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第188話 ドラゴンたちと空中戦

「お前たち、止まれ!」

「マドヴァから指令を受けている証拠を見せろ!」


 二頭の飛竜が怒声を発しながら、俺たちの後を追ってくる。


 彼らはイルムより速いのか。距離が少しずつ詰められている。


「まずいぞ。このままだと追いつかれるっ」

「わかっていますっ。ドラスレ様、彼らを撃退させることはできますか」


 空中でやつらと戦えというのか!?


「わからない。空を飛ぶ騎獣に乗りながら戦ったことなどないからな」

「だが、やってもらわなければ困る。でなければ、マドヴァへの潜入を諦めることになりますっ」


 片手でヴァールアクスをふりまわし、すれ違いざまにやつらを斬り伏せればよいか。


「旋回して、やつらと交差するように飛んでくれ」

「たのみますよ!」


 ディベラが手綱を打つと、イルムが左へと大きく旋回した。


 ディベラの合図に、後ろで飛ぶ二頭のイルムも同じルートで旋回する。


「ふん。観念してわれらの尋問を受ける気になったか――」


 左手でディベラの腹につかまり、右手で肩にかけたヴァールアクスを取り出す。


 イルムの飛行が速すぎるせいか、空気の抵抗がすさまじい。


 ヴァールアクスを横に倒して、一撃必殺のタイミングを待つ。


「おい、お前たち、止まれ!」


 二頭の飛竜は油断してその場で浮遊しているか。


 左の飛竜が攻撃しやすい。一撃で確実に葬り去る!


「ディベラ、左の飛竜にぶつかるすれすれの位置まで寄せろ!」

「わかったっ」


 イルムが翼を水平に倒して、高速で飛竜たちに近づく。


 いい飛行ルートだ。この位置なら飛竜に必殺の一撃を浴びせられる。


「しねっ!」


 ヴァールアクスをふり上げて、重たい刃で飛竜の首根っこを斬り落とす!


「ぐわぁっ!」

「なにっ」


 奇襲は成功した。飛竜の固い首が一撃で切断された。


「ジルダ、シルヴィオっ、残りの一頭を倒せ!」


 俺たちに追従するジルダとシルヴィオに叫ぶ。


「こんなところで戦うのかよ!」

「いくぞっ」


 ジルダもシルヴィオも遠隔攻撃をくり出すことができる。まかせたぞ!


