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第159話 ラグサで築かれる新たなる力のつながり

「いいだろう」


 オリヴィエラ殿がやがて精悍な顔を上げて、言下にこたえてくれた。


「本当ですか!」


 俺のとなりにいたビビアナが反射的に身を乗り出したが、がたっと椅子の音がひびいてすぐ席に戻った。


「も、申し訳ありません!」

「ふふ。きみもグラートの臣下なのかな? まだ、かなり若いようだが」


 オリヴィエラ殿が娘を見るように微笑む。


「はいっ。あの……わたしは、アゴスティから来まして、グラートさまの下で修行中でございます」

「そうか。グラートも弟子をとれるほど成長したのだな」


 オリヴィエラ殿は俺よりかなり年上だ。


 子ども扱いされてしまうのは致し方ないか。


「わたしもまだ若輩者ですが、アゴスティのスカルピオ殿から彼女の世話をたのまれたのです。わたしにとっても、よい経験になっていると信じています」

「弟子やギルメンの面倒を見るのは大変だ。わたしも力不足ながら巨大ギルドを率いているから、毎日が勉強だ。

 お前のように優れた冒険者……おっと、すまない。今はもう騎士であったな。お前も後進の育成にいそしむべきだろう」

「はい。この辺りのノウハウも、オリヴィエラ殿から伝授していただきたいものです」

「冗談を言うな。わたしがお前に教えられることなど、ひとつもないっ」


 オリヴィエラ殿はかぶりをふったが、きっと優れたノウハウをお持ちだろう。


「話をもどそう。われわれ夢幻は、どの遺跡を調査すればよいのだ?」

「預言士が残した超文明時代の遺跡です。ヴァレダ・アレシアの各地に点在していると思われるので、遺跡を探してほしいのです」

「遺跡自体の捜索をすればよいのだな。預言士というものは聞いたことがないが、古代人か何かなのか?」

「はい。預言士は、この地でかつて文明を築いた存在だと言われています。彼らが残したものには、現代人の知恵をはるかに超える力が込められています。わたしたちは、その力や技術を追っているのです」


 俺の口から、このように壮大な言葉が出てくるとは。


「それは、途方もなく遠大な希望だな」

「ええ。おそろしく時間がかかる調査です。調査したとしても、求めているものが得られるかどうかもわかりません。

 ですが、いつかは始めなければならなかった調査なのです。そのために、どうしても人手がいるのです」


 ヒルデブランドやヴァレダ・アレシア東部の反乱が影響しているとは、とても言えない。


 しかし、オリヴィエラ殿は納得していただけたようだ。


「了解した。遺跡や古いものが好きな者がギルドにいる。彼らに調査を一任させよう」

「わたしたちの希望をお聞きくださって、ありがとうございます」

「ふふ。陛下が直々に下された依頼を断ることなど、できないだろう。わたしたちにとっても、アズヴェルド様が遺されたギルドを大きくする、またとない機会だ。ぜひ利用させていただこう」


 オリヴィエラ殿はなかなかやり手のようだ。


 この方にまかせておけば、ギルドはさらに発展していくことだろう!


「もちろん、かまいません。こちらとしても、ラグサ随一のギルドと縁ができるのはとても喜ばしいことです」

「わたしたちのようなギルドは、ヴァレンツァにも腐るほど存在していると思うがな」


 オリヴィエラ殿がうすく笑った。


「この調査は、いつまでに完遂させればよいのだ? われわれも人員を確保する必要があるため、数日で完遂させろと言われたら困るのだが」


 預言士と超文明の調査は、十年をかけても終わらないだろう。


 だが、ある程度のタイミングで期限を設けておくべきか。


「ひとまず三ヶ月を目途に調査をお願いします。宮廷にはわたしから伝えておきます」

「三ヶ月単位で宮廷に報告すればよいのだな。了解した」

「パライアの南に預言士の遺跡があるのですが、あそこは危険です。近づかないようにしてください。また、わたしたちはこれから北西のプルチアに向かいます。何かあれば、ヴァレンツァに連絡を入れてください」

