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第154話 敵が侵入する訳、預言士の手がかりをもつ者とは

 陽が暮れて、川の近くを探して野宿をすることにした。


 名のない小川はゆるやかに流れて、サルンの土地をうるおしてくれる。


「こんなところで、寝泊まりしてもだいじょうぶでしょうか」


 ビビアナが焚き火に手を向けながら言う。


「アルビオネの魔物が近くにいるかもしれない。警戒をゆるめない方がいいな」

「先を急いじゃった方が、いいと思うんですけど」

「そうしたいところだが、夜道は危険だ。それに、馬も休めなければならない」


 馬を走らせれば、当然ながら休ませる必要がある。


 馬を乗りつぶしてしまったら、ヴァレンツァまで徒歩で移動しなければならない。


「そう、ですね」

「火急の用ではない。一歩ずつ、確実に進んでいこう」

「はい、わかりました」


 それにしても、先ほど遭遇した魔物たちが気がかりだ。


「グラートさま。敵国の魔物って、よく侵入してくるんですか」

「先ほどの、アルビオネの魔物たちのことか?」

「は、はい。アル、ビ……って、敵国の種族の名前ですか?」


 ビビアナにアルビオネのことを話していなかったか。


「アルビオネはサルンの北にある大国だ。サルンとヴァレンツァは、むかしから何度もアルビオネに攻撃されているのだ」

「ああっ! そうだったんですね」

「アルビオネは魔族が治める国だ。ゆえに、俺たち人間と相容れない。前に俺がアルビオネの王を倒したから、やつらは俺を恐れて攻めてこないが、やつらが南下を開始するのは時間の問題だ」


 アルビオネの動向はつねに探っているが、表立った動きはいまだに見えない。


「じゃあ、さっきの人たちがいたのって……」

「そうだ。アルビオネの斥候や間諜である可能性が高い」


 アルビオネの軍は、もうじき動きはじめるのか……。


「や、やばいじゃないですか! こんなことしてて、いいんですかっ」

「よくはないが、サルンもカタリアの関所も常に警備されている。アルビオネが今すぐ南下をはじめたからといって、ここがすぐに火の海になるわけではない」

「そ、そうなんですね」


 ビビアナが、しきりにまばたきをしていた。


「遠いアゴスティから来たきみは、サルンやヴァレンツァの土地柄はわからないだろう。北のアルビオネと南のヴァレンツァの間には、三つの堅牢な関所が建てられているのだ」

「は、はい」

「関所は北からカタリア、サルン、クレモナという。アルビオネの度重なる侵攻を阻止するために、宮廷が多額の防衛費を割り当てて関所を管理しているのだ。国も、しっかりとアルビオネの対策をしているのだ」


