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第157話 預言士と超文明の記憶が眠る場所は

 預言士はすぐれた種族であったが、人間たちを奴隷のようにあつかっていた。


 そんな、非道な者たちの血を俺は引いているのか……。


 決して、容認できない話だ。


 人間たちを利用したくないと考える預言士たちも、きっといたはずだ。


「預言士たちは預言石という不思議な物質をつくり出して、人間や魔族の力を引き出していたようだ」


 シモン殿に誘われて、屋敷の裏庭へもどった。


 シモン殿がしゃがみ、足もとの雑草をさわりながら言った。


「預言石はわしもほとんど見たことがないが、紫水晶アメシストのような、紫色にかがやく石だ。預言士たちはよくわからん方法で、この奇妙な石をつくり出していたらしい」

「はい。存じ上げております」

「預言石らしきものはこの国でもまれに出土するが、アクイアの支配者たちが残していった遺物なのだろう。地下に眠る預言石に影響されれば、近くの動植物が暴走しそうじゃがな」


 預言石は、預言士が使わなくても能力を発動させられるのか。


「預言石は、ヒルデブランドがいくつかもっていました。俺は以前に北西部のプルチアにいましたが、プルチアでも預言石を見ました」

「なにっ。それは本当か!?」


 シモン殿が起き上がって、俺に抱きつくように近づいた。


「はい。プルチアの鉱脈をさがしに山間をわたり歩いたのですが、ある鉱山の奥で預言石と思われる物質がうごいていたのです」

「なんと……! そんな名も知れない場所に、預言士の遺物が残されていたのか」

「プルチアの預言石は、鉱石の魔物を生みだしていました。俺はそれが預言石だと知らず、仲間たちを守るために破壊してしまったのですが……あの力は非常に厄介でした」

「そうじゃろう、そうじゃろう。預言石は預言士のありあまる力の一端を封じ込めた石にすぎないが、そんな矮小わいしょうな物質ひとつだけで、人間たちに大きな影響をあたえる。

 やはり、預言士の力は計り知れない。預言石が悪さをはたらくところを、わしも見てみたかったぞ……!」


 預言石に興味をもつのはいいが、預言石の暴走をよろこんではいけないだろう。


「ヒルデブランドは預言石を悪用し、炎の巨大な悪魔を生みだしたり、または戦場で亡霊と化した者たちをあやつっていました。炎や亡霊にも、潜在力というものは備わっているものなのでしょうか」

「ふーむ。そのあたりの原理までは、わしにもわからん。生物学的なものは専門外じゃからな。だが、わしが思うに、潜在力というものはあらゆる物質がもっているものなのかもしれん。

 そうでなければ、きみがこれまで体験した出来事に説明がつかん」


 その通りだ。しかし、この議論はここでしても無駄になるかもしれない。


「預言石は預言士が残したすばらしい物質だが、地中に埋めておくのは惜しい。それに、近隣の環境を破壊する元凶にもなり得る。

 悪人に利用された例もあるから、ただちに回収した方がよいだろう」

「ええ。しかし、預言石はどこにあるのか……」

「ふむ。それはむずかしいな。だが、考えられるとしたら、きみが以前に見た場所か、アクイアの遺跡の地下にたくさん眠っていることだろう」


 俺が以前に見た場所は、プルチアのことだな。


「プルチアは遠いですが、行ってみる価値はありますね。それと、アクイアの遺跡というのは、どこにあるのですか」

「アクイアの遺跡は、この国の東にある。たしか、パライアという場所じゃ」


 パライアは、この前の戦いで足をふみ入れた場所ではないか!


「パライアの南に、屈強なガーディアンどもが守る遺跡があるのだ。あそこをどうしても調べたいのじゃが、ガーディアンどもが怖くてな。近づけんのだ」


 屈強なガーディアンたちが守る遺跡!


