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第207話 クセの強い武器職人は最強の斧をつくってくれるか!?

「遠くからこんな山奥にまで来たんだから、そんな言い方しなくていいんじゃねぇのか?」


 洞窟の重たい沈黙をやぶったのは、ルーベンであった。


「ルーベン、やめろっ」

「俺たちはヒマつぶしで来てるんじゃねぇ。国がやべぇことになってるから、急いでやって来たんだ。こんな、人も住んでねぇ場所にわざわざ来るだけでも面倒なのに、事前に連絡なんて入れられるかよ」


 ルーベンは俺を哀れんでくれているのだろうが、アンサルディ殿に文句を言ってはいけないっ。


 アンサルディ殿はルーベンを見やって、うすく笑った。


「さっき、俺の悪口を言っていたのは、お前か」

「う……っ。悪口なんて、言ってねぇよ」

「お前たちが思っている通り、俺は誰もいない山奥に引きこもり、原始人のような生活を好む変人だ。俺は、お前らのようなバカどもの顔が見たくないから、こんな場所を選んだんだ。

 俺は、お前たちに俺の家を訪ねてほしいだなんて一度も言っていない。むしろ、騒がしくなるから迷惑だ。俺のことが気に入らないのなら、ここからさっさと出ていけ」


 アンサルディ殿の敏感な部分を刺激してしまったか。


 ウバルドに指示して、怒るルーベンを下がらせた。


「この国が危機に陥るかもしれないのです。どうか、ドラスレ様に力をお貸しいただけないか」


 言葉を丁寧に並びたてたのは、ディベラか。


「ブラックドラゴン・ヴァールはすぐにヴァレンツァへ攻めてくる。ドラスレ様が彼に太刀打ちできなければ、ヴァレンツァはたちまち火の海と化し、多くの民たちが犠牲になってしまう。

 ヴァレンツァには、あなたの親族も住んでいらっしゃるのでしょう? あなたの親族がどうなってもよいというのですかっ。あなたの天才的だという鍛冶技術と武器製造技術をここで発揮しないで、いつ発揮するというのですか!?」


 ディベラはやはり頭がいい。道筋を立てて説得を試みている。


 アンサルディ殿の凝り固まった心に届けばよいが……。


「俺は世俗を捨てた。俺に親族などいない」

「そ、そんな……」

「この国がどうなっても、俺はかまわない。北のドラゴンどもに人間の国が占拠されても、俺にはなんの影響もない。くさったやつらが治める国など、むしろ滅びてしまえばいい」


 この人は、ヴァレダ・アレシアが滅びてもいいというのかっ。


「お前たちは、平和なときに俺の技能を恨み、危機が訪れれば力を貸せと頭ごなしに命令してくる。お前たちはなんて身勝手なやつらなんだ。俺がいつ、お前たちの下僕に成り下がったというのか」


