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第158話 助力を求め、夢幻の聖域のオリヴィエラと面会

 後日、シモン殿にいとまを告げて、俺はヴァレンツァを発った。


 早朝に馬にまたがって、ヴァレンツァの南門を通過する。


「グラートさま。わたしたちはプルチアという場所に向かってるんですか」

「いや。先にラグサへ寄ろうと思っている」


 ラグサはヴァレンツァの南に位置する大都市だ。


 そして、ヴァレダ・アレシア随一のギルドである夢幻の聖域の拠点だ。


「ラグ、サ?」

「きみはラグサを知らないか。ラグサはヴァレンツァに次ぐ大都市だ。そこに、俺の知り合いがいる」


 夢幻の聖域のギルマスであるオリヴィエラ殿ならば、便宜をはかってくれるかもしれない。


「そんな方が、グラートさまにはいるんですねぇ」

「ラグサを拠点にしている『夢幻の聖域』というギルドがあるのだが、そのギルドは俺の義父が創設したギルドだったのだ。

 俺の義父はすでに亡くなり、ギルドは弟子だった方が受け継いでいるのだが、その方と面会したいのだ」

「グラートさまは、そんなことまで考えてらっしゃったんですねぇ。すごいです」


 ビビアナが手綱をにぎりながら、のんびりと言う。


「やはり、俺ときみだけでは人手が足りないからな。サルンでもヴァレンツァの関係者でもない方で人手を補えそうな者たちといえば、ラグサの夢幻しか思いあたらなかった」

「そうなんですね。ですけど、その夢幻の人たちは、わたしたちに手を貸してくれるのでしょうか」

「それは、わからない。交渉次第だと思うが、あちらも都合がある手前、断られる前提で相談した方がよいだろう」

「そうですねぇ」


 オリヴィエラ殿に断られてしまったら、預言士と遺跡の捜索は長期化してしまうだろう。


 期間が明確にさだめられているわけではないが、早期にこたえを知りたいという気持ちがどこかにある。



  * * *



 ラグサは今日も、多くの露店や行商、そして冒険者たちでにぎわっているようだ。


 堅牢な北門を越えた先で、大小ことなる露店がメインストリートで軒をつらねている。


「わぁっ! ここがラグサなんですねぇ」


 ビビアナがにぎやかな露店をながめて、目を輝かせた。


「ラグサはヴァレダ・アレシア中央の交通を支える要衝として栄えた街だ。ヴァレダ・アレシアのほとんどの物資がここを経由するのだ」

「そうなんですねぇ……あっ、あそこでお花が売ってる!」


 ビビアナが花屋の前で足を止めた。


「かわいい……」

「良い花だが、買い物は後だ。宮廷の用件を済ませるのが先だ」

「は、はいっ」


 白や赤、紫などの色とりどりの花が道を彩っている。


 俺も花をアダルジーザに買っていくか。


 だが、これからプルチアに行って預言士と遺跡の調査をするのだ。


 サルンに帰るのは、いつになるかわからない。


 それなら、日持ちするアクセサリの方がよいか。


 うまやに馬をあずけて、夢幻の聖域のギルドハウスを探す。


 露店やまだ開店前の酒場で聞き込みをすると、ギルドハウスの場所はすぐに判明した。


 街の中央公園に隣接する高級住宅地にほど近い場所に、夢幻の聖域の本部はあった。


「ここだな」

「はいっ」


 五階建ての施設が、ずらりと並んでいる。


 白いレンガがきれいな建物のすべてが、夢幻の聖域の所有物なのか。


 黒く重い扉を押し開ける。


 一階のロビーはホテルのような佇まいだ。


 白いタイルに赤いじゅうたんが敷かれ、ヴァレンツァの宮殿のような荘厳さを感じさせる。


 絹のような白い服を着た女性が、カウンターの席に着いていた。


「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか」

「急に押しかけてすまない。俺はサルン領主のグラートと言う。ギルドマスターのオリヴィエラ殿との面会をもとめたいのだ」


 この女性は冒険者であろうが、白い化粧をしていると宮殿の召使いに見えてくる。


「領主……あの、もしかして騎士様でしょうか」

「そうだ。ジェレミア国王陛下から騎士の叙任を受け、ひとつの領土を統治している。だが、身分を利用してあなた方を脅すつもりはない。

 急な訪問であるのだから、今日中にオリヴィエラ殿と面会するのは難しいだろうと思っている」


 落ち着き払っていた女性の態度が、みるみる余裕のないものへと変化していった。


「グラートが会いに来たと言えば、オリヴィエラ殿に伝わるだろう。面会の調整をしていただけるか?」

「は、はいっ。ただちに確認いたしますっ」


 女性の指示に従って、近くのソファに腰を下ろした。


 ビビアナもとなりに座って、俺をまじまじと見上げていた。


