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第211話 仲間と協力して秘宝を探せ、そして新しい武器!

 青の結晶という、伝説上の物質を探しに行くことを伝えると、ルーベンやディベラたちからこぞって反対された。


「正気ですか、ドラスレ様。あなた様はこれから、なんとも無謀な賭けに挑戦なさるのか、理解されておられるのか」


 ディベラは仇敵を恨むような顔で言った。


「もちろん、理解しているつもりだ」

「こんな、世捨て人の道楽にわれわれが付き合わなければならないのですか。ヴァレダ・アレシアの命運がかかった、きわめて大事な局面でっ、ありもしないものを探せとわたしたちにおっしゃるというのですか!」


 冷静沈着なディベラにしては珍しい。烈火のごとく怒りをあらわにしている。


 感情のあまりの激しさに、彼女の部下たちも慌てふためいていた。


「ディベラよ。落ち着くのだ」

「落ち着いてなどいられますか! わたしたちは、こんなふざけたことをするために、あなた様をここまで送り届けたのではありませんっ。

 存在が確認されている物質を探しに行くのならまだしも、ありもしないものを、さらに北の果てまで探しに行けなどと、戯れ言としか思えません! アルビオネは軍をととのえて、今にもヴァレンツァへ攻めてこようとしているのですぞっ」

「このねえちゃんの言う通りだと思うぜ」


 ルーベンも地面にあぐらをかいて、興味なさげに耳の穴をかっぽじっていた。


「ありもしねえもんを遠くの山まで探しに行って、やっぱりありませんでしたってなったら、どうすんだよ。頭のわりぃ俺でも、これは無謀な賭けだとわかるぜ」


 青の結晶を探しに行くのは、無謀なのか。


「どうしても、賛同してもらえないか」

「当たり前です! ヴァールが復活して、今にもヴァレンツァに大軍が押し寄せようとしているんですよ」

「それは、わかっているが……」

「ならば、現実に立ち返るべきです。こんな、実現性のない計画を実行するのは、世俗を捨てた一部の物好きだけで充分ですっ」


 ディベラにまくし立てられて、俺は返す言葉を失ってしまった。


 アンサルディ殿を頼ったのは、失敗だったのか。


 そんなことはない。ヴァレダ・アレシア随一の武器製造技術をもつ彼でなければ、ヴァールを倒す斧をつくり出すことはできないのだ。


「まぁ、待て。グラートの意見だって聞いてみてもいいじゃないか」


 ウバルドが間に入ってくれた。


「グラートはどうしても、その結晶を取りに行きたいのか?」

「無論だ。アンサルディ殿が必要だと考えているものであれば、それは間違いなくヴァールと戦うために必要になるものだ」

「だが、あるかどうかもわからないもの探しに行くのは、リスクが高すぎるんじゃないか? しかも、その結晶があるのは遠い北の山なんだろ」

「そうだが……。他に方法がないのだ」


 俺とて、こんな無謀と言える賭けがしたいわけではない。


 だが……並の武器ではヴァールを倒すことはできない。


「ヴァールは強い。並の武器では迎撃すらままならないだろう。俺とて、安全な道が選べるのであれば選びたい。だが、そうすることができないから、賭けに出るしかないのだっ」


 苦しさが胸から吐き出された。


 重い沈黙が場を支配していた。


「ヴァールっつうのは、そこまで強いのか」


 口を開けたのはルーベンか。


「ああ。並のドラゴンとは比べものにならない。やつが放つ炎と毒のブレスだけで、いくつもの村や街が滅ぼされてきたのだ」

「そんなに、強いのか……」

「ヴァールは間違いなく最強だ。ルヴィエド宮殿で再戦して、あらためて実感した。あの万全とはほど遠い状態でも、俺はやつに勝てなかったのだ」


 ヴァールは復活した直後の反動だったのか、しきりに頭を抱えていた。


 まともに戦える状態ではなかったはずだが、それでも俺は敗れてしまった。


「それは、あなたの武器が壊れてしまったからでしょう? ですから、あんな世捨て人を頼るのではなく、他の職人を頼ればいいでしょう」


 ディベラはアンサルディ殿の技術力を疑っているのか。


「たしかに、俺の斧がヴァールに通用しなかったのは事実だ。だが、それを差し引いても、俺はあのとき、ヴァールを倒すことはできなかったと思う」

「そんなことは、ないでしょうに……」

「並の武器でも、あの男と戦うことはできるであろう。しかし、それではろくに太刀打ちできないことは目に見えている。だからこそ、危険を冒しても最強の武器を手に入れなければならないのだ」