 この人の偏屈さは、どのような言葉や理屈もねじ曲げてしまう。


「それは誤解です! わたしたちは、あなたを格下の者として扱ったことは一度もないっ」

「なら、都合のいいときだけ頼んでくるのは、なぜだ。頼み込めばだませると思っているからではないのか」

「そんな……。困ってるときに助けてほしいと願うのは、普通だろう。都合がいいなどとは……」

「助けてほしいんだったら、他のやつらを頼ればいい。この国で武器をつくってるやつは、ごまんといる。こんな山奥にわざわざ来なくていいだろうが」


 アンサルディ殿に武器の製作を依頼するのは、不可能なのか。


「お師匠……さん」


 ふり返れば、木桶をかかえたダニオが部屋の出入り口で立ちつくしていた。


 アンサルディ殿はごろんと寝転がり、俺たちに背を向けてしまった。


「話は終わりだ。ここからさっさと出ていけ!」



  * * *



「んだよ、あのクソヤロー。すげー腹立つっ」


 湖の畔で焚いた火を皆で囲む。


 ルーベンがアンサルディ殿のいる洞窟を見やって、ちっと舌打ちした。


「グラートが説得すれば、なんとかなるだろうと高をくくってたが、取り付く島もなかったな」


 ルーベンのとなりで、ウバルドもため息をつく。


 洞窟の外で宿をとれるような場所はない。


 湖の近くで休めそうな場所を探して、野宿をするしかない。


「アンサルディ殿が人間嫌いだという話はグラート様から伺っていたが……あれほどだったとは」

「報酬をちらつかせても、聞く耳すらもたなかったからな」


 ディベラの言葉にウバルドが反応する。


 武器製作の依頼が暗礁に乗り上げて、重苦しい空気をふり払うことができなかった。


「アンサルディ殿は剛直な方であるが、説得を続けるしかない。すぐに承諾してもらえると思い込んでいたのが悪かったのだ」

「だがなぁ、グラート。相手は話すらろくに聞いてくれないんだぞ。こんな相手を、どうやって説得するんだよ」

「そうだな。今は、これといった方法は思いつかない」


 アンサルディ殿を頼るのは、無謀だったのか。


 しかし、ヴァールアクスを超える斧をつくれるのは、アンサルディ殿をおいて他にいないのだ。


 あの斧を超える究極の武器がなければ、ヴァールと戦うことはできない。


 アンサルディ殿になんとしても首を縦にふってもらわなければならないのだが……どうすればよいのだっ。


「あのおっさん、なんか相当ひねくれてっから、説得するのなんて無理じゃね? 他を当たった方がいいぜ」

「ルーベンの言う通りだがな……」

「俺らもいきなり扉をたたいて、失礼だったのかもしれねぇけどよ。あんなふうに怒鳴り散らさなくてもいいだろうがよ。これからやべぇ状況になるっつうのに、聞いてもくれねぇし。ろくでもねぇやつだよ」


 ルーベンの素直な言葉にだれも反論できない。


「彼には身内がいないから、ヴァレンツァがどうなってもいいと言っていたからな」

「俺もヴァレンツァに身内がいるわけではないが、あの言い方はさすがに胸糞悪くなったぜ」


 まずい。皆がアンサルディ殿の人格を疑いはじめている。


「彼だって、大志を成し遂げるために武器製造技術をみがいてきたはずなのに。あそこまで人と触れあいたくないと思うのは、異常だ」

「そうだな。俺だって人付き合いなんて好きじゃないが、あそこまでいくとさすがに精神的な異常を感じずにはいられないな」


 アンサルディ殿は極度の人嫌いであるが、高い志をもつ人物であることに間違いないのだ。


 武器製造技術はヴァレダ・アレシア随一だ。俺は、彼の実力と人格を信じている。


「グラートはあんなやつによく武器をつくってもらえたよなぁ」


 ルーベンは大きなあくびをかいていた。


「そうだな。前はこんなに拒否されなかったのだが」

「でも、拒否はされてたんか」

「そうであったな。何度か説得して、やっと斧をつくってもらえたんだと思う。詳細までは忘れてしまったが」


 ヴァールアクスをつくってもらったときは、俺はどうやって彼を説得したのか。


 あのときはヴァールを倒した直後で、国は不安定であったが今ほど悪い状態ではなかった。


「グラート。前の斧をつくってもらったときは、どのようにあの男を説得したんだ?」


 ウバルドも同じ疑問に行きついたか。


「そうだな。最初に彼の下を訪れたときは武器の製作を言下に断られて、まずはヴァールの骨や鱗をたくさん集めてこいと言われたのだ」

「ヴァールの骨や鱗を……?」

「ドラゴンの骨や鱗はとても強力な素材になるのだという。ヴァールはドラゴンの最上位に君臨していた者であったから、彼の骨や鱗をつかえば究極の武器がつくれるだろうと、アンサルディ殿に言われたのだ」


 彼の考えは見事に的中した。


 ヴァールの骨や鱗をふんだんに使用したヴァールアクスは、アルビオネのドラゴンたちを寄せつけないほど強力な斧であった。


「究極のドラゴンを素材にすれば、究極の武器がつくれるということか」

「武器職人らしい発想だが、素人からしたら常軌を逸しているとしか思えないですね」


 万事に精通しているディベラでも、武器の世界は理解できないか。


「ようするに、前回はヴァールの素材があったから、最強の斧をつくってもらえたのだ」

「っつうことは、ヴァールの素材があれば、あのおっさんにまた武器をつくってもらえるかもしれねぇっつうわけか」

「だが、今はヴァールの素材を手に入れることは困難だ」

「だよなぁ」


 ルーベンが地面に寝転がった。


「仮にヴァールの素材を手に入れられたとしても、ヴァール本人には通用しない。それに、同じ武器をアンサルディ殿がまた製作してくれるとはかぎらない」

「あの偏屈な方でしたら、同じ武器をつくれと言えばたちまち難色をしめしそうですね」


 やはり、アンサルディ殿に武器の製作を依頼することはできないのか。


「ヴァールの素材っつうのを超える、もっとすげぇのがあればなぁ」


 ルーベンのふとした言葉が、俺の胸になぜか突き刺さった。


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