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第184話 ドラスレ村にあらわれた妖艶な訪問者

 屋敷にジルダだけを残し、村長や村の者たちに解散してもらった。


「急にこんな事態になっちまうんだもんなぁ。アルビオネのやつら、ほんとうぜぇよな!」


 アダルジーザに用意してもらったドライフルーツを食べながら、ジルダが声を張り上げる。


 連日の異変に疲れているようだが、彼女の声に張りがもどっていた。


「こういう日が、いつか来ちゃうのかなぁって、思ってた。けど、本当に来ちゃうなんて……」


 アダルジーザが俺のとなりに座って、ぽつりと言った。


「あいつらの好きにはさせねぇ。ぼくらでサルンを守るんだ!」

「うんっ。みんなで、いい村にしてきたんだもん。絶対に、まもらなきゃねっ」


 アダルジーザが、両手にぐっと力を込める。


 ふたりの言う通りだ。サルンを、この村をなんとしても守りたい。


「で、グラート。ぼくに協力してほしいことって、なんなんだよ」


 ジルダが目をつり上げて俺を見ていた。


 このふたりには、ヴァールの復活が画策されていることを話しても問題ないだろう。


「どうか、驚かずに聞いてほしい。アルビオネの第一の目的はヴァレダ・アレシアの侵攻ではない。ヴァールの復活だ」

「ヴァールの、復活……?」

「村長や皆を動揺させてしまうから、先ほどは正直に話せなかった。アルビオネの者たちは預言士の遺物を使って、ヴァールをこの地によみがえらせようとしているのだ」


 ジルダは大きな目を見開いて、しばらく言葉を失っていた。


 アダルジーザも愕然と色をうしなっているか。


「そんな……」

「ちょっと待てっ。ヴァールって、あれだよな。グラートが前に倒したっていうやつだよな!?」

「そうだ。アルビオネの前の国王にして最強のブラックドラゴンだ。アルビオネはヴァールを復活させて、ヴァレダ・アレシアを侵略しようと企んでいるのだ」


 ヴァールが本当に復活すれば、あの悪夢が再来することになる。


「なんだよそれ! 死んだやつをよみがえらせる方法があるっつうのかよっ」

「残念ながら、そういうことになる。俺やベルトランド殿も半信半疑であるが、やつらの捕虜から聞いた話だと、かなり具体的な作戦まで考えているようであった。ゆえに、厳戒態勢が敷かれることになったのだ」

「くっそー、そういうことだったのかっ。この前の戦争も預言士だったし。預言士っつうのはなんでもありなんだな!」


 預言士が遺した力や技術は高度であるが、悪用されてしまうことが多いのも現実か。


「じゃあ、アルビオネの人たちもぉ、預言士さんのことを調べてたのぉ?」


 アダルジーザの顔は、かなり青くなっているか。


「そういうことになるだろう。やつらも自国にある預言士の遺跡を調査して、死者を復活させる方法を知ったのかもしれない。古代に預言士が興した国は、ヴァレダ・アレシアとアルビオネをまたがっていたらしいからな」

「そうなんだぁ」

「にわかには信じがたい話であるが、放逐するわけにはいかない。これを早く阻止しなければ、サルンとヴァレンツァが窮地に陥ってしまう。だから、俺たちが行動しなければならないのだ」

「俺たちが、行動……?」


 ジルダのくちびるがひくひくと動いた。


「ようするにだ。ジルダにはこれから俺とともにアルビオネに潜入し、やつらの作戦を阻止してほしいのだ」

「せっ、潜入!?」

「うそ……っ」

「危険は承知の上だが、アルビオネとの全面戦争はなんとしても避けなければならない。そうなれば、こちらもアルビオネの中心地へ潜入し、やつらの謀略を阻止するしかない。シルヴィオにも協力してもらい、俺たちでアルビオネに潜入するのだ」

