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第219話 極北の地へ、白い巨人たちの襲撃

 フィールベリの北の森を越えると、銀色の大地が一面にひろがる美しい世界へとつながっていた。


 この地方は雪が毎日降っているのか、緑や茶色の地面が見えない。


 森も一面が銀色にかがやいて、宝石がちりばめられたような景色を眺望させてくれる。


 美しい世界に見とれてしまうが、一方で強烈な寒さが全身に襲いかかってくる。


 イルムが高速で飛ぶ上空の冷たさは言語に絶する。


 空の旅は温暖なヴァレダ・アレシアでも冷たさを感じるが、この地の過酷さは比べものにならない。


 厚手のコートや手袋で全身を防護しているが、長い時間飛行することがむずかしかった。


「寒いっつうのはフィルラの村で聞いてたけど、こんなにさみぃのかよ……」


 日没を迎えて、急いで焚き木を用意する。


 焚き木の元となる枝はすぐに見つけられるが、雪で湿っているせいか火が着きにくい。


 火を焚いても雪のせいですぐに消えてしまう。


「指が凍りついて思うように動かん。この先に進むのは、思ってたよりはるかにきびしいぞ……」


 ルーベンとウバルドが焚き火に手を向ける。


 ぶ厚い手袋をつけても上空の冷たい空気を遮断することはできないか。


「北の山など大したことがないと侮っていたな。飛行すらままならないとは、考えてもいなかった」

「だがよぅ、グラート。この先に進まねぇと、青い結晶っつうのは手に入らねぇんだろ」

「そのはずだ。時間をかけてでも踏破するしかない」


 ルーベンが「うげぇ」とうめいた。


 ウバルドも苦々しい表情を俺に向けていた。


「冷たい空気に長い時間さらされると、指先が凍傷になるから危ないぞ」

「凍傷?」

「くわしいことは俺も知らんが、身体が極度に冷やされて身体の組織が死んでいく症状だったはずだ。凍傷にかかったら探索どころじゃなくなっちまうぞ」


 そのような症状があるのか。


「それは危ないな」

「青の結晶をなんとしても探し出したいグラートの気持ちはわかるが、無理したら俺たちはここで全滅だ。フィルラ族の連中も言ってたが、無理だったらあきらめた方がいい」


 ここまできてあきらめたくないが……それも考慮しないといけないか。


「ウバルド殿の言う通りです。このような極寒の地で命を落とすことは多いでしょうから、無理せず慎重に進むべきです」


 ディベラもルーベンのとなりで暖をとっていた。


「そうだな」

「寒さで手足が凍りついていたら、戦うことだってできないでしょう。こんな場所で野垂れ死んでしまったら本末転倒です」


 青の結晶を目指す皆の指揮は下がり切ってしまったか。


 まだ青の洞窟にたどり着いてすらいない。


 このような場所で引き返したくないが――右手の森で大きな物音がしたぞ。


「なんだ!?」


 ルーベンたちも一斉に立ち上がる。


 一本の大きな木が倒れたような音がした。距離はかなり近いぞ。


「魔物かもしれん。ルーベンは槍をとって戦闘準備だ。ウバルドはディベラたちと下がれっ」

「おうっ」

「たっ、たのむぞ!」


 のそのそと足音を立てて近づいてくる者たちがいる。


 おそらく一体ではない。そして、きっとフィルラ族のように穏やかな者たちでもない。


 ポールアクスをもち、腰を低くかまえていると、雪におおわれた岩のような者が姿をあらわした。


「なんだ、あれ」


 岩のように泰然と立ち尽くしているが、岩ではない?


