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第195話 心強い仲間と再会、次なる目標は

 予期せぬ再会に頭がついていかないが、とてつもない幸運であることは確かだ!


 ウバルドとルーベンが夢幻の聖域に入団していたとは、露ほども知らなかった。


「俺はオドアケルと決別することを条件に、パライアの牢屋から解放されたんだ。そんで、しばらく当てもなく各地をさまよってたんだが、ラグサの連中に誘われて夢幻に入ったっつう感じだ」


 ルーベンが脱ぎ捨てた外套をわきに放り投げる。


「戦いとは関係ねぇとこで生きたかったんだが、都合のいい場所がなくてよ。しかたなく……っつう感じで夢幻に入ったんだ。そんで、ええと、なんだったかな。

 夢幻に入ってすぐに、なんかの遺跡を調査しろって言われて、ウバルといっしょに調査してたんだが、そしたら急に、今回の特殊作戦に参加しろって命令されてな。人使い荒いよなぁ」


 俺は知らないうちに、ルーベンをこき使っていたようだ。


 遺跡の調査というのは、おそらく超文明の調査のことだろう。


「遺跡の調査をオリヴィエラ殿に依頼したのは、俺だ。今回の特殊作戦も、そうだな。お前たちをこき使ってしまって、すまない」

「なんだよそれ! あのめんどくせぇ依頼をしてきたのって、お前だったのかよっ。くっそー、道理でめんどくさかったわけだっ」


 俺とめんどくささに関連性はないだろうが、ルーベンの小粋なジョークだと受けとろう。


 ウバルドは静かに水筒の水をすすっている。


「そう言うな。グラート、お前のことだ。どうせ、王国の厄介な命令を受けてのことなんだろう?」

「そうだ。遺跡の調査も、今回の特殊作戦も、ヴァレダ・アレシアの平和を維持するために必要な任務だったのだ。だから、どうかお前たちにも協力してほしい」

「お前は、あいかわらず……」


 ウバルドが眉をひそめた。


「ウバルドも、ルーベンと同じような経緯で夢幻に入ったのか?」

「ああ、そうだな。お前の下を去ってから、自分を見つめなおす旅を続けていたんだが、今さらギルドを新たに立ち上げる気が起きなかったんでな。ラグサの有名なギルドにひとまず身を置いているだけだ」


 俺もかつて所属していた「勇者の館」は、ウバルドがヴァレンツァで興したギルドであった。


 あのギルドはヴァレンツァ有数のギルドにのし上がったが、俺が追放された後に解体されてしまった。


 ギルドの再興は、とても難しいだろう。


 ルーベンが失笑した。


「自分を見つめなおす旅って、なんだよ。ウバルはまじめだなぁ」

「まじめに見つめなおさなければいけなかったっていうことさ。なぁ、グラート」

「そうかもしれんな」


 俺とウバルドの関係は複雑だが、ルーベンは知らないか。


「ルーベン。お前にも、そういうときがあるだろう?」

「そういうとき? あるかなぁ」

「よかれと思って行動してるのに、悪い方にばかり向かってしまうときがあるものさ」


 ウバルドとは、また腹を割って話したいものだな。


「夢幻は、実力のある冒険者を積極的に引き入れるギルドであると、冒険者であった頃に聞いた。ルーベンとウバルドの実力ならば、夢幻の先輩ギルメンにも負けない力を発揮できることであろう」

「んなこたぁねぇけどよ。あそこは、俺たちみたいな後ろ暗いやつらでも引き取ってくれるからさ。助かるぜ。俺もウバルも、他所じゃ言えねぇことをやってたからな」

「そうだな。前の宰輔に加担して国の裏金を使ったり、国の反乱に加担したりな。普通ならば、即刻処刑台行きだ」


 ルーベンもウバルドも、元は俺の敵として悪事に手を染めていた。


 刃を交えることもあったが、今はこうして同じ時をすごしているのだから、不思議なものだ。


 ルーベンが子どものような笑顔を向けてくれる。


「俺たちがこうして日の目を見られてるのは、全部あんたのおかげだ。感謝するぜ」

「俺は別に、感謝なんてしてないがな」

「……とかなんとか言っちゃってよ。ウバルもほんとはグラートにめっちゃ感謝してるんだろぉ? 素直になればいいのによ」

「う、うるさいっ。俺のことは、放っておけ――」


 小屋の外から草木のこすれる音がしたぞ!


 歓談していた場が一瞬で凍りつく。


 マドヴァの見回りの兵が近くにいるのか!?