「マ、マジかよぉ……」


 ジルダがテーブルに突っ伏した。


「だから、アダルじゃなくてぼくなんだな……」

「そうだ。潜入や諜報活動などに長けているのは、ジルダとシルヴィオだ。危険だが、俺とともに死地に飛び込んでもらうぞ!」

「うう……っ。行きたくないよぉ」


 ジルダが弱音を吐くのは、めずらしい。


「グラート。いくらなんでも、危険だよぅ」


 アダルジーザが俺の腕をつかむが、


「わかっているが、やるしかないのだ。アルビオネの動向は無視できない」

「そうだけど……」

「安心してくれ。やつらの謀略を阻止して、かならず戻る。アダルも身の安全を第一に行動するのだ」

「それは、グラートがやることだよぅ」


 俺は危険なことにばかり足をふみ入れているな。


「この騒動が終結すれば、サルンはきっと平和になる。それまでの我慢だ」

「う、うんっ」

「くっそー。こうなりゃヤケだ! アルビオネでもどこでも行ってやるぜっ」


 ジルダにも苦労をかけるな。


「ラグサの夢幻にも協力をあおぐつもりだ。そのために、ビビアナにラグサに行ってもらっている」

「夢幻!? 夢幻って、夢幻の聖域のことかっ」

「そうだ。夢幻のギルマスは俺の知り合いなのだ。きっと、協力してくれるだろう」


 アダルジーザは「あっ!」と手を打った。


「オリヴィエラさまっ。前に、お義父さんの庵で、会ったよねぇ」

「そうだっ。預言士の調査でもオリヴィエラ殿に協力を要請したが、快く引き受けてくれた。今回もヴァレンツァの窮地にかけつけてくれるだろう」

「オリヴィエラさまと夢幻の人たちだったら、心強いねぇ」


 ジルダがぽかんと口を開けていた。


「話の流れが見えねぇけど、お義父さんの庵……って、アズヴェルドか!」

「そうだ。夢幻の今のギルマスであるオリヴィエラ殿は、義父の弟子だった方だ。俺も子どもの頃に面識があったから、預言士の調査を協力してくれたのだ」

「なんだよそれっ。夢幻のツテまであるとか、なんでもありじゃねぇかよ!」

「なんでもありではない。言うなれば義父の導きだ」


 口の悪い義父であったが、どうか雲の上で俺たちを見守ってくれ。


「よくわかんねぇけど、夢幻が協力してくれるんだったら、なんとかなる気がするな!」


 夢幻はレベルの高い冒険者が多数所属する巨大ギルドだ。


 難易度の高いダンジョンを攻略してきた彼らであれば、アルビオネの潜入などたやすくこなしてくれるだろう。



  * * *



 次の日の昼すぎにドラスレ村の門戸をたたく者がいた。


「ドラスレさまっ。ヴァレンツァの宮廷から、極秘指令を受けたという女たちがドラスレさまの面会を求めています!」


 極秘指令……? アルビオネ潜入に関する者か。


「グラート。極秘の指令って……」

「すぐに俺が向かう。アダルは、村の者たちが動揺しないように、見まもっていてくれ」


 服装を軽くととのえて、門番の男とともにドラスレ村の門へと向かう。


 門は固く閉じてあるが、村の者たちはかなり動揺しているようであった。


 櫓にのぼり、門の外の様子をうかがう。


 紫紺しこん色の外套を着た者たちが三名、身じろぎせずに門の外で立ちつくしていた。


 外套に括り付けられたフードを目深にかぶっている。


 落ち着き払っている様子から、近隣の田舎者や盗賊のたぐいには見えなかった。


「門を開けよ。俺が直々に応対する」

「はっ」


 ぎしぎしと鎖の音とともに重たい門が開かれる。


 訪問者たちは、開かれる門にすべり込むようなこともしない。


 死地を何度もくぐり抜けた者たちなのであろう。


「俺がサルン領主グラートだ。お前たちは何者だ」

「初めまして、ドラスレ様。有名なあなた様のことは、わたしたちもよく存じておりますよ」


 先頭の身体の細い者が旅券を提示する。


 フードをはずした素顔は、白い肌が特徴的な妙齢の女性であった。


 顔立ちはきれいだが、白い肌と対照的な漆黒の化粧が目に付く。


 黒い唇と、目元を塗りつぶす黒い化粧が妖艶な印象を与える。


 盗賊ではない。冒険者とも異なる姿にただただ困惑するばかりであった。


「サルン領主グラート。元冒険者で、同じく冒険者であったグラディオ・アズヴェルドにひろわれて、武術と冒険者の技術をたたき込まれた。しかし、アズヴェルドが病没してソロ冒険者となった」


 この女はどうして俺の過去を知っている!?


「しばらくソロで活動していたが、やがてヴァレンツァを拠点としていた勇者の館に勧誘されて、同ギルドの構成員となった。しかし、当時のギルドマスターであったウバルドと反りが合わず、やがて彼にはめられて無実の罪を着せられた」

「お前は、何者だ」

「失敬。職業柄、他者の素性を調べ上げることが日常と化しております。言わば、職業病です。それ以上の意味はないので、どうかお気を悪くされないように」


 女の黒い目元がわずかに動く。


「わたしはヴァレンツァで諜報活動を専門としております、ディベラと申します。これ以上の会話はここですべきではないでしょう。むこうの人のいないところで、くわしくお話した方がよいと存じますが、いかがでしょう?」


 この者たちは、ベルトランド殿がよこした者たちか。


「わかった。お前たちの話をうかがうことにしよう」


 ディベラと名乗った女が、また目を細めて笑った。


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