「そこは、もしかしたら以前に行ったことがあるかもしれません」

「なんと! ならば、話は早いではないかっ。そこに行けば……と思ったが、きみでもあそこはさすがに危険か」


 遺跡を守るあのガーディアンたちは、ヴァールアクスでも破壊しきれなかった。


 なんとか調査を進めたいが……。


 ビビアナはひとり、きょとんと首をかしげているだけだった。


「ビビアナ。アクイアの遺跡は、きみも知っているだろう」

「え……っと、わたしが、ですか?」

「きみとラヴァルーサから逃げるときに立ち寄った遺跡だ。ほら、水がほしくて立ち寄った――」

「ああっ! ありましたねっ」


 ビビアナが得心して、何度もうなずいた。


「あの遺跡が、預言士さんの遺跡だったんですねぇ」

「そうだな。普通の遺跡ではないと思っていたが」

「あの、まさかと思うのですが、あそこにまた行くわけじゃないですよね?」


 おそるおそる尋ねるビビアナを見て、シモン殿が嫌らしく顔をゆがめた。


「そのまさかじゃ!」

「えっ……ええ!」


 いや。あの遺跡に行くのは危険だろう。


「喜ぶがいい。預言士のすばらしい秘密を掘り当てたら、きみも歴史の偉人の仲間入りじゃ!」

「い、いやです! そんなのつ」

「これ、歴史の偉人になりたくないとは何事か! 預言士のすばらしい秘密を掘り当てれば、陛下からもお褒めの――」

「そんなのはシモンさまがやってくださいっ。あんな怖いところに行きたくないです!」


 ビビアナのこの反応が普通だ。


「シモン殿。あの遺跡は危険です。プルチアを調べるのが最善だと考えます」

「ふん、だらしがないのう。時は待ってくれんのだぞ。きみたちがそうやってのんびりしてたら、他のやつらに遺跡を掘り起こされてしまうかもしれないのだぞ!」


 たしか、「そんなに生き急ぐな」とシモン殿から先ほど言われたばかりだが……。


「困りましたな。俺とビビアナのふたりだけでは、どんなに急いでも調査に時間がかかります」

「きみは、この国でも有名な男なのじゃろう。それなのに、助けてくれる者がひとりもおらんのかね?」

「サルンに臣下を残していますが、アルビオネの動向が気がかりですので、呼び出すことができないのです。ベルトランド殿にたのむとしても、前に大規模な戦いを終えたばかり。兵を借りるのはむずかしいでしょう」

「む、むむぅ」


 シモン殿が苦々しい表情を浮かべた。


「せっかく、超文明を調べられると思ったのに……」

「ひとつの場所を調べるだけで、いいと思うんですけど」


 ビビアナがぼそりとつぶやくと、シモン殿が目を大きく見開いた。


「きみはそれでも騎士かっ。陛下のために、この国を発展させたいと思わんのか!」

「わ! 急に、叫ばないでくださいっ」

「こんなだから、最近の騎士どもはたるんどると言われるのだ。いっぱしの騎士を気取りたければ、もう少ししゃきっとせぇ!」

「は、はい……」


 ビビアナが、そっと俺の陰に隠れた。



  * * *



 陽が落ちて、ヴァレンツァの別宅にビビアナと引き返した。


 ビビアナはロビーに着くなり、ソファにどさりと尻を下ろした。


「はぁ。なんだか、大変なことになっちゃいましたね……」

「そうだな」


 預言士の調査は簡単ではないと思っていたが、プルチアにまた行くことになるとは思っていなかった。


「うすうす、嫌な予感はしてたんですよね。無理難題を押しつけられるんじゃないかと、思いまして」

「そう言うな。騎士の修行は平坦ではない。これも修行の一環だと思えば、楽しいと感じるだろう」


 ビビアナがなぜか、呆れたような目で俺を見やった。


「グラートさまって、どんな労働にも耐えられるんですね。うらやましいです」

「妙なことを言うやつだな。俺だって、やりたくない仕事や労働はあるさ」

「そうなんですかぁ」

「そうだ。民や弱い者と戦いたくないし、犯罪に手を染めるようなこともしたくない。だが、人が喜ぶことであれば、どのような作業でも楽しさを見いだせるだろう」

「そうなんですかね」


 俺の思いを伝えてみたが、彼女には伝わらなかったようだ。


「それに、プルチアには知り合いがいる。彼らに会いに行くのは、とても楽しみだ」


 プルチアで酒を酌み交わした流人たちに、テオフィロ殿。


 連絡はあれからとれていないが、彼らは達者でくらしていることだろう。


「それは、楽しみですね」

「プルチアは国外の遠い流刑地であったが、金や貴重な資源が発見されてから王家の直轄地として編入されたはずだ。遠い場所ではあるが、陛下の許可をいただければ、だれでも入ることができるはずだ」

「そうなんですねぇ」


 ビビアナが茫然と聞いていたが、


「流刑地って……グラートさまって、そんな場所にいたんですか」


 俺がかつて冤罪で捕まっていたことを知らなかったのか。


「そうだ。俺はかつて、宮廷の人間にはめられて流刑地に流されたのだ」

「えっ……ええ! そうだったんですかっ」

「きみには話していなかったな。俺は無実の罪を着せられていただけで、その事実は陛下もお認めになられているから、安心してくれ」

「そ、そうだったんですねぇ。びっくりしました」


 知人がかつて流刑地に流された犯罪人だったと知れば、だれでも驚くだろう。


「グラートさまは、犯罪なんて無縁な方ですよね」

「もちろんだ。人を殺したり、物を盗んだりはしない」

「ですよね。グラートさまは、立派な方ですから」


 そう言ってもらえると、うれしいな。


「でも、どうするんですか。シモン様は、別の場所も探したいみたいでしたけど」

「俺ときみのふたりだけで探すのは非効率だと思うが、シルヴィオやジルダは呼べないのだから、仕方がないだろう」

「そうですよね。アゴスティの方にたのむわけにはいかないし。他にツテがあれば、いいんですけど」


 他にツテがあれば……か。


 俺が冒険者だった頃の知り合いにたのむか?


「ツテ……ツテ、か」

「さっきから、何を言ってるんですかぁ」

「きみは、いいことを言った。サルンの者たちでなく、ベルトランド殿や宮廷の関係者でもない者たちのツテがあるかもしれない」


 ビビアナはぽかんと口を開けて、俺の言葉に当惑しているようだった。


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