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第180話 ドラゴンスレイヤー、ドラゴンの影をたおす

 ヴァールの魂が具現化されたような、強大で禍々しい影だった。


 巨獣をしのぐ堂々たる体躯に、鋼で強化されたような手足。


 前肢の爪はするどく、ひとふりしただけで木々をなぎ倒す破壊力を秘めている。


「ドラゴンだぁ!」


 ひとりの兵が声高こわだかにさけんだ。


 前列の兵たちの悲鳴がひびいて、後列の兵たちにも動揺が走る。


「落ちつくのだっ。後方の安全を確保しつつ後退! 後ろの者を押し倒さないように注意するのだっ」


 ドラゴンの影が翼を大きくひろげる。


 宵闇の空を覆い隠してしまいそうな、巨大な翼を動かして空へと舞い上がり……俺たちを兵もろとも押しつぶすつもりか!


「グラートさま!?」


 兵たちを殺させはせん!


 ヴァールアクスを引っさげて突進する。


 重すぎる斧を両手でふり上げて、暗闇の一点を切り裂いた。


 真空波が発生してドラゴンの影に当たるが、威力が弱かったようだ。


 ドラゴンの身体を裂くことはできなかった。


 しかし、ドラゴンの影の注意を引くことはできたか。


 ドラゴンの影は首を動かして俺を捕捉する。


 影の巨体が目の前にせまり、俺は突風によって吹き飛ばされた。


「グラートさ……きゃぁっ!」


 間一髪でふみつぶされずに済んだが……すさまじい圧力だっ。


 ストラの女王が放つ突風の威力を凌駕するか。


「ビビアナ、弓兵たちに指示を出せ!」

「はっ、はい!」


 弓兵たちが果敢に矢を飛ばす。


 無数の矢が雨のようにふりそそぎ、ドラゴンの影を牽制するが、効果はうすいか。


 ドラゴンがまた黒い翼をひろげて、空へ浮遊……ではない。何をする気だ!?


 翼の表面から黒い槍が無数に伸び――先ほどの槍で貫く攻撃かっ!


「さがれ!」


 無数の槍が兵たちを攻撃する。


 勢い余った槍は地面に激突して、土煙を空高く舞い上がらせる。


 兵たちは槍に刺し貫かれ、また槍が地面に衝突した影響で吹き飛ばされる者が後を絶たなかった。


 なんと厄介な存在か!


 ヴァールの巨体と強靭さを具現化するだけでなく、槍のようなものを飛ばす遠隔攻撃までしかけてくるのか。


「兵たちをやらせはせん!」


 ドラゴンの影を斬りつける。


 重量を利用して押しつぶすことはできるが、やはりヴァールアクスで斬れない。


 ドラゴンの影が右腕をふりあげる。


 強烈な攻撃をヴァールアクスで受け止めるが、この威力もヴァールさながらだ。


「みなさんっ、グラートさまを支援してください! 今日のグラートさまは本調子じゃないんですっ」


 ビビアナがドラゴンの背後にまわって矢を放ってくれる。


 魔力をおびた矢はドラゴンの身体を貫くが、決定的なダメージはあたえられないか。


 ドラゴンが怒り、長い尻尾を地面にたたきつけた。


 重い尻尾が風圧を発生させ、ビビアナは吹き飛ばされてしまった。


 俺が、このドラゴンを止めるしかない。


 ヴァールによって武器が封じられていようとも、俺には預言士の能力が宿っているっ。


 預言士たちよ。俺に敵を倒す力をあたえよ!


 全身に秘められた力を解放し、両腕に集約させる……!


「はっ!」


 ヴァールの呪いなど、なんたるものぞ!


 鈍重なヴァールアクスで影の両腕を押しつぶし、巨大な胴体を切り捨てる。


「グラートさま……」


 両腕が悲鳴をあげているが、耐えるのだ!


