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第197話 アルビオネの追っ手をたおせ!

 ディベラたちとイルムに乗ってアルビオネの国境を越えたとき、俺たちはどこで降り立ったか。


 イルムは高速で空を飛べる便利な騎獣であるが、空の上を巨大な獣が飛んでいたら目立ってしまう。


 アルビオネの者たちに捕捉されないように、俺たちはマドヴァから離れた拠点に降り立ったのではないか?


「イルムは、マドヴァから南東に進んだこのあたりに停めているはずだ」


 泉が湧く静かな森で、ウバルドが地図をひろげる。


 マドヴァ近郊をしるしたこの地図は、ディベラたちからわたされたものだ。


 ウバルドが地図の右下に描かれた赤い罰点を指す。


「ここに諜報員の連中が利用している拠点があるはずだ。諜報員の連中がまだ残っていたら、イルムもきっとここに停めているはずだ」


 ウバルドはやはり頭が切れる男だ。


 アルビオネから脱出する進路をしっかりと調べてくれていたようだ。


「じゃ、ようするにここに行けばいいんだな」

「そうだ」

「なら、簡単じゃねぇか!」


 喜々と声をあげるルーベンに、ウバルドが首を横にふる。


「そんなに単純な話ではない。アルビオネの連中がおそらくそこかしこで監視している。その中を潜り抜けるのは、容易なことではないぞ」

「あっ! そ、そうだな……」

「マドヴァを突っ切れば、イルムが待機している拠点にすぐ行けるだろうが、かなり危険だろうな……」


 アルビオネの魔物たちに囲まれたら、勝ち目がない。


 急がねばならないが、ここは慎重にマドヴァを迂回すべきか。


「マドヴァを突っ切れば……ということは、俺たちは拠点の反対側にいるのか?」

「おそらく、そうだ。俺たちはマドヴァの北西の、このあたりにいる」


 ウバルドの細い指が地図上の位置を示した。


「なるほど。だから、マドヴァを突っ切るか、迂回するかどうかの二択になるのか」

「当然、マドヴァを突っ切る方が距離は短い。しかし、敵地のど真ん中を突き進むのはリスクが高すぎる。いくらなんでも危険だ」


 ウバルドの進言は、とても理にかなっている。


 しかし、警戒している側も当然、俺たちがリスクを回避すると読んでくるであろう。


 どのように行動すれば、アルビオネの者たちの裏をかくことができるのであろうか。


「敵の予測を裏切り、あえてマドヴァを突っ切るという方法もあるが」

「マドヴァにわざわざ戻る気か!? それは危険すぎるっ」

「そうだぜ。俺とウバルだけで潜入するならまだしも、グラートは大けがしてるんだぞ!」


 歩くのがやっとの状態では、ふたりの足を引っぱってしまうだけか。


 しかし、広大なマドヴァを迂回したら、諜報員たちが拠点から――。


「いたぞぉ!」


 どこからともなく、男の怒声がひびいた。


 影のような物体が高速で目の前をよぎる。


 四肢を地面について、低い唸り声を上げているのはフェンリルか。


「くそっ、追っ手か!」


 ルーベンとウバルドがすぐに立ち上がって、俺の前で得物をかまえた。


「やっと見つけたぞ」


 茂みをかき分けて、甲冑に身をつつんだオークやゴブリンたちが姿をあらわす。


 彼らを率いているのは、ヴァールに劣らない体格が目につく男だ。


「お前たちだな。われらの国に潜入していた人間というのは」


 ヘビのような男の赤い目が俺たちを捕捉する。


 俺やルーベンと同じ偉丈夫だ。胸の前で腕を組む姿は堂々としている。


「この付近で消息不明になった捜索隊がいたから、くまなく探してみたが、どうやら正解だったようだな」


 この男はゾルデと同じくヴァールの忠臣だった男か。


 戦いはどうやら避けられないか――。


「かかれぇ!」


 フェンリルたちがよだれをまき散らしながら噛みついてくる。


「ウバル、グラートを守るぞ!」

「わかってるっ」


 ルーべンが鉄槌をふりまわしてフェンリルたちを殴り飛ばす。


 フェンリルたちは一撃で葬り去られるが……数が多い!


