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第170話 ドラスレは遺跡の地下から生還できるか

 ここは、どこだ?


 うす暗い部屋……なのか?


 俺は知らない場所で横たわっていて、部屋をなぜか見上げている。


「この監獄を使えば、残滓となった死者の魂を集めることができるぞ!」


 どこかから男の声が聞こえる。


 この監獄……?


「今までだれも成し遂げられなかった死者の復活を、俺たちが成し遂げるのだ!」

「だが、死者の肉体が死滅してたら、たとえ魂を集められたとしても復活できないんじゃないか?」


 別の男の声だ。


 この部屋にはふたりいるのか。


「それなら心配ない。生きてるやつの身体を使えばいいだろう」

「生きてるやつに別の魂を憑依させるのか!?」

「そうだ。それ以外に方法はあるまい」


 このふたりは、さっきから何を言っているのだ?


 生きている者に、別の魂を憑依させる?


 レイスでも呼び出すつもりなのか?


「それは危険だっ。上の連中だって、そんな方法は許可しない!」

「こまかいことをいちいち気にするな。バカな連中なのだ。こまかい過程など、やつらはだれひとり気にしない」

「いや……だがな。生きてるやつに別の魂なんて憑依させたら、そいつの身体と魂はどうなっちまうんだ」


 おのれの研究の成果を誇示したい者と、その成果の危険性を訴えている者が口論をしているのか。


 ふたりは、なぜ俺に気がつかないのか。


「だいじょうぶだ。憑依されたとしても、本人が死滅することはない。これは、死者を生き返らせる素晴らしい手法なのだっ」

「何を言ってるんだ。お前は正気なのか? こんなもの……人の命と魂をもてあそんだ、悪魔の所業ではないか!」

「な……! きさまっ、俺の偉大な発明を悪魔だと!?」

「こんな危険きわまりない研究が悪魔でなくて、なんだと言うんだ。こんなものを世界に公開してはいけない。その道具を今すぐ破壊するんだ!」

「き、きさまっ」


 ふたりの主張が、真っ向からぶつかってしまったようだ。


「……きみはいい研究員であったが……」

「……な……にをする……」


 意識が急速に遠のいていく。


 これは、夢か。


 俺は生まれてまもなく、この光景を目にしていたのか?


 それとも、生まれ変わる前の記憶だったのか。


 わからない。初めて見た夢だ――。


 左肩がはげしく痛む。


 眠っていた意識が痛みによって強引に呼びもどされたか。


 目を開いた先に広がっているのは、暗闇だ。


 明かりがひとつもない、黒一色の世界。


 ここは、聖書で伝えられている地獄なのか?


 いや、違う。ここはプルチアの遺跡の地下だ。


 俺は、ガーディアンたちに倒されてしまったのだ。


 腕や足が冷たい。


 俺は水面を浮遊しているのか?


「この水は、地底湖か」


 ガーディアンたちに倒されて、地底湖に落ちたのか。


 それなら、ガーディアンたちが襲ってこないのも納得できる。


「ヴァールアクスは、どこだ」


 水中で右腕を旋回させる。


 身体を起こして夜目を凝らすと、向こう側に岸が見えた。


 両足が湖の底につく。ここはそんなに深くないのか。


 左肩の激痛をこらえながら湖の岸にたどり着くと、地面に落ちているヴァールアクスが発見できた。


「お前はまだ俺と命運をともにしてくれるか」


 ヴァールの魔力が込められた最強の斧。


 ヴァレンツァの郊外で死闘を演じた者が力を貸してくれるというのは、今にして思うと皮肉なものだ。


 ヴァールアクスを手に取り、回廊の先にのびる永遠の闇を見つめる。


 この道をもどれば、また警報が鳴ってガーディアンたちがあらわれるだろう。


 死力を尽くして彼らを倒したとしても、この先に地上へ続く出口はない。


「ならば、この湖の向こうに行ってみるか」


 この地底湖は自然につくられたものだ。預言士たちがつくり出したものではない。


 地底湖になっているこの場所も、元は地下の施設の一部であったはずなのだ。


 地上にもどる出口はひとつしかないのか?