「グラートさまって、やっぱりすごいですねぇ。こんなに顔が利いてしまうなんて」

「下位の騎士でも、平民より身分は上だからな。スカルピオ殿だって同じことはできるさ」


 ビビアナと会話しながら待っていると、受付の女性が駆け足で戻ってきた。


「グ、グラートさま。オリヴィエラはこちらに戻っております。すぐにお会いしたいとのことです」

「なにっ。それはとても助かる!」

「すぐに、オリヴィエラをお呼びいたしますっ」


 今日オリヴィエラ殿と会うのは難しいだろうと思っていたが、タイミングがよかったのか。


 またしばらくロビーで待っていると、オリヴィエラ殿が階段から降りてきた。


 紅い髪を今日は後ろでくくっているようだ。


 日に焼けた精悍な顔立ちは、屈強な冒険者である証か。


「グラート! よく来てくれたっ」

「オリヴィエラ殿。おひさしぶりです」


 立ち上がってオリヴィエラ殿と握手を交わす。


 指は細いが、力づよさを感じさせる手だ。


「困ったことがあれば訪ねてくれと、アズヴェルド様の庵で会ったときに言ったが、本当に来てくれたんだな」

「はい。オリヴィエラ殿の力添えをお願いしたく、ヴァレンツァから参りました」

「ヴァレンツァから、か」


 オリヴィエラ殿の右の眉が、ぴくりと動いた。


「どうやら込み入った話になりそうだ。場所を変えよう」


 オリヴィエラ殿の案内に従って、ラグサの裏道を進んでいく。


 彼女が足を止めたのは、メインストリートの裏にある小料理屋の前だった。


「ここのパスタが上品でおいしいんだ。ごはんはまだ食べていないんだろう?」

「はい。しかし、自分の分は自分で支払います」

「ふふ、そう言うな。冒険者の先輩として、わたしにごちそうさせてくれ」


 店の中は丸い食卓が並ぶ大衆的なふんいきだ。


 席を埋めているのはラグサの住人か。それとも冒険者たちか。


 にぎやかで料理が香るこの空気にひさしく触れていなかった。


 オリヴィエラ殿の馴染みの店だからか、奥の個室を借りることができるようだった。


「この前、活きのいい新入りが二名、うちのギルドに入ったんだ。お前にも紹介したかったな」


 席に着いて、オリヴィエラ殿が朗らかに言った。


「新入りということは、新米の冒険者ですか?」

「いや、ふたりとも別のギルドにいた熟練の冒険者だ。ひとりはお前のように屈強な者で、もうひとりは頭がまわるタイプだった」

「それはまた、たのもしい者たちですね」

「ふたりとも訳ありのようだったが、当てがなくて困窮していたようだったから、ギルドの入団を特別に許可した。お前に紹介できるタイミングがあるかもしれないな」


 オリヴィエラ殿は、ふところがかなり広い方のようだ。


「雑談はこのくらいで終わりにしよう。お前がわたしに会いに来た理由を聞こうか」

「はい。ヴァレンツァのジェレミア国王陛下から依頼を受けまして、とある調査の協力を仰ぎたいのです」


 陛下という言葉を聞いて、余裕のあったオリヴィエラ殿の表情が変わった。


「陛下から、直々の依頼を受けているのか」

「はい。幸運ながら陛下とご縁がありまして、わたしは陛下の下で任務を遂行しています」

「それは、すごいな……」


 コンコンとノックされて、料理がはこばれてきた。


 近隣の街から取り寄せた食材をふんだんに使ったパスタとサラダだ。


 オリーブオイルが利いたグリーンサラダは味がしっかりついていて、舌を心地よく刺激してくれる。


「アズヴェルド様も人智を超えた方だったが、お前はどうやらそれ以上だったようだ。アズヴェルド様でも、さすがに陛下から仕事を受けていなかった」

「ヴァールの討伐後に陛下とご縁があっただけです。大したことはしておりません」

「充分すぎるほど、大したことだと思うがな……」


 オリヴィエラ殿もグリーンサラダに手をつけて、「うん、おいしい」とつぶやいた。


「とある調査とは、どのようなものだ?」

「古代文明の調査です。この地でかつて栄華を築いたといわれる預言士と、超文明に関する調査を行ってほしいのです」

「古代文明の調査か。戦闘系の依頼であれば簡単であったが、これはまた難しそうな依頼だな」

「はい。わたしの臣下はサルンにいるのですが、北のアルビオネを警戒しなければいけないので、人手が割けない状態なのです。

 今回、無理を承知の上で夢幻とオリヴィエラ殿を尋ねました。わたしの依頼を断ったからといって、陛下から罰を下されるようなことはありません。しかし、どうかお力添えをいただきたく存じます」


 陛下から直々に下された依頼なのだから、難色をしめすのは当然だ。


 オリヴィエラ殿は食器を手に取ることも忘れ、次の言葉を探しているようだった。


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