 後続のフェンリルたちが、するどい牙でルーベンの腕や足に噛みついた。


「くそっ、近づくな!」


 ウバルドは長剣でフェンリルたちに応戦するが、剛腕を鳴らすルーベンほどの攻撃力はないか。


 長剣を突き立てて、フェンリルに近づけさせないようにしているが、まだ一匹もフェンリルを倒せていない。


「ザコにはかまうなっ。最優先に抹殺するのは、後ろで休んでるそのでかい男だ!」


 ヘビの目の指揮官の下知が飛ぶ。


 オークやゴブリンたちはルーベンを避けるように、森を大きく迂回してくる。


「しまった!」


 オークやゴブリンたちが奇声を上げて、石斧や木の槌をふりおろしてくる。


 俺は満身創痍な上にヴァールアクスも失ってしまったが……お前たちごときに倒されはせんぞ!


「その程度の攻撃で倒されるものか!」


 オークの太った腕をつかみ、後ろへ投げ飛ばす。


 次のゴブリンには拳を突き出して、その緑色の顔面をくだいた。


「ぐぎゃぁ!」

「なんだと!?」


 ヘビの目の指揮官が、赤い目を見開く。


 動くたびに全身がきしむが……こんなところで倒されるわけにはいかない!


「おおっ、すげぇ!」

「グラート。お前は鬼神かっ」


 ルーベンとウバルドも、なんとか持ちこたえているか。


「アルビオネの者たちよ。お前たちが何体で襲いかかってきても、俺たちを倒すことはできん。俺たちはヴァレダ・アレシアへ還り、お前たちの侵攻を阻止せねばならないのだからな」


 全身は痛むが、まだ戦える!


 何体もの魔物に囲まれようとも、俺は必ず突破するぞっ。


「ち。ヴァール様を殺ったお前の力は伊達ではないということか。バケモノめっ」


 ヘビの目の男が従えている兵は少数だ。


 あの男さえ倒せれば、ここは切り抜けられるっ。


「お前たちっ、何をしている!? 瀕死の人間ごときに怯えるなっ。かかれ!」


 アルビオネの兵たちは数にものを言わせて攻撃してくるが、勢いは確実に弱くなっているか。


 俺が腰を引いて身構えると、オークやゴブリンたちから「ひっ」とちいさな悲鳴がもれた。


「さっさと攻撃せんかっ。怯える者は即刻処刑だ!」


 ヘビの目の指揮官が苛立ち、右足で地面を強く押しつぶした。


 地中に瞬時に衝撃が走ったのか、足もとが大きく揺れてオークたちが転倒する。


「うわっ」


 ウバルドも状態をくずしているか。


「なんだっ、さっきのは」


 ルーベンは槌をとっさに地面に突き刺して、転倒を回避したようだ。


 さっきの地震は、あのヘビの目の指揮官が起こしたものなのか?


 彼が地面をふみしめたタイミングと、地震が発生したタイミングがほぼ同時であったが――。


「こんなのやってられっか!」

「逃げろっ」


 オークたちが起き上がって、左と右にそれぞれ逃亡をはじめる。


「あっ。バカ者どもめっ」


 ヘビの目の指揮官は逃げる者たちを捕まえるが、戦意喪失した者を再び戦わせるのは、どのように優秀な指揮官でも不可能であろう。


「なんでい。アルビオネのやつらって、思ったより大したことねぇな!」


 ルーベンが「へん!」と鼻を鳴らす。


「一時はどうなるかと思ったが、これなら案外、王国へすんなりと還れそうだな」


 ウバルドも血でよごれた刃を下ろして、ヘビの目の指揮官を見やった。


 彼は捕まえた兵たちを投げすてて、俺たちをにらんでいた。


「愚かな人間どもめ……調子に乗るなよっ」


 彼の後ろから大きな獣が姿をあらわした。


 その獣は三つの顔を動かして俺たちを探している。


 フェンリルのような顔が三つ。そして、クマのような巨体がひとつ。


「あれは合成獣キメラか」


 キメラが前肢をふり上げていななく。


 地面を太い肢でふみつぶし、三つの口から灼熱の炎をはき出した。


「うおっ!」


 火炎は水鉄砲のように高速で迫り、地面に茂る草木を焼きつくす。


「はーっ、はっはっは! こいつは最近開発された新種だっ。ふざけたお前らの相手をするのにはもったいなすぎる試験体だぜ」


 キメラが暴風のように迫る!


 己が吐いた炎をふみつぶしながら、俺たちをかみ砕こうと顔を突き出してくる。


「くそっ、こんなやつまでいんのかよ!」

「お、俺たちじゃ、勝てないんじゃないか!?」


 ルーベンとウバルドは、キメラを対処し切れていないか。


 あの巨体と俊敏な動き。そして、三つの口から吐かれる炎は厄介だっ。


「くっくっく。そいつがいれば、俺がみずから相手をする必要はないな。あとでお前らの死体を検分しに来てやるさ」


 ヘビの目の男は、俺たちをあざ笑いながら森の奥へと消えていった。


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