 ヴァールアクスがヴァールに通じればと、切に思う。


 だが、それこそ現実に立ち返って新たな武器を手に入れるべきなのだと俺は考える。


「なぁーるほどな。俺はグラートの考えに賛成だな」


 ルーベンが重い沈黙をやぶり、明るい声で言ってくれた。


「正気ですかっ」

「おお、もちろん正気だぜ! とんでもねぇ強敵と戦うために、とんでもなく最強の武器を手に入れたい。戦いに身を投じる連中だったら、至極当然に行きつく発想だぜ。

 俺もヴァールっていうやつの強さをちゃんと考えてなかったけどよ。グラートがここまで悩むっつうことは、よっぽどつえぇやつだっつうことなんだろ。そりゃ、その辺の武器じゃ、倒せねぇだろ」

「そんなことはないだろう。いや、たとえそうだったとしても、他の真っ当な職人を頼ればいいではないか!」

「あのおっさんの腕はいまいち信用できねぇけどよ。でも、まぁ……なんとかなるだろ!」


 ルーベンの投げやりな言葉に、ディベラがひざを折りそうになった。


「話し合いをいきなり放棄するな!」

「かっかっか! そんなに怒るなって。俺はねえちゃんと違って話し合うのが苦手なんだよ。でも、まぁ、グラートの言うことだったら信用していいと思うぜ」

「そんな、無責任な……」

「ウバルはどうだ?」


 ウバルドは俺のとなりで考え込んでいる。


「判断しにくい微妙な状況ではあるが……お前たちが良いというのであれば、俺も良いと思うぞ」

「おお! さすが親友だぜっ」

「うわっ、ばかっ。やめろ!」


 ルーベンが幼児のように飛びついて、ウバルドを押し倒した。


「つうわけで、俺らは北の果てでも、どこでも行ってやらぁ!」

「北の果てなんて、俺はできれば行きたくないけどな。だが、乗りかかった船だからな」

「おう! 途中で降りるのはなしだぜっ」


 ふたりとも……ありがとう。


「はぁ。これだから、男どもは……」


 ディベラが恨めしそうに、俺たち三人を見やった。


「ディベラはどうするのだ? 無論、行動を強要する気はないが」

「無責任なことを言わないでください。アルビオネよりさらに北の山へ、どうやって行くおつもりですか。地上から侵入なんてできないんですよ」


 そうであった。アルビオネの国境は、今ごろ物々しい状況になっているはずだ。


「あなたがたが行くと譲らないのであれば、われわれも同行せざるを得ないでしょう。まったく……」


 ディベラは冷たい女性だと思っていたが、そうではないのかもしれないな。


「ありがとう。恩に着る」

「承諾しましたから、伝説上の物質をなんとしても探し出しますよ! アルビオネの侵攻を、なんとしても阻止してくださいっ」

「わかった。まかせておけ」


 アンサルディ殿の洞窟に戻り、持っていく武器を選別させていただく。


 一本道の回廊は複数の小部屋へとつながっている。


 ほとんどの部屋はアンサルディ殿がつくられた武器が積まれているだけの物置き部屋だが……戦士たちからすれば宝の山だっ。


「すげぇ! これ、全部持っていっていいのか!?」


 ルーベンがにぎやかな声を上げると、ダニオがすかさず彼の尻を殴った。


「一本だけだぞ! それ以上持ち帰ったら、お師匠さんに言いつけるからなっ」

「わかってるって。ケチくせぇなぁ」


 この宝の山に、いくらほどの価値があるのだろうか。


 小さい領地であれば買えてしまうかもしれない。


 鋼の剣に、槍。三叉の穂先を取り付けた鞭に、大きな鎌のような武器まであるぞ。


「すごいな、これ……」


 ウバルドが抜き身の長剣をながめる。


 装飾が少ない、傍から見れば変哲のない武器である。


 だが、優美な刃が妖しい光を発して、俺たちを誘惑しているように感じるのは、決して気のせいではない。


「グラートは、やっぱり斧だろっ」


 ルーベンが一本のポールアクスを差し出してくれた。


 槍のような穂先がついた強靭なポールアクスだ。


 この斧も一切の飾りがなく武骨であるが、分厚い刃は鉄板のように固く、どのように固い鱗でも断ち切ってしまいそうであった。


 柄は両手を添える部分がちょうどいい場所に設定されている。


 アンサルディ殿が使い手の体格を考慮して、計算し尽くした場所を選んでくれたのであろう。


「この手に馴染む感覚……やはりアンサルディ殿が打つ斧は最高だっ」

「だろっ。お師匠さんは世界一だぜ!」


 ダニオが「えっへん」と、自分の功績のように誇っていた。


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