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第161話 テオフィロやエルコの人々と再会

 ヴァールが、復活する。


 そのようなことが本当に実現するのか?


 あり得ない。死者が復活するなど、今まで聞いたことがない。


 魔物たちの世界では、死者を復活させる方法が普遍的に出回っているとでもいうのか?


「ドラスレさま」


 ビビアナの顔は砂で少し汚れていた。


 心配そうに俺をうかがっている。


「ビビアナ。ごくろうだった。よい弓さばきであった」

「あっ、はい。ありがとうございます」


 今さら確認することではないが、この子は弓がもっとも適している。


「きみの弓はとても有用だ。牽制、支援、どの手段でも通用する」

「そんなことは、ないですよっ」

「謙遜しなくていい。弓はシルヴィオやジルダでは使いこなせない。無論、俺もだ。アゴスティにもどっても、きみの弓の技術は貴重なものとなるだろう」


 ビビアナは褒められることに慣れていないのか、恥ずかしそうに顔を紅潮させるだけだった。


「そ、そんなことよりっ、ドラスレさまのおけがは平気なんですかっ」

「俺のことなら心配ない。やつらの攻撃が腕や胸をかすっただけだ」


 傷口から痛みがわずかに感じるが、行動不能に陥るほどではない。


「あ、待ってください。わたしが治療しますっ」


 なんだとっ。


 ビビアナが弓矢を背中にかけて、俺の腕をとった。


 腕に傷があることを確認して、手をそっと当ててくれた。


 淡い光が俺の腕をつつむ。


 アダルジーザが回復魔法をかけてくれているように、優しい力が俺の腕を癒してくれる。


「回復魔法など、いつの間に習得したのだ。俺は教えていないはずだが」

「はいっ。その、アダルさまから教えていただきましたっ」


 俺の知らないところでアダルジーザが気をまわしてくれたのか。


「魔法は得意ではないので、アダルさまみたいに上手ではないですが」


 腕の傷は、痛みが感じられないほどに塞がっていた。


 腕を何度か動かしてみて……うむ。まったく問題ない。


「大したものだ。俺の知らないところで努力していたのだな」

「はい……その、支援を中心にするのであれば、いろんなことができた方がいいと、アダルさまやジルダさまから言われましたので」


 この子をサルンで引き取ったのは、よい選択だったようだな。


「それにしても、また魔物の襲撃に出くわしてしまうなんて」

「そうだな。この者たちもアルビオネからの侵入者であった。近いうちにきっとヴァレンツァは攻撃されてしまうだろう」

「そんな! そうなってしまったら、また戦争になってしまうんじゃないですかっ」

「そうだ。アゴスティやフォルキアの戦いも凄まじかったが、今度のアルビオネの侵攻はあの戦いを凌駕するかもしれない」


 それでも、妙だと思う。


 今までのアルビオネでは考えられない、静かな侵攻だ。


「だが、こたびのアルビオネの動きは妙だ。今までなら、彼らは力をたよりにカタリアやサルンの関所を攻撃していた」

「はい。あの、カタリアというのは……どこでしたっけ」

「カタリアはヴァレダ・アレシアとアルビオネの境を守る関所だ。アルビオネは強大な軍事力を擁しているから、ヒルデブランドのように策謀を用いなくていいのだ。

 しかし、こたびのアルビオネの動きは慎重だ。まるで、ヒルデブランドが裏で糸を引いているかのような――」


 ヒルデブランドがアルビオネの裏で暗躍しているのか?


 いや、それは考えすぎだ。彼はアルビオネと関係をもたない。


「ヒルデブランドという人は、前の戦いを引き起こした人ですよね」

「そうだ」

「そんな……また、そんな人が」

「いや、それはない。あの男は魔族とは無関係だ」


 そのようなことは承知の上だが、嘲笑する彼の姿がなぜかよぎってしまう。


「それでも、敵の動きがいつもと違うということなんですよね」

「そうだな。アルビオネと長らく戦ってきた俺でも、今のやつらの思惑は理解しかねる。本当にヴァールを復活させるつもりなのか?」

「よくわかりませんけど、復活なんてできませんって。きっと、グラートさまを脅かしたかっただけなんですよ」


 そうだとよいのだが。


 ヴァールが復活したら、俺はまた彼を倒せるのか?