「くらえ!」


 ジルダが雷の魔法を放つ。


 うろたえる飛竜に強力な雷が落ちて、かっと雷光が空に放たれる。


「きっ、貴様ら! こんなことをして、ただで――」

「くたばれ!」


 シルヴィオが右手に幻影剣を出現させて、真空波で飛竜の翼を斬った。


「お前たちに罪はないが、ヴァレダ・アレシアを守るため、ここで死んでもらう!」


 空中でまた旋回して、狼狽する飛竜の首をヴァールアクスで斬り払った。


 二頭の飛竜は力を失い、遠い地面へと落ちていった。


「ひゅうっ。かなりやばかったなぁ」

「そんなことはないさ。俺たちにかかれば、あんなやつらは大したことない」


 シルヴィオとジルダは、やはり強い。


 こんな動きにくい場所でも、すぐに適応できてしまう。


「あなたがたは、想像した以上の手練れのようですね」


 ディベラがイルムの身体をジルダたちに向けて、にっと笑った。


「そりゃ、冒険者だった頃からな。あんなのばっか倒してたんだし」

「俺たちは戦いのプロだ。あまり、見くびらないでもらいたいな」

「そのようですね。失礼した」


 ディベラが意外と素直に謝罪したため、シルヴィオとジルダがそろって拍子抜けしていた。


「これから向かうのは魔物の巣窟です。あなたがたは強ければ強いほど良い。これから思う存分、その力を発揮してもらいますよ」


 ジルダが、「この人、やっぱり嫌いだなぁ」とつぶやいた。


「ドラスレ様。敵に見つかってしまいました。ここからただちにはなれましょう」

「わかっている。早くマドヴァに向かおう」

「一応、敵の追跡を警戒して、本来の飛行ルートを多少蛇行しながらマドヴァに向かうつもりです。だが、到着はさほど遅れないから、安心してください」


 俺たちの目的や行き先をカモフラージュする必要があるのか。


「わかった。安全な飛行ルートを選択するようにしてくれ」


 ディベラが手綱を打った。



  * * *



 敵の追跡を警戒しながら飛行を続けて、その日の夜更けにマドヴァ郊外に到着した。


 ディベラたちが普段から使用している山奥の拠点にイルムを下ろし、火をすぐに焚く。


 この一帯だけ木が除かれており、広くはないが拓けた場所になっている。


 ひとむねの小屋もそばに建てられているから、息を潜められる最適な場所だ。


「ついに、マドヴァへ着いたのだな」

「はい。ここから先はイルムで飛べない。歩いてマドヴァのルヴィエド宮殿まで移動します」


 ディベラにわたされた地図をひろげる。


 シルヴィオとジルダが左右から地図をのぞき込んだ。


 この地図はマドヴァ近郊を記しているようだ。


 ルヴィエド宮殿の位置を示す赤い点は、地図の中央やや上部に記されている。


 そして、俺たちの現在地は地図の南東の端のようだ。


「ここからアルビオネの宮殿まで、どのくらい距離があるか?」

「まっすぐ向かえば、一日で着く距離ですね」

「アルビオネの者たちに正体がばれないようにしなければならないから、もっと時間がかかるということか」

「そういうことです」


 ディベラが白い顔で言う。


「彼らの密集している場所は通れない。宮殿の北東部は森が広がっているから、そこから侵入するのがいいでしょう」

「わかった。その考えに賛成だ」

「宮殿に侵入したら、どうやって情報を引き出すか。宮殿の宝物庫や書庫をかたっぱしから漁るか。それとも弱そうな官吏や召使いを捕まえて、尋問するか」


 ディベラはかなり腕利きの諜報員なのだろう。


 特殊作戦の遂行に向けて、具体的な作業が彼の口から飛び出て驚いてしまう。


「やつらがどこでどのような作戦を実行するのか。そこまではお前たちでもわからないか」

「あいにくですが、わかりません。彼らが妙な作戦や作業を行っていることは知っていましたが、まさかヴァールを復活させようなどと企んでいるとは、思いもしなかったですから」


 その発想が普通だ。死者を本気でよみがえらせようなどと、だれも考えない。


「じゃ、今日は休んで、明日の朝に出発すんの?」


 ジルダの問いに、ディベラが首を横にふった。


「彼らの目をあざむくのであれば、夜に行動した方がいい。しばらく休憩したら、ルヴィエド宮殿に向かおう」

「お、おう……っ」

「ここからが本番です。疲れているでしょうが、耐えてください」


 野生動物をさばいて簡単な食事を済ませ、陽が昇らないうちに拠点を後にした。


 山奥の森は原生林だ。巨大な木々が空に枝葉を張っている。


 地面には倒壊した木々が転がり、俺たちの行く手を阻むが、


「アルビオネには毒をもつ植物やキノコがたくさん生えている。誤って触らないように気をつけるのです!」


 ディベラたちは岩や木の根の段差を利用して、悪路をすいすいと飛び越えていく。


「ちょっ! 待てって」

「速い……!」


 紫紺色のローブに身をつつみ、夜陰にまぎれて悪路を飛び越えていく姿は、影だ。


 ゾンフ平原で何度も遭遇した影の魔物さながらだ。


 彼らの身のこなしの早さに、俺たちはついていくことができない。


 身軽なシルヴィオですら、ついていくのがやっとなのだ。


 俺とジルダに至っては彼らを追うことすらできない。


「なぜ、ちんたらと歩いているのです。アルビオネの野望を早く阻止したいんじゃなかったのですか」


 ディベラが高い岩の上に立ち、俺たちを傲岸と見下ろす。


「無論、そのつもりだが」

「ぼくらは一般人なんだから、こんな速さについていけるわけないだろ!」


 ジルダの悲鳴を聞いても、ディベラは肩をすくませるだけであった。


「あなたがたがなんと言おうと、敵は待ってくれないのです。こうしている間にも、ヴァール復活の儀式は進められているかもしれない」

「だ、だけどよぅ」

「俺たちは、あなたたちのように諜報活動に特化していないんだ。あなたたちの常識で推し量らないでほしい」


 シルヴィオの苦々しい言葉を聞いて、ディベラが嘆息した。


「ドラスレ様。わたしたちの到着が遅れ、やつらの作戦を阻止できなかったら、責任はすべてあなたに負ってもらいますよ」

「わかっている。だから、俺たちがついていけるように、進む速度を少しゆるめてくれ」


 俺が言下にこたえると、ディベラがまたわざとらしくため息をついた。


 そして部下たちに指示し、先に行くように伝えていた。


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