 ルーベンとウバルドも、息を殺して神経をとがらせていた。


 次の音は何も聞こえてこない。


 アルビオネの兵が話しているような声は混じっていないか。


 ルーベンとウバルドを見やって、安全だと判断できるまで待つ。


 身じろぎはおろか、吐息の音まで気をくばって危殆が去るのを待った。


 やがてルーベンが立ち上がって、ひとつしかない扉をそっと開けた。


 外の様子をわずかな間だけ確認して、俺たちにふり返った。


「どうやら、マドヴァの見回りじゃないみたいだぜ。安心しな」

「そうか。よかったな」

「だが、ここはやっぱり安全じゃねぇなぁ。早く、もっと遠くに行かねぇとだめだよな」

「そうだな。だが、俺はまだ動けない。もうしばらく、ここで回復につとめなければならないだろう」


 ウバルドがこくりとうなずく。


「グラートの回復が最優先だ。それまでは、ここで潜伏するしかない」

「だがなぁ。見つかるのは時間の問題だぞ」

「グラートがひとまず動けるようになるまでの、一週間くらいの辛抱だ。それくらいなら、なんとか潜伏できるだろう」


 俺はヴァールとの戦いで深手を負ってしまった。


 シルヴィオとジルダを早く探しにいきたいが、この身体ではどうすることもできない。


 ああ……っ! ふたりとも、どうか無事でいてくれ!


「潜伏するのもそうだが、グラートの武器をどうするかだよな」

「そうだな。グラートが前に使っていた斧は、壊れてしまったからな」


 重たい空気がずしりとのしかかる。


 ヴァールアクスがたとえ折れていなかったとしても、あの斧ではヴァールを斬れない。


 いずれにしても、俺は新しい斧を手に入れなければならないのか。


「一応、グラートが使ってた斧の残骸というか、足もとに落ちてたやつだけは拾っといたんだよ」


 そう言って、ルーベンが右手で持ち上げたのは……ヴァールアクスの粉砕された刃の一部か。


「あの混乱の最中で、ヴァールアクスの残骸を拾ってくれたのだな」

「ああ。アルビオネの連中が邪魔だったから、ほとんど拾えなかったんだけどな」

「いや、一部だけでも拾ってくれて、感謝する。あの斧は、俺の半身と言うべき存在であった。あの斧を喪失することは、俺の身体を喪失するのと同義だ」


 だが、ヴァールアクスの一部を回収しただけで、ヴァールを倒す手立てにはならないか。


「グラートよ。どうするんだ? 新しい武器をこれからつくるのか?」


 ウバルドの問いに、なんと答えるべきか。


「もちろん、そのつもりであるが、具体的な考えまではないな」

「そうだろうな。昨日、ヴァールにやられて、やっと意識を回復したばかりだからな……」


 俺は戦士だ。つかう武器は斧以外にあり得ない。


 しかし、ヴァールを打ち破るほどの斧を、どこで手に入れればよいのか。


「あのヴァールを撃滅させるほどの斧となると、そんじょそこらの斧では代用できないぞ」

「俺やウバルがつかってる武器じゃ、ヴァールを倒せねぇよな」


 俺の身体を回復させたら、ヴァールアクスに代わる武器を探さなければならないか。


「グラートが前に使ってた斧の代わりになるやつをつくればいいんだよな。っていうか、グラートが前に使ってたこの斧って、どうやってつくったんだ?」

「ヴァールの骨と鱗を加工し、ヴァールの魔力を封じ込めて特別につくりあげたものだ。ヴァールの強大な力が込められた斧であったが、ヴァール自身には通用しなかった」

「自分の手で攻撃されてるようなもんだからな。っていうか、あんたは武器までつくれるのか? ほんと規格外だなぁ」

「いや。つくったのは俺ではない。カタリアにいるアンサルディという男だ。俺は彼に指示されて、材料を持ち込んだだけにすぎない」


 ウバルドが「なにっ」と声を張り上げた。


「アンサルディはヴァレンツァの伝説の名工と謳われた男ではないか! そんな男に、あの斧をつくってもらってたのかっ」

「ああ。アンサルディ殿は人嫌いで有名だが、俺はヴァレンツァを救った功績に免じて、特別に彼を紹介してもらったのだ」

「グラートに、まさかアンサルディのような知り合いまでいたとはな……」


 知り合いと言っても、斧を一度だけつくってもらっただけであるが。


 ルーベンだけは話についていけていないようだ。


「なになに? どういうこと?」

「グラートが前につかっていたヴァールアクスは、ヴァレダ・アレシア一と謳われる名工につくってもらっていたのだ」

「おお! なんだよそれ。超すげぇじゃねぇか!」

「そうだっ。ヴァレダ・アレシアのすべての冒険者が思わず垂涎すいぜんしちまうような優遇をグラートは受けていたのだ。道理でグラートに勝てるやつがギルドにいなかったわけだ。アンサルディの武器なんてつかわれたら、俺たちで勝てるわけがない!」


 アンサルディ殿の武器製造技術はたしかにヴァレダ・アレシア一だ。


 だが、彼はとても気難しい。


 ヴァールアクスを折ってしまったと告げたら、二度と顔を合わせてくれなくなるのではなかろうか。


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