 プルチアへと向かう道の空に暗雲が集まりはじめていた。



  * * *



 ヴァレンツァとプルチアをはばむ高い山を越えて、俺は馬をはしらせた。


 ラグサを発って七回目の陽がのぼったときに、プルチアの街と思わしき場所が彼方に見えた。


「ビビアナ、あそこだ」

「やっと、着いたんですかっ」

「ああ。エルコの街だ」


 プルチアの南東にたたずむ街、エルコ。


 俺が無実の罪で流されて、行きついた場所だ。


 エルコは門すら整備されていない、貧村と同じような街であったはずだ。


 しかし、道の終端を立派な門が飾っていた。


「プルチアが国土へと編入されて、エルコに一般市民が入れるようになったと都の官吏たちから聞いた。俺が去ってから、ずいぶんと様変わりしたのか」

「とりあえず、行ってみましょう!」


 ドラスレ村よりも立派な門を、見張りの男たちが守っている。


 近づくと、談笑していた彼らの顔に緊張がつたわった。


「待て。どこから来た者だ。旅券を改めさせていただこう」

「俺はサルン領主のグラートだ。都ヴァレンツァから指令を受けて、この地へ訪問しに来たのだ」


 ベルトランド殿からいただいている旅券を、門番の男にわたす。


 別の男が、「あっ!」と声を上げた。


「あなたさまはもしやっ、ドラスレさまではないですかっ」


 他の門番たちの顔色も瞬時に変わった。


「わたしですっ。おぼえていませんか。前にここで、ドラスレさまといっしょに魔物退治をした――」


 彼の精悍な顔立ちには見おぼえがある。


 アゴからヒゲを生やし、風貌はあれから少し変わっているが、インプや魔物の退治に従事してくれた兵に間違いなかった。


「もちろん、おぼえているぞ。ひさしぶりだ!」

「ああっ! おなつかしゅうございますっ」

「お前は俺が去ってからも、この地を守ってくれているようだな。都におわす陛下も喜んでおられるぞ」


 俺の身元を明かす必要はないようだな。


「ドラスレさまのことは、テオフィロ様からうかがっています。ささ、中へ」


 なつかしい男たちに案内されて、エルコの土をふむ。


 このゆったりとした空気。都よりわずかにやわらかい土。火と鉄の独特な臭い。


 俺は、この街に帰ってきたのだな。


「グラート!」


 あの声は!


 村の中央にある宿舎へと向かう道で、またなつかしい声を聞いた。


 北西の採石場がある場所から、テオフィロ殿と思わしき男性が部下を引き連れていた。


「テオフィロ殿かっ」

「よく来たな、グラート」


 テオフィロ殿もヒゲを生やし、長い髪を後ろの一点でくくっていた。


 採石場で作業をしていたのか、浅黒い胸に一枚のシャツしか着ていない。


 上着は腰に巻き、パンツや靴も泥で汚れていた。


 テオフィロ殿と固い握手を交わす。


 彼の手は、以前よりも力強くなった。


「グラート……いや、これからはサルン領主グラート様、とお呼びしなければいけませんか」

「よしてくれ。あなたから、そのように硬い言葉で呼ばれたくない」

「ははっ。ためしに言ってみただけだ!」


 テオフィロ殿がにやりと口もとをゆるめる。


「お前の活躍はこんな場所にも届いてるぞ。都でも大活躍のようだなっ」

「ありがとう。テオフィロ殿の活躍も聞いているぞ。金鉱がまた見つかって、都でも注目されているそうではないか。ネグリ殿も目を丸くしていたぞ」

「そうだろうっ。ネグリさんも、今じゃ俺にゃ頭が上がらねーよ!」


 テオフィロ殿が大きな口を開いて笑った。


「なんつってな。ここがこんなに発展したのは、お前ががんばってくれたからだ。邪魔だったインプどもを倒して、都の官吏たちが目の色を変えちまうような金脈まで発見しちまった!

 俺は、お前が築き上げた功績をひろげているだけにすぎない。こんなさびれた街を発展させるきっかけをつくったのは、お前だ。グラート」

「よすのだ。俺に街を発展させる功績も才能もない。エルコを発展させたのは、まぎれもなくテオフィロ殿の手腕と努力の成果が実ったからだ。あなたの功績は、もっと評価されていいものだ」


 サルンとプルチアを比較すれば、どちらが優れているか明らかとなるだろう。


「ふ。お前のお人よしは、相変わらずだなっ」


 俺はまた右手を出して、改めてテオフィロ殿と握手した。


プルチアに到着するのが遅れてしまいました。

この話からしばらくプルチアでの活動がメインになりますので、第1話〜20話くらいまでを読み返すと楽しいかもしれません。(*´-`)

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