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第162話 プルチアで預言石の捜索、テオフィロの提案

 エルコのまんなかには役人の宿舎があったはずだが、立派な役所へと建て替えられていた。


 三階建ての役所は鉄筋で補強された、とても頑丈なつくりになっているようだ。


「この役所はつくられたばっかりでな。部屋も廊下もまだきれいなんだ」


 テオフィロ殿に案内されて、エルコの役所へと足をふみ入れる。


 一階のロビーは装飾がほとんどないが、受付のカウンターや応対用の客室が完備されていた。


「新築のにおいがまだ残っているようだな。いい役所ではないか」

「ヴァレンツァの宮殿と比べたら、だいぶ簡素だがな」

「宮殿は陛下がおわす場所だ。比べてはいけないさ。ドラスレ村にも、ここのような役所がほしいものだな」

「ドラスレ村って、なんだ? お前が住む村の名前か? そのまんまじゃないかっ」


 テオフィロ殿が無邪気に笑う。


「ジルダにそそのかされて、村の者たちが名付けてしまったのだ。今さら、変えてくれとは言えない」

「ああ、ジルダが……。あいつが悪ノリで考えそうな名前だな」

「ジルダのノリのいいところが美点であり、同時に欠点でもあるな。ジルダも俺の臣下になって、村で元気に暮らしている。あいつもここへ連れてくればよかったな」


 テオフィロ殿の後に従い、役所の階段を上がる。


 三階へ行き、ちりひとつない回廊を奥へと歩いていくと、テオフィロ殿の作業部屋があるようだ。


「ジルダがいれば、村もにぎやかになるだろう。達者で暮らしてるのがわかれば、それでいい」

「エルコから移ってきた流人たちも、村の経営を手伝ってくれている。彼らの力なくして村の繁栄は成しとげられないだろう」

「ここにいた流人たちは皆、まじめだったからな。俺も引き留めたかったが、大した罪を犯していない彼らを不当に押し止めるのは、気が引けるからな」


 プルチアの流人たちの恩赦が陛下から出されて、テオフィロ殿はすぐに流人たちを解放した。


 姑息な方法をもちいて流人たちを利用することもできたのであろうが、それをしなかったから今のテオフィロ殿があるのだろう。


「彼らを解放したのは、あなただろう。皆、あなたに感謝していたぞ」

「はは、やめてくれ。褒められるようなことは、何もしていない」


 テオフィロ殿の作業部屋は、接客用のテーブルと作業用の机が置かれただけの、非常に簡素な構成だった。


 机のそばにはふたつの本棚があり、何かの書物が並べられていた。


「そこに適当にかけてくれ。茶をすぐにはこばせる」


 言いながら、テオフィロ殿が作業用の机から椅子を引き出した。


 とまどうビビアナを座るように指示して、俺も彼女のとなりに腰かける。


「さて。むかしを懐かしんでる場合じゃないな。お前は、何かの調査をしにここへ来たのだろう?」

「ああ。預言石と預言士について、調査をするように宮廷から依頼されたのだ」

「預言石……?」


 預言石と預言士について、テオフィロ殿に大まかに説明した。


 かつて、俺が探した金鉱に預言石があったことを伝えると、テオフィロ殿は目をまるくした。


「あの金鉱に、そんなやばいものがあったのか!? あそこには何カ月も前から労働者を派遣してるが、そんな石を発見したという報告は一度も受けていないぞ」

「そうか。俺がアダルやジルダとあの金鉱に入ったときに、たしかに預言石が道を阻んだのだがな。あのときに遭遇したひとつの預言石しかなかったか」


 プルチアの金鉱や他の鉱山に手がかりがあると思ったが、俺の見込み違いであったのか。


 テオフィロ殿の配下の者が部屋の扉を開ける。


 トレイに茶とドライフルーツを乗せてくれたようだ。


「よくわからんが、その預言石とやらを、お前はどうしても探し当てなければならないのか?」

「どうしてもというほどではないが、預言石や預言士の秘密を陛下や宮廷の官吏たちが知りたがっているのだ」

「むむう、そうか。王命であれば、従わなければならんか」


 プルチアで預言石の手がかりがつかめなくても、陛下からお叱りを受けることはないだろう。


 しかし、どうにかして調査を進めることはできないか。


「あの、グラートさま。預言石があった場所をわたしたちで調べてはいけないんですか」


 ビビアナが俺の顔色をうかがうように言った。


「プルチアの金鉱に、俺ときみで行くのか?」

「はい。せっかくここまで来たんですから、そちらまで行ってみてもいいと思うんですけど」

「悪いがお嬢さん。それは無意味ってもんだ」


 テオフィロ殿が肩をすくませる。


「あの金鉱は、俺たちが何カ月もかけて掘り進めている。それでも王国をさわがせるような石は発掘されてないんだ。あんたとグラートが行ったからって、預言石っつうものが都合よく出てくるわけじゃないぜ」

