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第164話 プルチア奥地の黒い魔物をたおせ

この話ではクモが登場します。

あまり気持ち悪くならないように描写していますが、苦手な方はご注意ください。

 翌日も目的地の山に向かって進んでいった。


 プルチアの勾配はかなりはげしい。


 山は果てしなく高いが、足を少しでもふみ外せば谷底へと突き落とされてしまう。


「グラート、さまっ。まだ、ですか」

「もう少しだ。耐えるのだ!」


 ビビアナは根を上げながらも、捜索隊に遅れずについてきてくれている。


 彼女の身体をささえながら、斜面に張られたロープを伝う。


「お嬢さんにまで、山登りをさせてすまないなっ。もうすぐ着くから、辛抱してくれ!」


 俺の後ろを歩くテオフィロ殿のひたいから、一筋の雫が流れ落ちていた。


「こんなに険しい道では、鉱山を仮に探し当てたとしても通えないのではないか?」

「そうだな……。もうちょっと、簡単に辿り着けると思ってたんだがなぁ」


 山頂へはまだ辿り着かないが、比較的に広い場所に到着した。


 ここは山の中腹か? 草木が鬱蒼としげる向こうに、壁のような岩肌がのぞかせている。


「グラート。当たりじゃないのか?」


 崖のあちこちに穴が開いている。


 大小さまざまな穴は地面に設置している場所にあれば、人の手が届かない場所にもあいていた。


「ここから洞窟につながっているようだな。天然の鉱山なのか?」

「先住民のだれかが、俺らの代わりに掘り進めてくれたのか!? ラッキーじゃねぇかっ」


 テオフィロ殿の言う通りだ。この穴の開き方は不自然だ。


 雨や風が長い年月をかけて開けた穴ではない。


「テオフィロ殿、気をつけるのだ。これは魔物の巣である可能性が高い」


 ヴァールアクスをしずかにとり出して、近くで大きな口をひろげている穴に進んでいく。


「グラートさま、気をつけてっ」


 岩や土に穴を開けて住むのは、ヘビか。それとも獣の類か。


「テオフィロ殿。この穴を破壊するぞ」

「お、おうっ」


 ヴァールアクスをふり上げて、地面にたたきつけた。


 鋭い音とともに衝撃が堅い岩を破壊する。


 衝撃は中にも伝わっているはずだが、思っていたほど破壊されなかった。力を弱めすぎたか。


「どう、ですか――」


 あたりに散乱している岩の破片が、不自然に動き出した。


「くるぞ!」


 黒い影が俺に飛び込んできた。


「ちっ」


 すばやい突進をかわし切ることができない。


 すぐに身をひるがえしたが、胸を殴打してしまった。


「グラートさま!」

「何が、出てきたんだ?」


 俺の前にいる黒い物体は、球のような身体に細い脚を何本も伸ばしている。


 影のように黒い身体は、よく見ると細い体毛でおおわれている。


「あれって、もしかして……」


 こちらを向いているであろう魔物の顔と思わしき場所に、茶色くにごった牙が数本、上下に生えている。


 八本の脚を器用に動かして、俺に狙いをさだめていた。


「きゃあ!」

「ク、クモだぁ!」


 テオフィロ殿たちが一斉に逃げ出す。


 彼らに反して、クモの魔物たちは巣穴からどんどん姿をあらわしてきた。


「ここは、お前たちの巣だったのか。すまないが、ここを検めさせていただこう」


 クモの魔物たちが小さな口をひろげて、襲いかかってきた。


 彼らと距離をとって、攻撃を受けないようにしながら反撃を試みる。


「地中に巣をつくるお前たちは、糸を吐かない者たちだな。糸で足をとられることはないが、噛みつかれたら猛毒を仕込まれてしまうな」


 突進してくるクモたちにヴァールアクスを一閃する。


 クモたちのやわらかい身体は、刃にふれただけで上下に分断された。


「おおーい、グラート、だいじょうぶかぁ」


 テオフィロ殿やビビアナは、遠くの木の影に隠れていた。


「心配ない。数は多いが、冷静に対処すればやられることはない」

「いや……そんな気持ち悪いやつらとよく戦えるな、お前は……」


 グロテスクな見た目であることは否めないが、脅威の度合いは他の魔物たちと同じだ。