 ドラゴンの影の胴を裂き、たたきつけてきた尻尾を一刀のもとに斬り裂く。


 影は一切の悲鳴を上げないが、勢いをくじくことはできたか。


 影が右の翼から黒い槍を伸ばしてきた。


 槍は矢のように高速で飛来し、俺の左腕と肩を斬りつける。


「ぐっ」


 槍の殺傷力は鋼鉄の槍をはるかにしのぐか。


 鋼鉄の槍のように固いが、鞭のようにしなやかにも変化する。なんと厄介な攻撃かっ。


「お前をここで倒す!」


 槍の攻撃をふり切ってドラゴンの影を斬りつける。


 斬れない刃でも、力で強引に押しつぶせば敵の身体を裂くことはできるっ。


 両足に爆発的な力を込めて宵闇を跳躍する。


 ドラゴンの影の頭をとらえ、ヴァールアクスをふり下ろす。


「ヴァールの幻影よ、さらば!」


 ヴァールアクスの刃がドラゴンの頭に食い込む。


 重力を得て、ドラゴンの頭をばっさりと左右に両断していく。


 首と頭を切り捨て、返した刃で首を胴から切り離し、ドラゴンの影の息の根を止めた。


「グラートさま。す、すごい……」


 ばらばらになった影はすべて地面に落ちた。


 岩が地面に落ちるような音と地響きがして、騒がしかった兵たちが静かになった。


「グラートさま。敵は倒れたのですか」

「おそらく、そうであろう。動かないのが何よりの証拠だ」


 右腕に激痛が走る!


「ぐっ」


 内側から何かが爆発するような、堪えがたい痛みだ。


 ヴァールアクスを持つのがつらくなり、俺は右手を地面についた。


「グラートさまっ、だいじょうぶですか!?」

「あ、ああ……」


 ビビアナが俺の身体をささえてくれる。


 潜在力を極限まで解放した反動なのか。左腕や足にも筋肉痛に似た痛みを感じる。


「また無茶をしてしまったようだ。しばらく休まないと回復しないかもしれない」

「そんな……」

「だが、敵は倒した。影の魔物はまだあらわれるだろうが、今日はここで一旦――」

「グ、グラートさまっ」


 話の途中でビビアナになぜか遮られた。


 彼女が青い顔で前方を指している。先ほどドラゴンの影を倒したばかりだが――。


「まだ、終わって、ないのかも……」


 ばらばらになった影が動いている!?


 四肢と首、そしてばらばらになった影の胴体が別々に動いて、地面から起き上がろうとしているだと!?


「ドラゴンの影はまだ死滅していないぞっ。皆で急ぎ殲滅するのだ!」


 全身が痛むが、休んでいるわけにはいかない。


 拗ねているように重いヴァールアクスを拾い上げて……くっ。いい加減に俺の言うことを聞け!


 ばらばらになった影たちがそれぞれ魔獣の姿を形成する。


「再生がおわる前に倒す!」


 一番手前にいた影にヴァールアクスを押しつける。


 重たい刃で魔獣の頭を押しつぶし、胴と足も続けて粉砕する――。


「ぐっ!」


 左腕と肩に激痛が走る。別の影が身体を変形させて、黒い槍を飛ばしてきたのかっ。


 槍の穂先が俺の左腕と肩を刺し貫いていた。


「みなさまっ、グラートさまに加勢してください!」


 ビビアナの指示で兵たちが喊声をあげて、影たちに突撃していく。


 ばらばらになった影たちは弱体化している。兵たちでも対処できるか。


「くそっ、強いぞ!」

「ドラスレ様にばかり頼るなっ。われらヴァレンツァの民の誇りをもって戦え!」


 槍をもった歩兵は地上で走りまわる獣をしとめていく。


 ビビアナと弓兵は、空へと逃げた鳥型の影に矢を放ち、彼らを一匹ずつ倒していった。


「グラートさま。今度こそ敵を殲滅しました!」


 すべての影たちが完全に動かなくなるまで攻防が続いて、しずかになった頃にビビアナが報告してくれた。


「うむ。見事であった」

「グラートさまが先陣を切ってくれたおかげですっ」


 あの巨大な影は強敵だった。


 潜在力を爆発させて早期に決着をつけることができたが、戦いが長期化していたら俺は敗れていたかもしれない。


「今日は兵の消耗がはげしい。ここから退避して、明日に……」


 胸や足が痛む!


「グラートさま!」


 あまりの激痛に、立っていることすらままならない。


 潜在力を無暗に使うのは危険だということか……。


「こんな状態ではもう戦えません! ここから早くはなれましょうっ」

「ああ。総員、ゾンフの外まで退避だっ」


 俺はヴァールアクスを地面に突き立てて、兵たちに声を張り上げた。


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