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第202話 ザパリョーネとドラゴンの強大な力

 ザパリョーネの猛攻が真正面から迫ってくる。


「ぐっ!」


 左足で地面を押し出し、地面を転がりながら緊急回避する。


 ザパリョーネの拳が俺の真横を打ちくだき、瞬間的に発生した暴風によって吹き飛ばされてしまった。


 無数の砂が舞い、俺の全身を汚す。


 打ちくだかれた地面は大きくくぼみ、原型をとどめられないほどの大きな穴があいた。


 この強大な力は、まぎれもなくドラゴンだけがもつ力だ。


 魔物たちの頂点に君臨するドラゴンたちは、巨人すら圧倒する怪力で敵対する者たちをねじ伏せる。


 ブラックドラゴンのヴァールをはじめ、ゴールドドラゴンのゾルデや他のドラゴンたちも人間を軽く凌駕する力を有していた。


 このザパリョーネも例外ではないということか。


「でかいくせに、ちょこまかと逃げやがって」


 ザパリョーネが浮遊するように穴から飛び上がってきた。


「お前もヴァールやゾルデと同じように、ドラゴンの強大な力を有しているようだな」

「あたり前だ。この国の幹部どもは、みんなドラゴンだ。俺だけ他の魔物であるわけがなかろう」

「そうだな。愚問であった」


 この男がヴァールやゾルデと異なっているのは、地震を発生させているあの力だ。


「お前は、土や地面をあやつる魔法を習得しているのか?」

「魔法? 俺たちドラゴンが、そんなせこいものを使うものかっ」


 あの力は魔法ではないのか?


「お前は、ヴァール様やゾルデと戦ってきたんだろう。それなら、俺の力の正体もわかるはずだがな」


 ヴァールは炎と毒をあやつり、ゾルデは光と電撃を使役していた。


「それではお前は、大地の力をあやつるドラゴンだということか!」

「その通りだ!」


 ザパリョーネが瞬時にしゃがみ、右手を地面に押しあてた。


 地表が意思をもつように動き出す。


 上下にはげしく揺れて、身体の自由をうばって――。


「そろそろ死ねっ」


 ザパリョーネがまた真正面から迫――この攻撃は、よけきれない!


