


 召使いの女性があらわれて、飲み物を差し出してくれる。


 手に収まる器から発せられている白い湯気が、暖炉の炎に照らされていた。


「茶だ。それでノドをうるおしなさい」

「ありがたい。痛み入る」


 この村の茶は、フィルラ族の村でいただいた茶よりも渋みが強い。


 くせはあるが、舌を刺激する味わいがとても心地よい。


「悲愴な決意を胸に秘めておられるということか。しかし、そのような方が、どうしてこのような場所へ来られたのだ? はるか南の大国の戦いと、この地にどのような関係が?」

「北のエルブス山に、青の結晶という物質がねむっていると、南のフィルラ族の村で聞いた。青の結晶は強力な武器をつくる素材になるのか」

「青の結晶、か。聞いたことがあるな」


 なんと!


「じいさん、そいつはどこにあるんだ!?」


 俺の後ろにいたルーベンが身を乗り出したが……落ちつけっ。


「あなたがたが言う通り、北の山には青く光る洞窟があったはずだ。くわしい場所まではわからないが」


 青く光る洞窟……青の洞窟か。


「洞窟ということは、山頂ではなく山腹にあるのか?」

「そうだったはずだ。あの山のいただきまで登った者はいないからな」

「あの山々はそんなに険しい山なのか」

「険しいのも理由のひとつだが、ここと山頂では寒さが桁違いなんだ。われわれ人間では山頂まで登ることはできないだろうな」


 山の頂を目ざせと言われていたら、目標達成を断念していたところだな……。


「あなたがたが言う通り、北の山のどこかに古代遺跡があったはずだ。その遺跡の中に、青く光る洞窟があったような気がする」


 古代遺跡! 預言士が遺した施設かっ。


 彼らは、この北の果てまで勢力を伸ばしていたのか。


「わたしも実際に行ったわけではないから、くわしいことまではわからない。わたしが子どもの頃に、古代遺跡の話を何度か聞いたのだ。この地にかつて文明が築かれていたようで、村の地中からもたまに遺物らしきものが見つかるのだ」

「おそらく預言士が遺したものだろう。彼らは南の地からこの北の大地まで、勢力を拡大していたのだ」

「預言士? それが、われらの先祖の名なのか?」

「はい。預言士はかつて絶大な力で高度な文明を築き、大陸を支配していたのだ」


 この村の者たちは、預言士たちの末裔なのか。


「なんと……! そのような過去があったとは」

「すぐれた力をもつ預言士であれば、この地まで支配圏をひろげられるだろう。北のエルブス山にあるという古代遺跡も、預言士が遺した施設とみて間違いないと思う」


 青の結晶は、預言士たちがつくり出したものなのか。


 それならば、青の結晶をまもる守護者ガーディアンも、プルチアやパライアの遺跡で遭遇した者たちと同じ存在か。


「グっ、グラートっ」


 ルーベンがまた後ろから俺の肩をつかんだ。


「どうした」

「いや、さっきからなんの話をしてんだよ。わけがわかんねぇ」


 ルーベンには預言士や超文明の説明をしていなかったか。


 ウバルドやディベラの部下たちも同様に困惑しているか。


 ディベラだけは話の内容を理解しているようだ。妖艶な表情を浮かべている。


 ルーベンたちに預言士と超文明について説明をした。


 預言士たちがかつて大陸を支配していたこと。


 預言士たちが預言石をはじめ、数々の物質をつくり上げて高度な文明を築いていたこと。


 かつてのヒルデブランドの反乱やヴァールの復活に預言士たちが関わっていたことを説明すると、皆が愕然と言葉を失った。


「預言石って、あれだよな。俺が前に、ヒルデ様からもらった……」


 ルーベンがめずらしく声をふるえさせている。


「そうだ。預言士や超文明のことはヒルデブランドから聞いているはずだが、おぼえていないか?」

「おぼえてるっつうか……どうかな。前に説明してくれてた気がするけど、どうだったかなぁ」

「ヒルデブランドは、預言士が築いた超文明を大陸にふたたび呼び起こそうとたくらんでいた。そのためにヴァレダ・アレシアの東で反乱を起こしたのだ」

「そうだったのかぁ」


 預言士たちがこの地まで勢力を拡大していたとは、驚きだ。


 預言士たちがつくり出した遺物であれば、ヴァールに対抗できる武器がつくり出せるかもしれない。


「それでは、北の古代遺跡を目指していけばよろしいのですね。目標がかなりわかりやすくなりましたね」


 ディベラが部屋の隅で口もとをゆるめるが、


「いや、そう簡単に捜索することができんだろう」


 長老が話に水を差した。


「それは、なぜですか」

「雪巨人どもが邪魔をするからだ。北の山はやつらの巣窟なのだ」


 雪巨人! あの雪に埋もれた身体をもつ巨人たちか。


「雪巨人というのは、森でわたしたちに襲いかかってきた巨人たちですか」

「ここに来る前に襲われていたのか。よく無事にここまで来られたな」

「ドラスレ様とルーベン殿が撃退してくれたんです。おふたりはヴァレダ・アレシア屈指の戦士ですから」


 ディベラからそのように褒められるとはな。


 長老も意外そうに俺たちを見くらべた。


「あの雪巨人を撃退できるとは……それほどの方々だとは思わなんだ」

「各地で凶悪な魔物たちと戦ってきたからな。よほどの者でなければ、負けることはないであろう」

「それならば、北の遺跡にたどり着けるかもしれませんな」


 長老が杖をついて、うすく笑った。


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