 そんなことはないだろう。不測の事態を想定して、ふたつ以上の出口を用意するはずだ。


「地上には戻れる。まだ絶望するな」


 地底湖の奥へと進む。


 湖の底は固い地面だ。石だたみなのだろう。


 底は少しずつ深くなっていくが、俺の背丈を超えることはなさそうだ。


 一番深いところで、胸が浸かる程度だ。


 暗闇の向こうに岸が見えた。


「やはり、奥のフロアへとつながっていたか」


 ヴァールアクスを地面において、そっと岸へと上がる。


 ガーディアンたちはこの先でも出現するかもしれない。慎重に進まなければ。


 預言石と虹色にひかる水晶はバッグに入っているようだ。


 これらをもって帰るために、こんな危険を冒したのだ。


 なんとしても生きてエルコに還るのだ。


 このフロアも、今まで調べていた場所と差はない。


 風化した壁や地面で構成された遺跡そのものだ。


 細い回廊と小部屋がつながっているのも同じだ。


 ガーディアンに警戒しながらいくつかの小部屋を過ぎると、だだっ広い場所に到達した。


 大広間と呼べる場所なのか? 暗いから部屋の全容までうかがい知ることはできない。


 足もとの石だたみは、円形になっている?


 部屋の中央部だと思われる場所に転がっているのは、人骨だ。


「ここで、だれかが死んだのか?」


 いつの時代のものかわからない亡骸。


 頭蓋骨らしきものも転がっているようだが、お前は預言士の成れの果てなのか?


 それとも、俺のように現代になってここへ侵入した盗掘者か。


「どちらにしても、ここで命を落とした者に哀悼をささげよう」


 静かに祈りをささげ、目を開くと虹色にひかるものがあった。


「これは……ここにもお前はいるのか」


 ビビアナが先ほど見つけた、虹色の水晶だ。


「これは死者が身につけていた飾りなのか?」


 ペンダントになりそうな輝きを放っているが、飾りにしては大きすぎる気がする。


「預言士や古代人たちは、大きな飾りを身につける習慣があったのか?」


 考古学に精通したシモン殿なら、どのように考えるのだろうか。


 ここをのんびりと調査する工程は終了したのだ。


 地上へと続く階段は、この大広間にないか?


 つきあたりの壁を左に移動してみる。


 やがて大広間の出口に行きついた。


「ここは、入ってきた場所とは違う場所か」


 入口から地下へと続く階段がのびているようだ。


 俺は地上へ戻りたいのだが、少しだけ様子を見たら引きかえすことにしよう。


 階段は何度か右に曲がる構成になっている。


 大広間の真下に位置する場所が終点だった。


「この部屋には、何もないか――」


 部屋の中で何かがひかっている!?


「ガーディアンか!?」


 いや、光は赤色ではない。うっすらと紫色を帯びた光だ。


 光を発しているのは、円形の家具のようなものだ。


 家具はテーブルのような台座にくくりつけられているのか。


「これは、なんだ?」


 預言士たちが遺したものなのか? 上の階にも似たようなものがあったが。


 右手をそっとのばしてみる。


 冷たい光を右手にあてると、弱い光がかっと強くなった。


「建造物が、俺に反応したのか?」


 建造物から発せられた強烈な光が視界の全体にひろがる!


 何も見えなくなって、俺はなぜか死を覚悟した。


 光につつまれた世界はすぐに終わりをつげ、暗い世界にもどってきた。


 いや、暗闇の中ではない。


 頭上に果てしなく広がっているのは星空ではないかっ。


「地上に、もどってきたのか?」


 どうなっているのだ。


 先ほどまで遺跡の地下をさまよっていたはずなのに、どうして今は地上にいるのか。


 ここは、プルチアの遺跡のどこかのようだ。


 俺がいる場所は、地上の建物があったと思われる場所だ。


 俺の前にたたずんでいるのは、四角い台座の上に円形の飾りがくくりつけられた建造物。


 おそらく地下にあった建造物と同じものだ。


「お前が、俺を瞬間移動させたのか?」


 これは、地上と地下を行き来するための装置だったのか。


 地下に続く階段もあったが、あれはもしや非常階段だったのか?


「よくわからないが、考えても答えは出ないであろう」


 脱臼してしまった肩が高熱を発している。早くエルコへ帰らなければ。


「ビビアナたちは、無事か」


 地上の遺跡を探そうと思ったが、左肩の激痛が俺の自由をゆるさなかった。


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