 三つの関所に守られている限り、ヴァレンツァと宮殿が落とされることはない。


「関所にくわえ、カタリアの要塞も新たに建設されたという。よって、アルビオネの魔物たちはすぐにサルンとヴァレンツァへ攻めてこられない。安心するのだ」

「は、はいっ」


 カタリアの要塞は建造がおわったというが、どのような要塞なのか。


「そんなにしっかりと守られてるのに、アル……ビ、オネ? の魔物が王国の土地に入ってこれるんですか?」


 ビビアナが目をしばたきながら、するどい質問を投げかけた。


「関所や要塞の守兵が警備するのは、街道とその周辺だけだ。街道のまわりには、抜け道がたくさんあるのだ」

「えっ、そうなんですかっ」

「ああ。サルンやヴァレンツァの郊外にも山が多いからな。道と呼べないような場所から、魔物やならず者たちがサルンやヴァレンツァへ侵入してくるのだ」


 この魔物の侵入は、宮廷でも問題視されている。


 しかし、警備を単に厚くするだけでは根本的な対策にならない。とてもむずかしい課題だ。


「この土地も、大変なんですね……」

「そうだな。アゴスティやフォルキアのように食糧難に襲われることはないが、この土地ならではの悩みがある。簡単に統治できる場所はないのだ」

「そう、ですね。スカルピオ様に支援をおねがいしたいですけど、アゴスティもまだ復旧作業の真っただ中ですし……」

「アゴスティやフォルキアには、とてもたのめない。ヴァレンツァに危機がおとずれたときは、西や南の諸国にたすけを求めるしかないだろうな」


 俺の脳裏に、ブラックドラゴン・ヴァールとの戦いが思い起こされる。


 彼と死闘を繰り広げたのは、このあたりだったか。


 ヴァールが破壊した土地の大半は、いまだに放逐されている。


 土地の修復をしたいが、時間も人手も確保することはむずかしいか。



  * * *



 クレモナの関所を越えて、陽が落ちる前にヴァレンツァへ到着した。


 宮殿へ登庁し、ベルトランド殿に面会をもとめた。


「グラート、よく来てくれた! 急に呼び出して、すまなかったな」


 ベルトランド殿はすぐに顔を出してくれた。


 騎士らしい整った顔立ちは、今日も疲れの色を感じさせない。


「おひさしぶりです。陛下から以前に説明をいただいておりましたから、心構えはできておりました」

「うむ。ドラスレ祭りで陛下が話されていたのだな。わたしはドラスレ祭りに参加できなくて、すまなかった」


 ベルトランド殿が口もとをゆるめる。


「ドラスレ祭りでも、お前はとんでもないパフォーマンスを披露したようだな。陛下がおよろこびであったぞ!」

「よしてください。斧をただ怪力で飛ばしただけですから」

「謙遜するな! お前のその偉大な力が、我が国と陛下を守っているのだ。充分に誇っていい能力と才能だっ」


 陛下とベルトランド殿には、頭が上がらないな。


 ビビアナは俺の後ろで縮こまっていた。


 ベルトランド殿も彼女の存在に気づいて、


「おや。きみは……どこかで見たことがあるな」


 そっと声をかけたが、ビビアナは委縮するばかりだった。


「彼女はビビアナです。アゴスティの、スカルピオ殿の従者です」

「ああ! アゴスティの……この前の東伐で従軍していたのか」

「はい。あの後、わたしとスカルピオ殿で話をしまして、この子をしばらくサルンで預かることにしたのです。ベルトランド様もどうか、彼女に目をかけてやってください」


 ベルトランド殿がビビアナと握手をかわして、宮殿の奥へと俺たちを案内した。


 使われていない会議室を探して、くわしい話を聞くことにした。


「要件はもうわかっていると思うが、預言士と預言石について、調べてほしいのだ」

「はい」

「預言士を探して、ヒルデブランドのような犯罪予備軍を摘出することが理由のひとつ。もうひとつは、預言士と預言石がもつ力を解析して、我が国のために役立てたいのだ」


 ベルトランド殿は、自分の思いを包み隠さずに話してくれる。


「宮廷の他の者たちにも依頼はしている。しかし、預言士と預言石のことは、ヒルデブランドと戦ったお前が最も精通しているだろう。だから、力を貸してほしいのだ」

「無論です。ヴァレダ・アレシアの未来のために、この力を尽くしましょう」

「ありがとう。この前の東伐が終わったばかりなのに、苦労ばかりかけてすまないな」


 ベルトランド殿も忙しい身だ。余計な苦労はかけたくない。


「預言士と預言石の調査をするのはいいとして、どのように調査をすればよろしいでしょう? わたしは戦うことしか能のない人間。古代人や古代遺跡の調査をするのは専門外ですぞ」

「あのサルヴァオーネを政争で追い出したお前が、戦うだけの人間だとは思えないがな。いや、冗談はいい。預言士と預言石について、以前から調べている方が宮廷にいるのだ」


 なんと!


「そんな方がいたのですか」

「うむ。考古学を専門に取り扱っている方だから、預言士と預言石だけに精通しているわけではないが、お前をサポートしてくれるだろう」

「その方は、どなたですか」

「侍従長のシモンチェリ殿だ」


 侍従長……陛下の側近か。


「シモン殿は学者だから……まぁ、変わった方ではあるが、考古学において右に出る者はいないだろう。今日はもう遅い。面会の予約を入れておくから、日を改めてシモン殿の屋敷を訪ねてくれ」

「は。シモン殿を訪問し、指示を仰ぎます」

「うむ。たのんだぞ」


 俺の先祖にまた、近づこうとしている。


 預言士は俺にどのような影響をもたらすのか。


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