「パライアの南にある遺跡だな。了解した」


 オリヴィエラ殿はとても優秀な方だ。少し話しただけで、俺の意図をかなり汲んでくれる。


「預言士と超文明時代の遺跡について、心当たりはありますか」

「心当たりか……ぱっと思いつくのは古代樹の庭園くらいか。あそこもかなり古い遺跡だと思うが、あれは預言士の遺跡ではないのか?」

「それは調べてみないとわかりません。わたしも遺跡や考古学については疎いので。別の時代につくられた施設である可能性が捨てきれません」

「そうだな。遺跡を発見しただけでは完遂できないのが悩ましいな」


 オリヴィエラ殿の言う通りだ。この調査は根気との戦いになるのかもしれない。


「お前たちが向かうプルチアというのは、どこにあるのだ?」

「プルチアはヴァレダ・アレシアの北西部にあります。プルチアはかつて罪人が送り込まれた国外の流刑地でしたが、現在は国土として管理されています」

「そのような辺境にも、預言士の遺跡というのはあるのか」

「調べてみなければわかりませんが、宮廷の有識者によると、ヴァレダ・アレシアやアルビオネが治めている一帯は、超文明時代に栄えていた帝国の支配下にあったようなのです」

「ほう、そうだったのか」


 オリヴィエラ殿も預言士と超文明に興味をもたれたか。


「プルチアに超文明時代の遺跡があるかわかりません。ですが、預言士の遺物と思われる物質が鉱山の奥深くに存在していたことは確認しています。プルチアにも、超文明時代の遺跡が存在しているはずです」

「そうだな。それを調べるのは大変だろうが、調べてみる価値はあるだろう」

「はい。この作業の要請は宮廷にも知らせておきます。契約や金銭的なやり取りは、ヴァレンツァの宮廷に確認してください」

「了解した。よろしくたのむ」


 オリヴィエラ殿とあらためて握手を交わした。



  * * *



「凛とされた、とてもかっこいい方でしたね」


 オリヴィエラ殿と別れて、ラグサの中央公園のベンチに腰を落ちつかせた頃にビビアナが言った。


「そうだな。オリヴィエラ殿はとても優秀な方だ。俺たちの良きパートナーになるだろう」

「はぁ、パートナーですか。なんだか、話がどんどん進んでいって、目まぐるしく感じます」


 ビビアナはこれまで、従騎士として騎士の修練や雑務に追われる毎日だったのだろう。


 街に降りて、冒険者ギルドと接触するのは初めてであるから、刺激がかなり強かっただろうな。


「俺たち騎士は城や宮殿の中からでしか街や平民を見られないが、街ではあのようなやり取りが毎日交わされている。街に降りることがどれだけ大切なことか、身に染みただろう」

「そうですねぇ。あんなふうに、民間の方に作業の依頼をしているところを見たのは初めてです。アゴスティでも、あんなふうに依頼しているんでしょうか」

「おそらく、そうであろう。スカルピオ殿の配下の者たちが実作業にあたっていることだろう。きみもいずれ、俺と同じように立ちまわる日が来る。今のうちに、どんなものでも吸収しておくのだ」

「はいっ。わかりました」


 この子がどのような騎士になって領土を治めるのか。興味がわいてきたな。


「これからすぐに、プルチアに向かうんですか?」

「そうだな。それでもいいが、何日かここに滞在してもいいだろう。一日二日急いだところで、預言士の正体に近づけるわけでもない」

「あっ、それなら、さっきの花屋さんに行ってもいいですか。もう一回、あのお花を見てみたいんです」


 ビビアナは花が好きなのか。女性らしいな。


「もちろん、かまわないぞ。しかし、ここは商人が絶対的な力をもつ街だ。善良な商人がいれば、あこぎな商売をする者もいる。買い物はあまりしないように、気をつけるのだ」

「はい。わかりましたっ」


 ビビアナがベンチから飛びはねるように立ち上がって、露店がならぶメインストリートへと駆けていった。


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