 しかし、さすがに数が多いか。


 十匹以上のクモを相手にするのであれば、ビビアナの支援が必要だ。


「ビビアナ、弓で支援するのだっ」

「い、いやです!」


 な……んだとっ。


「あんな、気持ち悪……ひいっ!」


 敵の見た目でビビアナが戦闘不能に陥ることを失念していたか。


 クモの数は多いが、ゆっくりと時間をかければ撃破することはできる。


「お前たちに私怨はないが、ヴァレダ・アレシアの礎となってもらおう!」


 ヴァールアクスを容赦なく打ちつけて、クモの身体を押しつぶした。


「グ、グラート。だいたい、やったの、か……」


 木陰からおそるおそる出てきたテオフィロ殿たちが、そろって絶句していた。


 崖のまんなかにある大きな巣穴が、巨大な影でふさがっていた。


「いやぁ!」


 クモの大将のお出ましか。


 彼は紅い双眸をひからせて、俺をにらみつけていた。


「お前がここの主だな。俺はサルン領主のグラートだ。お前に私怨はないが、倒させていただこう」


 クモの親玉が巣穴から飛び出した!


「グラート!」


 クモの親玉は巨体で俺を押しつぶそうとしたが、ぎりぎりのタイミングでよけることができた。


 クモの親玉が矢継ぎ早に攻撃を繰り出してくる。


 長い脚を伸ばし、また鋭利な歯を向けて俺を引き裂こうとしていた。


「すさまじい攻撃だ。並の人間であれば、お前の餌食になってしまうだろうっ」


 やはり、プルチアの魔物は凶悪だ。そして巨大だ。


 巨大な魔物と戦っていると、カミツキガメのガレオスが思い起こされた。


「だが、俺は強大な力を祖先より受け継いだ者。お前にやられたりしない!」


 敵の攻撃の合間を縫ってヴァールアクスを斬り払う。


 分厚い刃が高速で旋回し、クモの脚を分断した。


「やった!」

「いや、まだだっ」


 クモは残りの脚で巨体をささえている。


 俺に向けられた殺意はおとろえていなかった。


 クモが突然、地面にうずくまった。


「な、なんだ!?」


 クモは脚をたたみ、全身から液体を放出しはじめた。


「もういやぁ!」

「お嬢さんは向こうに行ってろ!」


 あの体液は、なんだ?


 透明な液体は地面にひろがり、大きな水たまりを形成している。


 クモが身体を起こして、俺にまた突撃してきた。


「直線的な攻撃だけなら、見切るのは簡単だ」


 足を引いてかわすが、クモの巨体が俺の腕と肩をかすった。


 腕に付着したクモの体液は、粘り気があるのか……?


 クモが地面にまたうずくまって、体液を放出しはじめた。


 後退した左足が、先ほどクモが放出した体液の水たまりをふんだ。


 体液がのりのようにくっついて足の自由を奪った。


「くっ。移動力を下げるデバフの効果があるのかっ」


 クモが大きな口を開けて襲いかかってきた。


「グラート!」


 クモの巨体が俺を吹き飛ばす――。


 予期しない攻撃で受け身をとることができず、背後の崖に背中を打ちつけてしまった。


「グ、グラートさま!」


 クモが猛毒のよだれを垂らしながら近づいてくる。


 斧で反撃しようと思ったが……斧を手放してしまった。


 クモに押しつぶされる寸前で、俺は屈むようにしてかわした。


 クモが崖に激突し、堅い壁を粉々にする。


「く、くそ、みんなでグラートに加勢だっ」


 こんなところで、やられるか!


 俺は右のこぶしに力を込めて、クモを思い切り殴った。


「グ、グラ――」


 クモは巨体を回転させて、石のように飛んでいった。


 このタイミングで倒す!


 俺は即座に起き上がって、地面に落ちているヴァールアクスをひろった。


 クモのネバネバした体液が邪魔をするが……こんなもの、強引に引き離してくれるっ。


「グラ――」


 ヴァールアクスをふり上げて、仰向けに倒れるクモに斬りかかった。


「クモの魔物よ、さらば!」


 ヴァールアクスの重い刃がクモの胸と腹を両断する。


 黒い身体は右と左に分かれて、透明な液体を空へと放出した。


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