 身体をひねり、ザパリョーネの拳が直撃することだけは避けたが、はげしい突撃の勢いをもろに受けてしまった。


「グラート!」


 この男の強さは、ヴァールに迫るものがある。


 満身創痍であり、武器も失っているこの状態ではとても太刀打ちできない。


「けっ。ヴァール様を殺ったお前の力は、そんなものか。逃げてばっかりで、まったく――」


 傲岸と立ちつくすザパリョーネに真空の刃が襲いかかる。


 彼は油断していたのか、その攻撃を回避できなかったが、胸や肩をわずかに傷つけられる程度であった。


「いっ、いい加減にしろ。バケモノめっ!」


 ウバルドか。彼が倒壊した小屋の陰から魔法を放ってくれたか。


「ああ? 他にまだザコがいやがったのか」


 ザパリョーネが胸にできた傷をさする。


 ぎろりとにらむと、「ひぃっ!」とウバルドが小屋に隠れた。


「他のザコどもも後で葬ってやる。だが、先に仕留めるのは、そこのヴァール様を殺った野郎だ」


 絶体絶命かっ。


 あの男を倒さなければ、俺たちはヴァレダ・アレシアの土をふむことはできない。


 諦めるな! この程度の危機を、俺は何度も乗り越えてきたのではないのかっ。


「死ねっ!」


 ザパリョーネが右腕を引いて突進してきた。


 俺は斧を扱う戦士だ。徒手空拳はそこまで得意ではない。


 だが、武器を失ったときを想定した戦い方を、義父から教わったのではないか。


 ――力でねじ伏せることばかりが戦いではないぞ。


 一瞬の閃きが脳天から足下へ駆けめぐった。


「はっ!」


 ザパリョーネの拳が俺の顔面をとらえる。


 直撃する寸前で、俺は右によけて拳をかわした。


「またっ、ちょこまかと――」


 俺は左手でザパリョーネの右腕をつかむ。


 そして右手で彼の左肩をつかんで、身体を後ろへひねった。


「俺は逃げん!」


 あとは彼の突撃の勢いを利用するだけだ。


 俺は右腕をふり下ろして、ザパリョーネを後ろへ投げ飛ばした。


「な――」


 敵の突撃を利用した投げ技だ。


 俺はタイミングを合わせて、わずかな力を使うだけで敵の攻撃をかわし、かつ反撃まで行える。


 ザパリョーネは広場から吹き飛ばされて、どこかの木に激突していた。


「グラートっ、無事か!?」


 ウバルドがおそるおそる小屋の陰から出てきた。


「まったく問題ない。一歩間違えれば、危なかったかもしれないがな」

「なんだったんだ、さっきのは。確実にやられちまったと思ったんだがなぁ」


 とっさにくり出して成功した投げ技であったが、かなり危険であった。


 ザパリョーネがまた襲いかかってきたら、あの投げ技はまた成功するか。


 空から鳥の鳴き声が聞こえる。


 はっとして、ウバルドと遠い空を見上げる。


 上空にいるのは、三体のイルムたち――! ディベラたちが戻ってきたのか。


「諜報員の者たちかっ。俺たちが見えるか!」


 イルムたちがゆっくりと地上に降りてくる。


 先頭のイルムに乗っている女にはとても見覚えがあった。


「ドラスレ? あなたはまさかドラスレ様か!?」


 この白い顔と、目元の特徴的な黒い化粧はディベラで間違いない。


「ディベラか。ひさしぶりだ。ここまで戻ってきてくれたのだな」

「ええ。逃がせる者たちを先に送り届けてから、あなたがたを探せと上の者たちから厳命されたので、また戻ってきたのです」


 宮廷の官吏たちの指示で戻ってきたのか。


「ドラスレ様。あなたはもう死んでしまったものだとばかり思っていましたが……。あの乱戦を生き抜くとは、なんという悪運の強さか」

「俺の悪運が強かったのではない。夢幻の仲間たちが俺を救ってくれたのだ」


 かたわらに立つウバルドを紹介する。


 ウバルドはディベラたちを一瞥するのみであった。


「グラート。のんびりしてる場合じゃないぞ。さっきの敵も、すぐに戻ってくるぞ」

「そうだな。急がなくては。ルーベンはどこにいる?」

「向こうで休ませている。俺が連れてこよう」


 ルーベンの面倒はウバルドにまかせるか。


 ディベラは配下の者たちに、イルムから降りないように指示していた。


「アルビオネの追っ手がいるのですか?」

「ああ。ヴァールの幹部だった危険な男がいる。お前たちは、イルムをすぐに飛び立てるように準備しておいてくれ」

「そんな男に追われているのか……」


 ウバルドがルーベンに肩を貸しながら、向こうの茂みから歩いてきた。


 ルーベンも武器を失ってしまったようだが、大きなダメージは負っていないようだ。


「グラート。すまねぇ」

「気にするな。戦いに負傷はつきものだ。ザパリョーネが戻ってくる前に、イルムに早く――」


 大地を揺るがすような轟音が、突然鳴り響いた。


 木々の先がはげしく揺れて、枝葉がざわざわと音を立てる。


「人間……許さんぞぉ」


 ザパリョーネが戻ってきたかっ。


「ウバルドとルーベンは先に行け!」

「グっ、グラート!」

「お前は、どうするんだ!?」

「俺はあの男の注意を引きつける。早く行け!」


 俺が叫んだのと同時に、酷い状態になった広場の奥から黒い影が飛び出してきた。ザパリョーネかっ。


「にんげんどもがぁぁー!」


 突撃のあまりの速さに回避が間に合わないっ。


 俺は両腕を盾にして、真正面からぶつかってきたザパリョーネを受け止めるしかなかった。


 城壁を吹き飛ばすほどの力を相殺するのは不可能だ。


 高速で後ろへと吹き飛ばされ、戦場の外に出されることを余儀なくされてしまった。


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