 巨人か? フォルクルに似ているが、彼らよりは小さい。


 岩のようなものたちが上半身を動かす。


 空に向かって口をあけて――なんという咆哮だっ。


 声のあまりの鋭さに鼓膜が破られてしまいそうだ。


 白い巨人たちが一斉に飛びかかってきた。


「きたぞ!」


 彼らは右手に斧をもっているのか。右腕をふりあげて、俺たちを頭から両断しようと攻撃してくる。


「青の結晶を守護する者たちというのは、お前たちかっ!」


 左に飛んでかわし、反撃でポールアクスを斬り払う。


 白い巨人の一体が直撃を受けて吹き飛ばされる。


 追従していた者たちにぶつかり、まとめてくずれ落ちた。


「おしっ。さすがグラート――うわ!」


 ルーベンが背後で悲鳴を上げる。


 白い巨人の攻撃を食らいそうになったが、研ぎ澄まされた反射神経でその攻撃をかわしていた。


「油断するな! かなりの手練れだぞっ」

「お、おうっ」


 はなれた場所で斧をかまえた白い巨人が空高く飛ぶ。


 唐竹割りで俺を両断する気かっ。


 後退した俺の前に着地する。


 同時に斧で地面を割り、大地をゆらすような衝撃が生まれた。


 突風とともに粉々になった雪が飛来し、吹雪のように襲いかかってくる。


 ポールアクスをかまえて防御するが、全身を襲う吹雪を完全に遮断することなどできない。


「くっ」

「グラート!」


 猛烈に吹く風の向こうから黒い影が近づいてくるっ。


 さらに半歩引いて、ポールアクスで白い巨人の斧を受け止めた。


「お前たちは何者だ。なぜ俺たちを攻撃するっ」


 白い巨人はこたえない。猛獣のような声でうなるだけだ。


 この者たちは怪力だ。だが、力くらべならば負けないぞ!


「お前たちに私怨はないが、倒させてもらう!」


 両手に渾身の力を込める。


 白い巨人の斧を押し出し、強引に彼らを吹き飛ばした。


「ふっとべ!」


 ポールアクスをふりあげて、悪鬼のごとくふりおろす。


 倒れた巨人を容赦なく斬り伏せ、返した刃で後ろの者たちを斬り払う。


 三体ほど斬り伏せ、白い巨人たちはしっぽを巻いて逃げていった。


「なんなんだよ、こいつらは」


 雪に埋もれる巨人たちをルーベンがのぞき込む。


 両断された彼らは白い大地を赤く染め上げていた。


 雪だと思ったものは、この者たちの体毛であった。


 筋肉質の四肢を毛深い鎧で防護しているのか。


「この地に住まう魔物か? 言葉は話せないようだが、かなりの怪力であった」

「冷静に解析してるわりには、グラートの圧勝だったけどな」


 そんなことはない。怪力にくわえ、あの猛烈な吹雪を受け続けたら致命傷になる。


「こんな場所でもグラートは最強かよ。どんだけバケモンなんだよ、あんたは」

「気のせいだ。それよりも寒さのせいで指が思うように動かん。今回は難なく撃退できたが、次も同じようにいくとはかぎらないぞ」


 冷たい空気は全身を容赦なく硬直させる。


 ポールアクスの柄も氷のように冷たい。


 この地での戦い方を見直さないと、青の結晶を見つけ出すことができずに倒れてしまう。



  * * *



 風よけとなる洞窟などを探しながら、北の山へと少しずつ進んでいく。


 冷たい景色の彼方に山々が空高くそびえている。


 青の結晶があるエルブス山は、どれか。見た目だけではとても判別できない。


「ドラスレ様。あそこを見てください!」


 イルムの手綱をあやつるディベラが彼方の地面を指す。


 どのような宝石よりも美しい銀世界に、黒くて四角い建造物が点在している。


 明らかに人の手によってつくられたものだ。このようにきびしい環境でも生活している者たちがいるのか!


「村か、あれはっ」

「おそらく、そうでしょう。寄っていきますかっ」

「もちろんだ。エルブス山を捜索する拠点にしたい」

「ですが、わたしたちに友好的な方々が住んでいるとはかぎりませんよ。それでもあそこに降りるのですか」


 この前、雪をかぶったような者たちに攻撃されたばかりだ。


 ディベラが警戒する気持ちはよくわかる。


「フィルラ族のように友好的な者たちである可能性もある。村から少しはなれた場所に降りて、村の者たちを脅かさないようにしよう」

「了解しました」


 ディベラが手綱をあやつり、イルムが降下を開始する。


 俺は後ろをふり返り、追従するディベラの部下たちに降下するよう指示した。


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