「そうなのかもしれませんけど、せっかくここまで来たんですから、何かしたいです」

「あんたの気持ちはわからんでもないがな。しかし、こちらにとってもあの金鉱は大事な資源なんだ。外から来たやつをおいそれと入れてやることはできん」


 テオフィロ殿の言う通りだ。


 プルチアは今や宮廷の財源をささえる貴重な採掘場にかぞえられている。


 テオフィロ殿や労働者たちを邪魔したら、それこそ陛下からお叱りを受けてしまう。


「そうですか……」

「すまないが、こちらも王命なんでな。金を採掘してるやつらの気をまぎらわせたくないんだ」

「は、はい」


 あの金鉱を調べても成果はないか。


 エルコの北西にある、むかしから採掘されているあの採石場を調べても、やはり預言石の手がかりは得られないだろう。


 どうするか……。


「あの金鉱には意味もなく入れさせられないが、それ以外の金鉱だったら、お前たちにも調査させられるか」


 なんだとっ。


「なぁ、グラート。これは提案なんだが、むかしみたいにまた鉱山を探してみないか?」

「あたらしい鉱山を探して、そこを調査しろというのか?」

「そういうことだ。お前が前に探したあの金鉱は、調べてもきっと何も得られない。だが、他の金鉱……銀や銅が掘れる場所でもいいんだろうが、他の鉱山を見つけられれば、そこであたらしい手がかりが得られるかもしれないぞ」


 テオフィロ殿は、なかなか鋭いことを言う。


「俺たちがあたらしい鉱山で手がかりが得られなくても、あなたたちや陛下にとって利があるということか」

「そういうことだ! お前はやはり話がわかるやつだなっ」


 テオフィロ殿が机にヒジを立てて、にやりと笑った。


「そんなにかまえなくていい。俺はお前たちを一方的に利用する気はないし、あたらしい鉱山が見つからなくても問題はないんだ。だが、ひとつの金鉱をめぐって言い争ってるより、よほど建設的だろう?」

「そうだな。俺たちとて、手ぶらでヴァレンツァには帰れん。だが、あなたたちの役に立てるのであれば、それなりに面子は保てる」

「なら、決まりだなっ」


 テオフィロ殿が立ち上がった。


 本棚から何かの書物をとり出して、俺の向かいの椅子に腰かけた。


 テオフィロ殿が手にもっていたのは、プルチアの地図か。


「エルコの周辺はあれから捜索しているが、預言石というものは見つかっていない。だが、プルチアの奥地はほとんど手つかずだ。凶悪な魔物がすぐに出没するんでな。俺たちじゃ手に負えないんだ」


 テオフィロ殿が指したのは、プルチアの中央部から西側だ。


 エルコはプルチアの東端にある。金鉱はエルコから南西に行った場所にあったのか。


「グランドホーンやニョルンを俺の斧で倒せということだな。了解した!」

「くく。期待してるぜ、相棒っ」


 テオフィロ殿が手を伸ばして、俺の肩をたたいた。


「あの、わたしたちはこれから、何をするんですか」


 ビビアナは会話についていけていないか。


「グラート。このお嬢さんは、お前の助手だと思っていいんだな?」

「ああ。助手ではないが、役に立ってくれるぞ」

「くく、そうか。よろしくな、お嬢さん」

「は、はぁ」


 プルチアに来て、また鉱山を捜索することになるとはな。


「あなたはグラートについていくだけでいい。ちょっと危険がともなうがな」

「そ、そうなんですかっ」

「ちょっとでかい魔物が出没するだけだ。大半はグラートが倒してくれる。なぁ、グラート!」

「そうだな。まかせておけ」


 テオフィロ殿が立ち上がって、「がはは」と大きな声で笑った。


 ビビアナは青い顔で、テオフィロ殿を見上げていた。


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